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その後二人でワイワイやっていると、女将さんお手製のお昼ご飯が完成した。
この世界に来て初めての現地食材での食事だ。
とりあえず現金の持ち合わせがない俺の変わりに、ヴィルに支払いを頼むことにする。先ほどのマッサージの代金だと思ってもらえれば良いだろう。
4人用のテーブルと椅子に座って俺が待っている間に、お金をカウンター越しにお上さんに払ったヴィルがシチューの様な物の入った深めの皿とパンを数個、トレイに乗せて俺の前まで運んできた。
出来立てのそれからは湯気が出ており、匂いからもやっぱりシチューと同じ様な物だろうなと推測が出来た。俺の正面の椅子に向かい合うように座ったヴィルが、お皿を俺と自分の前に配膳してスプーンを差し出してきた。木製のスプーンで食事とか初めてだな。
あつあつのシチューを一匙すくって口に放り込む。
あー温かくて美味しいな。
やっぱりカロリーバーじゃ味気なさ過ぎるんだよな。あれは非常時用の食料にして普段はなるべくこういったこの世界の食事を取るようにしよう。
無理やり引っ張ってこられたとは言え、折角の異世界生活だ。
出来うる限りは楽しく過ごした方が良いだろう。美味しい食事然り。
俺が二口目をほお張っていると、何故かスプーンを持ったまま俺の正面で此方を凝視しているヴィルに気が付いた。何をそんなに凝視しているんだ?
「食わないのか? 冷めるぞ」
「た、食べても良いですか?」
……あれか? 俺からの『良し!』を待っている犬か?
ああ、それとも俺が女将さんに向かってこんな所で寝てるヤツにはお昼抜きでいいですよ、的な事を言っていたのを気にしているのか?
「一人で食べるのは味気ないんでな。良かったら俺の食事に付き合ってくれよ」
「あ、えと、そう仰るのでしたら、吝かではありませんのコトよ!?」
「おう、食え食え。食って大きくなれよ」
絶妙に言葉が変になっとるが、まぁ聞かなかった事にしておこう……
それにしても今更ながら気が付いた事が一つある。
こうやって正面でじーっと向かい合って、じっくりヴィルと会話する事が今まで無かった訳だが。あれだな、口の動きと俺の耳に届いている言葉が噛み合っていない。
あと俺が発している言葉も恐らく日本語じゃない。口の動きが合っていないのだ。
食事しながら会話をしたせいで口の動きに今始めて意識が行ったよ。
これはあれか? お決まりの翻訳系の能力をサービスで付けてくれたとかそういうヤツか?
目の前で凄い勢いでシチューをほお張っているヴィルを頬杖を付いて眺めながら、脳内でしっかりと『日本語』を話す事を意識して口を動かしてみる。
「あーあー『おまえの名前はなんだっけ』」
「ん? ジルバ様どうかなさいましたか!? 何かの呪文でしょうか!?」
「ああ、いや気にしないで思う存分食事をするが良い」
俺が発した『日本語』に反応してヴィルが顔を上げたが、やっぱり意味は通じていない。
自動翻訳機能的な何かが俺に見についているのは確定したみたいだな。
これはこれで便利で良いが、何かしらの理由で『日本語』を話さないといけない場合は……しっかり意識して発音しないと駄目な様で、ちょっと面倒でもあるな。
まぁ『日本語』を話さなければ駄目なんて事態に陥るなんて、他の召喚者に遭遇した時くらいだろうけれども。暗号代わりに使用できるかもしれないけどな。
でも、ヴィルやシュネーさんに『日本語』を教えるのは余り良くない気がする。
俺との関わり、つまり召喚者と関わりがあったという証拠になってしまうからな。
ひとまず『日本語』を話そうと思えば話せるという事実は確認できたので、言葉に対する考察はココまでとしよう……
ああ、待てよ? 相手の言語を無差別に翻訳してくれるならば、ある程度の知能を有したモンスターとも会話できる可能性がないか?
