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高校を出てから、私はありがたいことに大学に進ませてもらいました。
四年間、大好きな分野を研究できたこと、その時間は、私の宝物です。
大学は遠方でしたが、家から通っていました。
妹たちに、遠くて行かないでね、と念をおされたのと、私も妹たちを残して家をあけるのが気が引けたからです。
授業のある日はだいたい朝早く出て夜帰っていましたが…
代わりに日中家にいられる日も作れるよう授業を組んで、その休日にはできるだけ家に長くいるようにしていました。
そうはいっても高校の頃よりは家に居る時間がぐんと短かったから、どこかほっとしつつも、罪悪感を感じていました。
私が家にいない時間が増えると、父は私に言いました。
「逃げられていいな」と。
…この頃になると母は父にも感情をぶつけるようになっていて、家族と板挟みの父は疲弊してげんなりしていました。
そんな父にとって、私は自由に見えたのでしょう。
…父の発言に少しめまいを感じながらも、私はレポートや論文作成を楽しんでいました。
大学にはクラスもなく人付き合いに疲れることもなくて、それが私をらくにしてくれました。
好きなことをとことん学べる…研究の楽しさとやりがいに触れて、高校までは苦痛だった勉強は、好きなことに変わりました。
決められた枠がない、学びたい分野を突き詰められる…
その理想的な環境は、まるで楽園そのものでした。
色んな場所の書庫や図書館を歩き回り、資料を集めて本に埋もれて…
そんな時間は、余計なことも考えずにすんで、楽しくて、ただ面白くて。
学ぶことはこんなに楽しかったんだと、初めて知りました。
この時期は高校時代以上に創作活動にも全力投球していて、趣味を同じくする友人にも出会えたり…
ほどよい距離感で接してくれる友人たちに、居心地のよさを感じていました。
だいたい一匹狼風味な友人たちだったので各々束縛がなかった、それが過ごしやすさを与えてくれていました。
…四年は、あっという間に過ぎていきました。