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10話 料理人とメイドは王様の恋愛相談を受けました!(1)

「さて……こうして遥々ここまで来てもらって恐縮だが。私は君たちの正体を知っている」

「えっ、」


 玉座に着いた青年王は、料理人とメイドの格好をした二人を見て一言目にそう言った。


 花咲く村での一件から二日後、王都に二人が来日して直ぐ、彼らは玉座の間に連れて行かれた。

 例の村で出会った大臣は城の外までは付き添ってくれたが、ここから先はお二人で、と丁寧に頭を下げてから下がってしまった。故に、正真正銘二人きりでの謁見である。見ている者は、王と、兵士たちだけ。


 その場で、王は肘を着き、唇を笑ませて言った。


「隣国で指名手配されている勇者、そして聖女。玉座の間でクラスチェンジをやらかしたと聞いたぞ、何たる蛮勇か。」

「ライメールの陛下は情報通なようで……」

「ふふ、世辞は聞き飽きているが、悔しげな表情は良いぞ。……さて、私が言いたいのはこうだ。私の頼みを、一つ聞いてほしい」


 聞かなければ分かるな。という一言を言外に含ませて、美しい金髪の青年王は瞳を細めた。

 隣でアストレアがぐっと押し黙る。ここで元の国に通報されれば、この国でも追われ続けることになるだろう。


「……聞かない場合は、」

「その場合は仕方ない。隣国にお前たちの来訪を伝えよう」

「く……」

「それで、返事は」

「……お受けします」


 それ以外返事を奪っておいて何を。と内心でユーリィは思ったが、黙っていた。

 王は満足気に頷く。まだ若いながらに、この貿易で成り立つ海の国を支える支配者の貫禄。

 ……その貫禄を纏ったままに、彼は言った。


「では……私の恋愛相談を受けてほしいのだが」

「………はい?」

「恋愛相談を受けてほしいのだが」







「我が婚約者の、クリスティーナの事だ。……我が王妃は年齢がまだ若くてな。私と十も離れている。彼女は十四歳だ、その年頃の少女が何を好きなのか……オレ……いや、私には全くわからず……そもそも彼女は私の事が嫌いなように見えて……」


 王様、途中で素の口調が出てますよ。

 思ったより深刻な隣国の恋愛ぶっちゃけ話を聞かされて、勇者は真顔になっていた。

 文字通り頭を抱えて呻いていた王が顔を上げる。びしっ、と指先を突きつけられた。


「……そこで、だ。お前たちはクラスチェンジしても能力が高いと聞く。……メイドと料理人として、この状況の解決に力を貸してほしいのだが」

「どうしろと……」

「……その。彼女の考えている事を聞き出して……彼女と私が……一緒に楽しめるような料理を作ってほしい。そうすれば、お前たちのことは隣国の王には黙っておいてやろう」


 彼は気まずそうにそっぽを向いて、ぼそぼそと言った。

 でも、同じ男としてなんとなく分からなくもないな。と思う。ちら、と横を見ると、アストレアは興味津々な顔で話に聞き入っていた。

 これなら任せて大丈夫か。


「分かりました、では、ええと……俺は陛下から彼女についてのお話をお聞きしたいです。実際に彼女と話すのは……」

「わたし?」

「ああ、レアはおんなじ女の子だし。とりあえず最初は任されてくれないか」

「うん、ユーリィ。皇女様が陛下をどう思っているか、聞いて……」




「アシュリー様?」




 三人の密やかな恋愛相談(という名前の密談)は、突然の来訪者によって中断された。


「クリスティーナ!」


 赤い髪を綺麗に巻いて、美しいドレスを纏った姫君が、玉座の間に踏み込んできた。

 砂糖菓子のような白いドレスは花のよう。布で作られた造花の薔薇はその可憐さを一層引き立てて可愛らしいが、アシュリー王に比べるとその少女は明らかに幼かった。


「どっ、どどどどうしたのだクリスティーナ!?お前が自ら私の前に出向くなど」

「勘違いなさらないでくださいっ、陛下に逢いに来たわけではありませんの!」


 一刀両断。可愛らしい声で切り捨てられて、王の顔が固まる。

(お姫様きっついぜ……)

 呟いたユーリィに、アストレアはちょっと首を傾けてみせた。

(……そうかな?)

(そうだろ?)

(ん……実の所そんな事はなさそうだけど)

 そうなんだろうか。

 内緒話をしている勇者と聖女のところに優雅な仕草でよってきた姫君は、そっとドレスを摘んで一礼した。


「お初にお目にかかります、異国の方。普段人嫌いの陛下が、お客人を玉座の間に私的にお招きしたと聞いてご挨拶に伺いました……王妃のクリスティーナです。陛下から何か、お話をされていらっしゃったようですが……ご無礼などはありませんでしたか?」

「ええ、何も」


 アストレアが微笑んで答える。彼女は姫に近寄ると、そっと背を屈めて視線を合わせて見せた。

 優しい笑顔と、甘い声。それから、誰にでも柔らかく接する態度。それがどんな姿であっても、時折彼女を聖女に見せる。


「陛下からは、王妃様と仲良くしてほしいと仰せつかりました。よろしければ、お話を致しませんか?異国のお話などをお聞かせいたしましょう」

「まあ、本当ですか……!それにしても、その気品と美しさ……使用人の格好はしていらっしゃるけれど、どこかの姫なのではなくて?わたくし、そういうのには詳しいんですのよ!」


 どういうのだろう。

 とユーリィは思ったが黙っていた。男二人を完全に帳の外にして、少女二人は盛り上がっている。そのまま王妃がアストレアを連れて出ていきそうな雰囲気だったので、ユーリィはちらりと王を見た。促された事に気がついたのか、アシュリー王は頷く。


「えー、あー……良い、王妃よ。客人殿が良いと申されるのなら部屋で話でもするがいい。後から、茶葉と菓子を運ばせよう」

「結構ですわ!お客人には私が、良い茶葉とお菓子を容易いたします。陛下はどうぞごゆるりと」


 取り付く島もない。


「じゃあ、あとでねユーリィ」

「おう……楽しんでこいよ」


 久々に同い年くらいの女の子と一緒なわけだし。

 そう言って、二人を見送った後で、ユーリィは玉座に目を戻した。


 王が魂が抜けたような顔で玉座にもたれていた。イケメンが台無しだ。


「陛下、顔、顔!」

「あっ、ああ……見ての通りなのだ。どうしたらクリスティーナに好かれるのか、全く分からん……勇者殿、貴方は結婚しているのだろう」


 唐突に自分の事に話を振られて勇者は動揺した。


「え!?」

「ん?聖女殿とは夫婦では……?」

「いやまだ!何も!」

「なんだと……?」

「そもそもレアがどこまで許してくれてるのか分かんなくて何もしてないですし!」

「なに……」

「嫁宣言は許してもらえてますけど、それだけで」

「仲睦まじいではないか!羨ましい!勇者よ、期限を切るぞ!4日だ、4日以内にオレとクリスティーナが仲睦まじくなれるような料理を用意せよ!」

「理不尽!!!!」


 半ば八つ当たりされて、勇者は全力でツッコミを入れた。

王都に着くなり王様の突然の相談に巻き込まれます。前後編になります、よろしくお願いします。

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