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俺の直接打撃によって再度涙目になった犬耳娘を尻目に、クッションをストレージに仕舞いこんで休憩場所を出る。
ストレージを使用している場面を見られても良い物かどうか……少々迷ったのだが。
このままコイツのご主人様の所に付き合って手助けしてやる予定なのだし、結局薬を取り出したときに見られる事を前提に考えると、別に良いかなと云う考えに辿り着いた。
目の前でストレージに収納され消えて無くなったクッションを見て、俺の後ろにピッタリと張り付きながら『空間魔法ですか!? 凄いです!』と瞳をキラキラさせながら見つめて来る犬耳娘。
いや、多分これは魔法というより能力に近い物なんだと思うんだが。
まぁ説明するのも面倒なので誤解させたままで良いか。
ゲームだのデータだの言い含めてもコイツには判らないだろうし。
目の前でストレージを使用して何も無い空間からカロリーバーを取り出し、俺の周囲をチョロチョロと移動しまくっている犬耳娘の口に的確な角度で投入してやる。いい加減落ち着け。
むごぉ! という唸り声と共に漸く動きを止める犬耳娘。
はっはっは、美味しく携帯食を食べて口の中の水分を奪われるがいい。
口のパサ付き具合に悶絶している犬耳娘の事は取り合えず見なかった事にして、これからどっちに向かえば良いのかを問いかける。
「むごごごご! え、えっとこちらです!」
「水筒とか水入り袋とか魔法で水を出すとか、そういった感じのアレは無いのか?」
「魔法は苦手で身体強化しか出来ないです! お水はご主人様にお渡ししてありますので無いです!」
もにゅもにゅと口を動かしていた犬耳娘が、何故か判らんが誇らしげに胸を張って俺に告げてきた。
いやいや、幾らなんでも飲み水くらいは所持した状態じゃないとマズイだろ。
ストレージの中からコチラに来てからまだ飲んだ事のない、スタミナ回復効果のあるミックスジュースを取り出して、犬耳娘に味見というか毒見を頼んでみることにした。
こちらはビンではなく紙パックに封入された状態で出てきた。
あー、ゲームのアイコン表示そのままの形状なんだな。ストローまでちゃんと付いてる。
ちゃんとストローをパックにブッ刺して犬耳娘の口に突っ込んでやる。
「ほれ、吸ってみろ」
「んぇ? ムチュー……お、美味しいですこれ!」
ふむ、良かった良かった……ちゃんと飲める物みたいだな。
緊張感も何もない和やかな状態で、二人ワイワイやりつつ森の中を進んでいく。
そんな状況だが、しっかりと周囲に聞き耳を立てながら移動してはいる。
だが追撃のゴブリンが来る気配は全く無い。
コチラとしては有り難いが、何故か動物にも一切出会わないってのがちょっと気になる。
俺はその事を犬耳娘に伝えたが、何を仰っているんです? と言わんばかりに首を傾げてこっちを見てくる。
ゴブリン共が暴れたせいで付近の動物は逃げてしまったとか、そういった理由でもあるのか?
「やだなぁー! 貴女様がここに居るんですから、寄って来ないに決まってるじゃないですかぁ!」
「うん? チョット待て、何で俺のせいになるんだ?」
「それあばばばばっばばば! 視界が揺れるぅぅ!」
あんまりな物言いだったので、思わず犬耳娘の首根っこをガシっと掴んで揺さぶってしまった。
その後移動しつつ説明をしてきたコイツの言い分によると……
俺が先ほどの戦闘中にゴブリンの棍棒を蹴り飛ばしたタイミングで、同時に凄まじい威圧を全方位に放っていたという話らしい。俺は見ていないがその威圧を近くで受けた為に、犬耳娘と戦闘していたゴブリン2匹も硬直したらしい。そこをザックリやったとか。
いや……全くもって記憶にないんだが。無意識にやっちまったと言う事か?
これは後で時間があるときにでも、スキル一覧を再確認しないとマズイな。
制御の効いていない能力とか危険物以外の何物でもないぞ。
俺が犬耳娘の首根っこをグリグリ揉みしだきつつ、スキルの事について考え込みながら歩いていると、犬耳娘が俺の前でグネグネ身悶えしつつ、正面に見えてきた枯葉の積もった斜面を右手で指差す。
「むほっぬふぅ! 目的地はっあっあそこですぅ!」
「ただの斜面にしか見えないんだが、何かあるのか?」
犬耳娘が明かりを貸して欲しいと言ってきたので、俺が左手で制御しつつ持っていた光の玉を、犬耳娘の頭頂部に設置してやる。うん、神々しいな。
あれだな、ライト付属のヘルメット装着した感じに似てる。
その場のノリでやってみただけだったが結構有用な設置場所なんじゃないか。覚えておこう。
明かりを受け取った犬耳娘は斜面にすばやく近づいて、何やら地面に向かって語りかけ始めた。
よく見るとウサギの巣穴みたいな小さい穴が、枯葉に半ば埋もれた状態でそこにあった。
一体なにを始めたのか気になったので、犬耳娘の後を追って斜面に向かう。
俺が移動している最中、斜面に何やら異変が発生した。
両手で地面の枯葉をバサバサ掘り返していた犬耳娘の目の前で、先ほどのウサギの巣穴が拡大していったのだ。こりゃいったいどういう仕掛けになってるんだ?
