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当時…母を死なせてしまったのは、私の迂闊さだと思ってた。


母の推定命日にも、私は一度母に電話をしていました。


繋がらない電話…きっとどこか出かけていて、電話とれないんだろうなー。


それくらいにしか考えていなくて、そのうち何日かしたら折り返しかかってくるかなとか、のんびりしていたんです。


まさか死んでるなんて、思わなかった。


…それから二日後の夜、なんだか胸がざわざわした私は妹たちからも母に連絡してもらって、反応を待ちました。


妹たちからも、通じないよ、とかえってきて。


次の朝、私は母の家に向かいました。

母は、母の姉と絶縁したり戻ったりを繰り返していて(主に母の姉の気分による)…遠方の姉の家に行く時は私たちにも知らせなかったんです。

色々心配かけるから、って。


その日、母のアパートの駐車場には母の車があって。


きっと、きっとお姉さんの家に…きっと。


私は嫌な予感を振り払うように、母の住む階へ…


そして、たまっている三日分の新聞が無造作に置かれているのを見つけて。


念のためにと大家さんから借りたマスターキーを、鍵穴に差し込み、回して…


内側から、ドア止めがかかっていることを目の当たりにして…


嫌に早くなる鼓動のままに、家の中に向かって大きな声をかけました。


「お母さん!」


声は、ただ響いただけで。


歯を食いしばって母の携帯電話番号にコールすると、案の定、中から着信音がかすかに聞こえてきました。


大家さんも少しの間待機してくれている中、私は消防と警察に電話して、駆けつけてくれた方々にドア止めを壊してもらいます。


私より先に中に入った若い警官の一人が、ゆっくりと話してくれました。


「亡くなられてます、これから調査に入りますが、その前に少しだけなら…」


家具に触れたり状況を動かさないことを条件に、私は少しだけ中を見せてもらいました。


……倒れた母の姿と、状況を目に焼き付けた私は、その後家の外の通路で待機しながら、けっこう長い時間質問に答え続けて…


状況検分が終わって、だいたいのかたが帰ってから家族が駆けつけてくれるまでの少しの間、外の景色をぼーっと眺めていました。


検査でおそらくはくも膜下とはわかったものの、もっと詳しく調べるか…解剖するかの選択肢は私に委ねられましたが(医師に時間がなくて、30秒くらいで決めました)、私は「このまま、綺麗なままに…」と答えました。


それでよかったのか、詳しく調べたらまだ何かわかったんじゃないか…

今でも少しだけ揺らぎます。


でも、ただ静かに休ませてあげたかった。

優しい花に囲まれて棺に眠る母を見送った時に、これでよかったのかな…と、静かに思っていました。


…母の家の状況を見れば、母が急に体調を崩し息を引き取ったことは、誰の目にも明らかでした。

詳しくは書けませんが…その状況を直に見たのが私だけで、よかったかなと思っています(帰り際に警察のかたが丁寧に片付けたり母をベッドに寝かせたりしてくれました…ありがたいです)。


…母の死を連絡したら、母の姉は駆けつけてくれましたが…

それからことあるごとに「そばに住んでいたのに、どうして気付けなかったんだろうね」「私だったらすぐ気付くのに」と畳み掛けられてしまって、ちょっとげんなりしていました(苦笑)


私のせいだ、って、思ってましたが…

その時に、こうした言葉をいただくと、ますます確信になってしまって。


……ある時気付いたら、とある建物の屋上近くの消防装置の角におもいっきり膝をぶつけていて。

痛みで現実に戻ると、一歩手前には地面まで何の障害もない吹き抜けが迫っていたんです。


一歩…

その一歩を前にして、私は呻きました。


罪悪感に潰されそうで、もう消えてしまいたかった。

でも、臆病で。

冷静になればなるほどに、足が動かなくて。


苦しい

助けて

らくになりたい

らくになんてなれない


生きなきゃ。

生きたくない。

もう何も聞きたくない

だけど…


…私は少し呼吸を整えた後、笑顔で家に帰りました。


また何もないところで転んじゃったと、けらけら笑って。


部屋の鍵をしめて、膝を抱えて、少しの間目を閉じていました。




――このことは後々、妹に気付かれて頬に一発ずつくらいましたが…


ごめん、本当に。


もう二度と、君たちを傷つけるようなことはしない。


…私は、ちゃんと生きるから…。

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