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何時までもこうして素っ裸で地面に横になって脱力していても仕方がないか。
まずは服をどうにかしないとマズイな。
ふん! と掛け声を上げつつ腹筋の辺りに力を入れて上半身を起こすと、脳内でメニュー操作を意識してキャラクターストレージを呼び出す。手元のリストで確認できた方が良いだろう、実際に眼前に表示するタイプで検索しようか。
ストレージを開いてざっと中身を確認するが、碌な物が入っていない事に愕然とする。
待てよ? 昨日の夜はゲーム内で何をしていたのだったか……
ああそうだ思い出したぞ。
昨日の夜は夜中の0時過ぎ辺りまでずーっと『軽衣服』の熟練度上げをしていたんだったな……
こんな事態に陥ることが判っていたのであれば、もうちょっとまともな装備をストレージ内に保管して置いたんだが。
まぁ後の祭りだな、今は手持ちの装備品でどうにかするしかない。
人差し指でなぞるようにアイテムリストを滑らせ、目的のアイテムを探し出す作業に入る。
普段ならば武器や防具、アクセサリーなど多種多様な装備が入っているはずのキャラクターストレージには、下位と中位クラスの回復アイテム各種に、装備品の耐久度を回復させる消耗品が多数。
後は敏捷度と魔力と精神力の3種類のステータスを大幅減少させる代わりに、物理防御力を大幅増大させる呪われたアクセサリーが数個収納されている。
その下には、俺が自分の生産スキルで作成した『宵闇のドレス』や『宵闇のガーターベルト』等の『宵闇シリーズ』と俺が銘打った『軽衣服』のセットがずらりと並んでいる。
その下に『精霊王のグリーヴ』や『精霊王のサバトン』等の『精霊王シリーズ』の両足装備一式がずらりと並んでいた。こいつがあっただけでも僥倖か。
そして、非常に残念な事に武器が一つも入っていない。
ゲーム内ではビビリで慎重派な俺にしては、全く似つかわしくないストレージ内容であった。
しかしそれもそのはず、昨日行っていた熟練度上げ作業は『軽衣服』カテゴリの装備を身に付け、一定の強さを持つ敵の攻撃をわざと食らうようにして、定められた回数のダメージを食らう、という地味で面倒で時間の掛かる作業だったのだ。
このスキルを成長させると『軽衣服』カテゴリの装備品の防御数値全般に%ボーナスがつく。
最近スキルレベルのキャップが開放されて、嬉々として俺はスキル上げに走っていたのだが。
まぁ悔やんでいても仕方がない、か……今現在、ある物でどうにかするべきだな。
そう思ってストレージを閉じようとした時、一番下に『****からの手紙』という見たことの無いアイテムが一つ入っているのに気が付いた。
アイテム説明を見ると『異世界についたキミへの一言』と書いてある。
ああ、ヤツからのメッセージか。後で読ませてもらおう。
さて、ゲームプレイであればアイテム名をタップして出てくる『装備』の項目を選べば装備品を身に付けられたのだが……流石にそこまでは再現してくれていない様だった。
何時ものようにアイテム名をタップしても反応がなかったのだ。
その代わりにアイテムが目の前に出現、バサリと頭上に落ちた。
パンティーを頭に被る……はは、変態か俺は。
まったく興奮しないけどな。娘の下着を見ている気分だ。まだ高2だっていうのにな。
横になった状態で腰を浮かし、頭の上に乗っていた『宵闇の下着』を素早く身に付ける。
うむ、やっぱりパンツがあるとこう、安心感がある。ついている『もの』は無くなってしまったが。
次にガーターベルトを取り出してベルト部分をパンツの下に通し、太ももの下部についている金属部分のジョイントパーツへバチリと接続する。
このガーターは実際の用途とは違い、見た目だけのフェイク品だ。
一応魔法防御が少量上昇する効果もついた装備でもある。
次に『宵闇のドレス』を取り出し、頭からすっぽりと被るように身に付ける。
敏捷度と魔力を重視した俺のキャラクターの体型は、非常に凹凸の少ない物なので、こうやって衣服を身に付けることができる。