俺に軽く目配りをした犬耳娘は、俺に向かってコッチにどうぞーといいつつ手招きをした後、まったく躊躇いもせずに中腰になってその穴の中に入って行った。
もしかして……塹壕かなにかの変わりに穴掘ってそこに隠れてたのか?
俺が後について中に入ると、粘土が勝手に動いて形を変えているかの如くに土が変形して、小さい空気穴を残し出入り口を塞いでしまった。
閉じ込められたかと思ったが、出口を塞いだ土壁は、義足で蹴り飛ばせば吹き飛ぶ程度の強度しかなさそうだ。
取り合えず脱出の事を考えるのは後にして、犬耳娘の後を追う事にしよう。
だいたい5、6メートル程進んだだろうか。急に広々とした空間に出た。
背筋を伸ばしても問題ないほどには高さもある。
すぐそこに犬耳娘の背中が見えたので其方へ近づく。
恐らくご主人様なのであろう人影が見えたので、姿を確認する事にした。
土壁に寄りかかるような状態で俺の顔を見上げていたのは、革鎧っぽい装備一式に、腰には細い剣を提げている女の人だった。
左肩と右足に結構な量の血の跡が見受けられたが、今現在は出血も止まっているようだ。
犬耳娘がご主人様の額をぬぐったり、傷の様子を確認したりと甲斐甲斐しく動いている。
容態がある程度安定しているのを確認してほっと息をついた犬耳娘が、噂のご主人様に俺の事を紹介する為か、立ち上がってこちらを振り向き、俺の右手をひいて自分の横に引っ張り出す。
「コチラの方が私のご主人様であらせられる、シュネー様ですよ!」
「あー、どうもこんばんわ、森で一服していたら突然助けを求められたのでお伺いしました」
色々とすっ飛ばしてココにいる理由だけを簡潔に述べておく。
ご主人様改めシュネーさんは、どう説明したら良い物か判らず少々困惑顔をしている俺と、会心のドヤ顔でニコニコ笑顔な犬耳娘の顔を見比べ……何かを理解したかの様に溜め息を吐くと、申し訳無さそうな笑顔を浮かべつつ俺に声をかけてきた。
「どうやらこの子が強引に巻き込んでしまった様で……借りは何かしらの形で必ずお返しいたします」
「あー……いや、気にしないでくれて良いよ、俺にも一応だが思惑があったりする訳だし」
「……お気遣い痛み入ります」
さて、取り合えず傷の手当をパパっと終わらせてしまおう。
止血済みとはいえ酷い怪我だ、大分痛みもあるだろう。
俺はストレージから中位ポーションを取り出すと、シュネーさんの右手に握らせる。
「まぁなんだ、初対面の相手から受け取った怪しい薬を何も疑わず信用しろ、とは流石に言えないんで……俺の事を多少でも信用してくれるなら、それを飲んでくれ」
「ご主人様! 私の左足もお薬で治していただいたんですよ!」
俺が真剣な顔でシュネーさんに提案している横で、雰囲気を台無しにするホンワカ空気を発しつつ、ビシビシと自分の左足を叩いている犬耳娘。
こちとら大事な話してんだから落ち着けこのヤロウ。
少々ムカついたので犬耳娘の鼻を摘んでやる。
俺からの急な攻撃に怯み、ふごごご! と唸りつつ涙目になった犬耳娘。
さて真剣な話にもどらねば、とシュネーさんの方に顔を向けると、躊躇いもせず中位ポーションのビンを開封し、中身を全部飲み干している場面に出くわした。
……思い切りの良い人だな。控えめに言っても俺って存在は相当怪しいと思うんだが。
数秒後、傷の痛みが消えた様で、驚いた表情を浮かべて血の跡が付いている場所を擦っているシュネーさん。
ふぅ……これで一応は面目を保てたかな?
偉そうな事並べ立てといて実際は役に立てなかった、なんて事になってたら、恥ずかしさと申し訳なさの余り、地面をのた打ち回って悶絶必至だ。
喩えるなら、ゲームキャラ作成のために色々と書き記した、個人的黒歴史ノートを見られた場合と同じ位の恥ずか死をする自信がある。