昨日であったゴブリン達の発していた声は、完全に奇声にしか聞こえなかったが。
今後は話し合いに応じてくるモンスターも居るかもしれない……頭の片隅に置いておこう。
「はむっはむっ! んぇ? ジルバ様は食べないんですか?」
「ん? ああスマンスマン、少し考え事をしてただけだ。冷める前に頂くとしよう」
頬杖を付いたまま、ヴィルの右頬にくっ付いていたシチューの残滓をスプーンを持った右手の小指で拭ってやる。シチューの付いた指の行き所に迷ったので、そのままヴィルの口に突っ込んでやった。
「むもぅ!? ……すみませんホッペに付いてましたか!?」
「もうちょっと落ち着いて食べたらどうだ? 汁を撒き散らすんじゃないぞ?」
「はい! 了解です!」
毎度お馴染みの返事だけは良いっていうヤツだろうな。
まぁ後で、雑巾か何かで拭いて綺麗にしておけば怒られないか。
その後、俺もヴィルに負けじとシチューを胃袋に叩き込む作業に取りかかる。
胃袋から身体の芯から温まる感じがして、ほっと一息ついた。
そういえば向こうの世界でも手作りの食事なんて何年も食べてなかったな。
もっぱらコンビニ弁当やカップ麺、冷凍食品ばかりを食っていた記憶しかない。
そもそも食事なんてただの栄養補給くらいにしか考えてなかったからな……
「ジルバ様、まが何処か具合が悪いんですか!?」
「いや、大丈夫だ何でもない」
ガタンと椅子から立ち上がったヴィルが、俺の顔を覗き込んで不安そうか表情をしている。
ああ、昔の事を思い出して。あの食卓を思い出して。
そんなに、酷い顔をしているか俺は。何時まで引きずっているんだろうな俺も。
「ヴィル、ジルバさん、お待たせしました」
「ああ、シュネーさん、体調のほうは大丈夫ですか?」
スプーンを置いて両手で顔を擦って気合を入れなおしていた俺の耳に、シュネーさんの足音と声が飛び込んでくる。どうやら目を覚まして降りてきたみたいだ。
革鎧を外して軽装になったシュネーさんは、腰に剣だけを帯びた状態で俺とヴィルの座っているテーブルに近寄り、椅子に腰を下ろす。
すかさずヴィルが追加のシチューを女将さんから受け取って運んできていた。
流石にシュネーさんの事となると仕事が速いなこいつは。
いつもコレくらい有能だと良いんだろうけどな。
シュネーさんがヴィルにお礼をいって頭を撫でている光景を、冷め始めたシチューを食べつつ眺めながら、そういえばシュネーさんに聞こうと思っていた事があったな、と思い出す。
「シュネーさん、俺の今現在の立ち位置って今どうなってるんでしょう? 遭難者とかですかね?」
「幸運にも森で出会った、腕の良いフリーの傭兵という事にしておきました」
傭兵か。昨日シュネーさんに聞いた話の中でちょっと説明があったな。
一般的に傭兵とは、冒険者にはなっていないが基本的に戦闘や護衛を主な仕事とする、規則に縛られる事を好まない荒くれ者達、みたいなイメージのモノらしい。蛮族っぽいよな。
冒険者を名乗るならば、二人に見せてもらった例の金属板を持っていないとマズイらしい。
何かしらの理由であれを見せてくれ、って言われた時に所持していないと色々と面倒な事になるんだという話だ。冒険者を騙って悪さをしようとしてる、何て思われるらしい。
無理して冒険者を名乗って何かあったら、この二人にも迷惑が掛かるだろうしな。
機会があったら冒険者登録と云うものをしてみるのも面白いかもしれないが、根掘り葉掘り色々聞かれる様な事態になる可能性があるかもしれん。
そこはシュネーさんに相談して考えてみよう。




