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何かありましたら感想欄のほうへご一報下さい。

 手元の光の玉から発せられる淡い光を頼りに、枯葉や地面に飛び出した木々の根っこ等を踏みしめつつ鬱蒼と茂る森の中を、余り早いとはいえないペースで進む。


 山歩きなんて中学の体験学習以外でした事がないので、勝手が判らず遅々として歩みが進まない。

 こんな事ならば、地形効果を軽減する魔法である『浮遊移動』を覚えておけば良かった。


 あの魔法は、行使すると効果時間の間は移動速度や回避性能が落ちるからあまり好きじゃなくて、俺は覚える気が全く起きなかったんだよな。

 ……そもそも森林やジャングル、高低差の大きい山岳地域はそこ専門の職業に向いた狩場だったし。


 ゲームを始めた当初は初級狩場の森林フィールドで、よくミスってボロボロにされた物だ。


 距離としてはさほど進んでいない所で、空が見える程度にひらけた場所が目に入ったので、そこで軽く休憩を取る事にした。身体的には全く疲れた様子は無いのだが、こう進みが遅く光の範囲外が真っ暗で何が飛び出してくるか判らない状況では、精神的な疲労のほうが厳しい。


 開けた場所は大体直径10メートル程度の広場のような感じだった。

 相変わらず草が茂りまくっているので、ゆっくり休憩するにも邪魔で仕方が無い。


 そこで少し思案し、邪魔な草を処理する為……そしてスキルの発動具合を確認する為に、義足着用で使用できるようにカスタムしてある、蹴りスキルを発動してみることにした。


 技名は『蹴撃』で、効果はそのまま蹴りで相手にダメージを与えるっていう物だ。


 直接打撃部分の足と、空を切り裂いた蹴りが発生させる衝撃波。

 この二つが連続でヒットする2連撃技でもある。


 打撃に強い相手でも衝撃波が斬属性をもっているので、ある程度のダメージを与えられるし、消費するスタミナも微々たる物で連打が効くという特性もある。


 その使い勝手の良さから、俺はこの『蹴撃』スキルを武器攻撃の合間に繋ぎとして愛用していた。

 さて、スキルを発動させる為にはどうすればいいんだ?


 実際のゲームだとスキルのショートカットを使用して発動させていたのだが……今現在のこの状況ではその方法は使用できなそうだ。

 となるとストレージと同じようにイメージすればいいのか?


 『蹴撃』発動をイメージして、下から上へと斜めに相手のアゴを掠めるような感じで足を蹴り抜く。


 ……格闘技の心得はないのだが、何だかスムーズに体が動くな?

