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俺が横にたどり着いても全く泣き止む気配のない犬耳娘。
泣いている女の子に話しかけて涙を止める、そんな気の利いた方法など知る由も無い俺は、犬耳娘の頬っぺたをぎゅーっと右手で引っ張る事によって痛みを与え、物理的ショック療法を駆使して涙を止めることにする。
唐突な俺の行動に頬っぺたを擦りながら、両目をパチパチし始めた犬耳娘。
よし、取り合えず追加の涙生産はストップしたか。一応の成功としよう。
左手一本で上半身を支えた腹ばい&エビ反りの状態から、ぐるりと尻を支点に回転しつつ腰を滑らすように位置を調節して、背中を犬耳娘の右脇に押し付けて、簡易の背もたれ代わりとして使用させて貰う。
「えっと、そのあのうぇぇぇ?」
「ああ、良いからちょっとそこのパーツを俺の前に集めてくれるか」
「あっはいぃ!」
こうやってアレコレ考え始める前に、強引に適当な仕事を与えてやれば泣く暇も無いだろう。
俺の背中を支えつつ、がちゃがちゃとバラバラになった両足の義足パーツを、同じ形をした物を几帳面に揃えて俺の前に並べ始める犬耳娘。
動きづらい俺が手に取りやすいように綺麗に並べてくれているな。
さっきからの行動を見てると、大雑把な人物像を思い浮かべていたんだが……そうでもないのか。
作業しながらゴシゴシと左手で涙を拭いていたので、なにかハンカチの様なものが無いかコッソリとストレージ内部を確認してみたのだが、それっぽいものが無い。
仕方ないので腕に装着されている『宵闇の長手袋』の左手部分を右手で引っこ抜いて、涙で濡れた犬耳娘の顔をゴシゴシと拭いてやった。
まぁ頑丈な素材で作ってあるから汚れても洗えば良いだろう。
唐突に俺が顔に布切れを押し付け始めたのに驚いた犬耳娘は、むごむご言いながらも大人しく顔を拭かれる体勢で止まっている。出来れば鼻水は付けないでくれるとありがたい。
「うう、ありがとうございます……クンクン……」
「おいそこ、思いっきり匂いを嗅ぐんじゃない」
俺から手袋をハンカチ代わりに受け取った犬耳娘、目の下を赤くしつつ俺の装着していた長手袋を鼻に押し付けて、まさに犬っぽい動きでスンスン匂いを嗅ぎ始めていた……そんなに匂うのか?
本気で体臭をどうにかした方がいいんじゃないのかこれ。
嗅覚の鋭いモンスターに発見される可能性も否定できないぞ……女の身体は勝手が判らん。
無表情で匂いを嗅ぎ続けていた犬耳娘は、俺が向けている微妙な表情に今更気が付いたのか、ハッとした様子で手袋を自分の懐に突っ込んで、焦った動きで『ささ、パーツ集めました! どうぞどうぞ!』等と言いつつ、誤魔化すようにエヘヘと笑っている。
まぁ良いか、安心毛布みたいな用途なのか? ちゃんと後で返してくれな。
一応レア素材使用に限界強化とスロット拡張に能力付与まで、アップグレード系フルコースを終わらせてある防具なんだから。
さて、犬耳娘のご主人様が待っている事だし、急いで義足パーツを組み上げなおす作業に入るとしよう。
俺がパーツをガチャガチャと組み上げ始めている光景を、犬耳娘が鼻水をズビビとやりながら、俺の背後に回って背中を支えつつ、ジーっと見詰めている気配がする。ふむ、そんなに珍しい作業かね。
一分も掛からずに組みあがった両足の義足をみて、犬耳娘がおお! と嘆息するのが聞こえた。
あまり耳に顔を近づけるんじゃない。息がかかってむず痒いんだよ。
「見てみろ、泣く事なんてないだろ? ぱぱっと簡単に組み上がる物だからさ」
「……どうやったのか全然判りませんでした……でも直ってよかったぁ……グズッ」
振り向くと、俺の右肩辺りに顔を寄せていた犬耳娘。
その顔にはとても安堵した表情が浮かんでいた。
と云うか、そう簡単に壊れるような耐久度をしてないからな、この義足は。
作る為の材料集めにどれだけボス通いしたと思ってんだ。中級エリアのボスとは言え、睡眠時間を削って3桁に届く勢いで討伐しまくったからな。
流石に予備を作る為にもう一度通え、といわれても絶対に御免被りたい。
さて、組みあがった義足を装着するか。
自分で付けるのはちょいと面倒だし、犬耳娘に義足を填め込んでもらう事にしよう。
「外したのはお前なんだから、つけるのも宜しく頼むぞ」
「ふぇぇ!? こ、コレをココに填め込めば良いんですか!?」
俺が尻を支点にクルリと回転し、両足の切断面を犬耳娘に向けて義足の接続作業を催促する。
また義足をバラバラにしてしまうかもしれない、という恐怖があるのだろう、犬耳娘は非常にゆっくりとした動きで義足を片方持ち上げて、俺の足へとドッキングさせてくる。
接続直後、先ほどと同様に切断部分の金属が淡い光を発して反応を始めた。
意識を義足に向けて……よし、ちゃんと繋がったな。
填め込み終わった義足を保持したまま、発生した淡い光をボーっと眺めていた犬耳娘だったが、俺が義足の膝を曲げたり伸ばしたりし始めた途端、ふわー! と甲高い声を上げて瞳をキラキラさせ始めた。
……こいつ絶対ロボットアニメとか好きそうなタイプだな。
催促するように左足の方もワキワキ動かしてやると、今度は迅速な動きでもう片方の義足を填め込んできた。うん、義足の扱いに慣れてきてくれたかな?
問題なく左足も稼働を開始、立ち上がって移動出来る状態まで復帰できた。
「ほら、元通り」
「か、かっこいいですー!」
ジャンプしたり軽く蹴りを繰り出して見せてやる。その光景を見てパチパチと拍手までしてくる犬耳娘。うんうん、俺が数ヶ月の時と多大な課金アイテムを消費して必死に作り上げた、義足運用を主目的とした傑作キャラクターだからな! 褒められて満更でもないぜ。
こいつを完成させる前に使ってた初期キャラは、良くあるテンプレの前衛物理キャラだったからな。
ゲームをやり込んで行くと、結局廃プレイヤーが行き着く所は尖った性能のキャラになる訳だ。
安定度の高いテンプレステータスを好んで使っている人も、そこそこ居たりもしたが。
まぁ、俺はそれで満足できなかったタイプ、って事だ。
「さてと、それじゃご主人様とやらの救出に向かいますか」
「はい! 早速ご案内します!」
ぱっと笑顔になった犬耳娘が、カモフラージュ目的で入り口付近に積み重ねてあった、葉っぱの付いたままの枝を撤去し始めた。ふと見ると入り口脇に俺のクッションが置いてある。
わざわざコイツも回収して一緒に運んできてくれていたのか。
ジョークアイテムだからあのまま放置でも良かったんだが、律儀なやつだなぁ。
俺の目線に気が付いた犬耳娘が、枝の撤去を中断してクッションを抱えて俺の前まで運んでくる。
「これって、何処の地域で生息してるモンスターの頭部ですか? ふわふわで凄いです!」
「それはモンスターの頭部じゃねぇよ! そういう形のクッションだ!」
苦笑いした俺は、犬耳娘の頭頂部に軽くチョップをかましてやった。
週明けは投稿が不安定になります、すみません。
どうかご容赦下さい。