知り合いからはもっと胸の辺りをどうにかしたらどうだ、と言われた事があるが。
こうやって実際に体を動かしながら装備を身に付けていると、改めて異世界へ来たのだなぁと実感が沸いて来るな。無意識に口からため息が出た。
一体これからどうすれば良いんだろうな。
それに召喚された、と言っていたわりには周囲に他のクラスメイトの姿も、召喚魔法とやらをつかった人物もいないと来ている。
何かイレギュラーが発生したのだろうか。
全く情報のないこの状況では、現状を維持しつつ行動を起こす事くらいしか出来ないが……
思考を巡らせながら、衣服を整える。
中々の肌触りだな……自作の装備もまんざらではなかった様だ。
さて、問題は此処からだな。
『精霊王シリーズ』足装備一式がゲーム時と同じように機能してくれるか。
この一点がこれからの俺の行動に大きく関わってくるのだ。
右足、左足と交互に『精霊王のクイス』『精霊王のポレイン』『精霊王のグリーブ』『精霊王のサバトン』の4種装備を組み上げるようにして、太もも部分へ装備する。
両足の装備を身に付けた直後、太もも下部と一体化していた金属部位が、淡い光を発して反応を始めた。よし、良いぞ!
普段自分の足を動かす気持ちで、精霊王の装備一式……精霊王の義足に意識を向けると。
……一抹の不安を他所に、滑らかな動きで音もたてず、俺の意思の通りに義足が稼働した。
ようやく、この湿った地面から離れる事が出来るようになった訳だ。
屈伸やジャンプなどを繰り返し、義足が自分の足と遜色ない動きをする事を確認した。
ひとまずコレで移動する事ができるな……ほっと一息だ。
俺の考えでは、痩身の男はファンタジー風の世界だ等と言っていた……つまりゲームで言う所のモンスターも存在するという事だろう。
出来れば会いたくはないものだが……このゲームキャラクターの再現度で考えると、戦闘を行なわないと俺のスキルも成長しないという事でもあるのだろう。
とにかく、俺の所持する大半の装備が収納されている大型ストレージに、早急にアクセスできるようにならねば……暫くは無茶をしないように行動するようにしようか。
……いや、待てよ? 大型ストレージはクラン設立時に使用できるようになる大型倉庫だが……待て待て、もしかしてここも再現してあるのではなかろうな?
そこまで考えて、先ほど目に付いた手紙のアイテムを思い出す。
あれに何か詳しい事が書いてある可能性がある。まずは一読だな。
さっと手紙を取り出すと、二つ折りになった簡素な紙切れだった。手紙と云うよりメモだな。
開いて中を見てみるとこんな事が書いてあった。
『無事そちらについたカナ? ゲームの再現には結構自信があったけど、具合はどうだい? もうボクはキミに干渉できないけれど、サービスで召喚魔法陣にちょいと負荷をかけてキミの出現位置をずらしてあげたよ。そんな格好で他のクラスメイトと出会ったらキミもマズイだろ?』
ああ、そらそうだ、教室で光って移動したら素っ裸の女ってどんなギャグだってな。
『あと、アイテムの効果や倉庫関連もほぼ全部再現できてると思うよ! ぜひボクを褒め称えてくれたまえ!』
良い腕をしている事は認めるが、俺としては適度に手抜きして欲しかったよ。
となるとアレか、大型ストレージも何かしら手順を踏まないと開放できないと。嬉しくて涙がでるぜ。
『最後に コチラに戻る手段は恐らく存在する。興味があるなら探してみると良い それでは』
最後の一文を読み終わった瞬間に、紙が燃え上がって空中に霧散する。
自動的に消去されるってネタ、やるんじゃないかと思って警戒していたが、やっぱりやりやがったな。
……元の世界に戻る方法、か。
やる事もないし、ゲームの方も気になる。
とりあえずの目標として帰還を目指してみるのも良いかもしれないな。
俺は背後で滾々と湧き出ている泉の水を飲んでのどの渇きを癒し、先ほど呼びだした光の玉を右手に添えて、この森を抜け出すべく歩き始める事にした。