 そもそもがこの身体は俺のものではなくゲームで育て上げた珠玉のキャラクターなのだから当然? なのだろうか……判らん。


 ビュオ! と風が吹きぬける音が蹴りに追随し、正面の雑草を斜めに刈り取った。


 おお……スキル効果から予想された通りとは言え、目的の草刈り作業は『蹴撃』で何とかなりそうじゃないか、これ。


 その後、調子に乗った俺は回し蹴りの様な感じで大技を繰り出したり、地面スレスレで相手の足首を狙うような回転蹴りからソバットの様に相手の動を狙う中段蹴り。


 そこから腹部への打撃をイメージした膝蹴りからオマケで蹴り上げ、ついでに踵落としまでを連続で繰り出してみた。身体の動きが以前の俺からは想像できない速度だ。


 試しにコブシを握りこんで、エイヤ! とパンチを繰り出してみたが……

 こちらは速度だけはそこそこ出ていたが、ヒョロっとしたイメージで相手にダメージが行くような気がしない。


 まぁそれもその筈、俺のキャラは近接戦闘では主に剣を使用し、補助で蹴りを放つという二つのスキル効果を組み合わせて戦っていたからだ。

 徒手空拳で戦わなければ上昇しない『素手』スキルは一桁。


 何故一桁あるかと云うと、パワーレベリングを頼まれたときにターゲットを取る為、素手スキル1で取得できる『挑発撃』を使ってヘイトを稼いでいた時があったからだ。


 俗に言う平手打ちの様な打撃で敵を叩く攻撃で、ダメージは微々たる物なのだが、非常に高いヘイト上昇を誇る技だ。


 あと、女性型キャラクターが使用するという状況限定で、特殊な性癖の持ち主に人気が合った。


 俺もこのキャラクターが完全に完成した日に、わざわざPvPフィールドに移動してこの技を食らわせてくれ! と頼み込んできた知り合いへビシビシとヒットさせてやった光景を、大量にスクリーンショットで保存し、画像を確認して完成度の高さにテンション上がり過ぎて、ゲラゲラとゲームをしながら笑い転げた記憶が蘇る。


 ……ああ、思い出に浸るのは今する事ではなかったな。

 在りし日のバカプレイを思い出して、少々感傷に浸ってしまった。


 周囲を見回し、全方位の雑草が綺麗に刈り取られて見晴らしの良くなった広場の中央に移動して、ちょっとまえに作ったジョークアイテムである『ふわふわクッション』をストレージから取り出し、地面へ設置してその上に座る。


 コレはイベントモンスターの素材を加工すると作れた、ハロウィーンイベントか何かの記念アイテムの一つだ。見た目は完全にカボチャに目と口がついたアレである。


 チョット前に作ったままストレージ内に入れっぱなしだったのを、先ほど確認したときに見つけた。


 一応回復速度が微量上昇する効果があるのだが、いかんせん戦闘中には使えないし一々設置して上に座るという行為が面倒くさい。

 拠点で休憩や雑談しているならまだしも、狩場でそんなことする位ならポーションを飲んだ方が早い。


 あと、座椅子として使用したグラフィック的に、カボチャのヘタの部分がケツのあの部分に合致する場所であった事から、掲示板では『ふわふわアッー! クッション』とか言われていた事も思い出し、一人でほくそ笑んでしまった。


 ということで、インテリアグッズとしての意味合いが強いのだが、今の俺にとっては、非常に短いスカート装備で地面にケツを置かなくて済む、パンツにありがたいアイテムだ。


 先ほど草刈りをしている最中に、無駄に視力のいいこの赤い両目が、草陰からワラワラと逃げ惑う小さい虫達を大量に確認したこともクッションを使う理由ではある。


 ……俺も男だしバッタやコオロギ程度なら動じもしないが。

 あの量の虫に身を晒すのは少々気が引ける、というか出来ればしたくない。


 先ほどは気絶していたから地面に居られたが、無理して横になる必要も無いだろう。


 とりあえず空腹を感じてきたので、ストレージからプレイ時は必ず常備している、満腹度回復アイテムであるカロリーバーを取り出してかじる事にした。


 まぁ見た目はお店で売っているアレと同じ、棒状の食べ物だな。

 ゲーム内では気にならなかった『食べた後に喉が少量渇く』効果だが、実際にこれを食べると、味はそこそこなのだが、一気に口の中の水分が全部持っていかれた。


 たまらず俺は乾き回復アイテムのジュースを出して口を潤す。

 ああ、このジュースってこんな味したのか。ぶどう味だな。


 残りのカロリーバーをジュースと一緒に胃袋に流し込むと、空を見上げる。


 森の開けた広場でカボチャクッションに腰を下ろして足を組み、カロリーバーとジュースを飲む。

 なんだろうな、この状況。


 ふと、そんな事を思い苦笑いする俺の耳に、何かの物音が飛び込んできた。

 これは……足音だな。しかも恐らくは二足歩行している。


 何故俺がそこまで相手の情報を把握できたのか判らないが……その事は後回しだ。

 ここにくる相手が人間かモンスターか……今はそちらが気に掛かる。

 スキルである程度戦う事は可能だろう。危なくなったら速度を特化させたこの身体のスペックを利用し、此処から全速力で離脱する作戦で行く。


 座ったまま音のする方向を睨み付け、俺は音の主が現れるのを待つ事にした。

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