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うつ伏せに横になった状態で、胸の下に枕を突っ込んでクッション代わりにしつつ、顔の前に出現したスキル一覧表を確認する。
この一覧の表示形式が、そのままゲーム内のウィンド表示なのがまた何とも言えないな。
思わず苦笑いが俺の口から漏れたのは、当然の結果だと思う。
全体的にどれ位の再現度なのか、本当に気になるよ……
ちなみに俺の装備の殆どが収納されている大型ストレージの使用方法は、今現在俺のストレージに入っている『倉庫の鍵』というアイテムを、クラン拠点で空中に突っ込んで回す、という行動が必要になるはずだ。
その理由は、ゲームで『倉庫の鍵』を使用すると、空中でキーを回すモーションをキャラクターが取った後に大型ストレージのメニューが出現するからだ。
ヤツの事だから、この辺りも完全再現してくれているんじゃ無いかと思っている。
もう暫く大型ストレージの事は諦めて、今所持している装備で何とかしていく様にしないとな。
スキル一覧の右に表示されているスクロールバーを、人差し指でドラックして下に滑らせていくが、ざっと見た感じでは、本当に俺がゲーム内で取得したスキル全てを再現してくれている様に感じる。
属性魔法各種に『剣』スキルや『蹴り』スキルもしっかりと表示されている。 この辺りは主力スキルだった為に、スキルキャップ開放後すぐに稼ぎを開始し、限界までレベル上げが済んでいる状態だ。
これは取り合えず安物でいいから、手持ち武器として剣を入手する手段を考えないと。
他にはネタで取ったスキルも多数存在するが、この辺りは気に入った物以外は大体限界レベルの半分程度でスキル成長を放棄してしまっているんだよな。
スキル一覧のソート条件をレベルの高さに変更し、普段使用していなかったレベルの低いスキルを確認していく作業を始める。この中にも今からこの世界で生きていくのに、色々活用できるスキルがあるかもしれないからな。半分ネタで取ったスキルが多いとは言え、蔑ろには出来ないだろう。
『露店』や『商人』なんてスキルがあるな。この辺りはこの世界だと、どういった効果を及ぼすんだろうか。
ゲームではそのまま露店を開く事ができるスキルであり、商品の値切りや相場確認が出来るスキルである訳だが。露店は……流石に何もない所から露店用の器材が出てくるはずは無いよなぁ……まさかな?
『商人』スキルの方は、相場が判るという部分は効果が発揮されるんじゃなかろうか。
金銭感覚がない俺が、悪質な商人からのボッタクリを回避する為に、有用なスキルになる可能性がある。
他は……『植物栽培』スキルとか『伐採』スキルとかこれまた微妙なのがあるなぁ……
『栽培』は一向に良い種が実装されずに、飽きてスキル上げを諦めちゃったんだっけな。
『伐採』は筋力は必要分以上成長させる意味が無いキャラビルドにしたから、途中で完全放置したんだっけか。このキャラを作り始めた初期に取ったスキルだな……何とも懐かしい話だ。
そうこうしている内に、昨日ゴブリンに向かって勝手に発動した可能性のあるスキルに行き着いた。
恐らくコレだと思うスキルはそのままの名称で『威圧』スキルだ。
コレも途中で止めたスキルで、理由は一定レベル以下の敵には硬直と恐慌の状態異常を発生させるのだが、一定レベル以上の相手になると軽度の鈍化効果しか発生しないからだ。
つまり後半のダンジョンやフィールドだと、ほぼ死にスキルになってしまうという訳だ。
鈍化自体はそこそこ有用なのだが、わざわざスキルを使用してそんな状態異常を相手に与えてる暇があったら、先制攻撃魔法の一発でもぶち込んだ方が圧倒的に優位に立てるのだ。
なのでこのスキルもパワーレベリングのお供スキルだな。
ゴブリンといえば余り強くないモンスターの代名詞の様な相手だし、『威圧』スキルが効果を及ぼしたのは当然の結果なのかな。それにしても無意識で発動させちゃうとかどういう事だろうか。
……ああそうか、そういえば『軽衣服』スキルのレベル上げ中、敵を釣る為に色々適当なスキルを使っていたっけか。その時に『威圧』も使用した記憶が何となくある。
適当な予想だが何となくそれっぽい理由が判明した事で、この問題は一応の決着がついた事にしておこう。まぁ攻撃魔法各種が使えるという事が確定しただけでも僥倖だ。
このキャラクターの本領は魔法と剣と蹴り、という三つの攻撃パターンを流れるように延々と相手に叩き込んでいく、という瞬間火力と継続火力の両方を補う事のできる、汎用戦闘スタイルなのだが。
まぁ戦える手段があると言うだけでマシか……贅沢は言えないな。
ネタスキルの吟味はひとまず置いておき、主力スキルを確認しようとしたタイミングでドアが開いてシュネーさんが部屋に戻ってきた。
右手をサッと振ってスキル一覧を消した俺は、ベッドの上で仰向けになると起き上がり、これからどうするのかを確認する為に、シュネーさんの方を向いて声をかけた。
「お疲れ様です、そちらの用事の方は済んだんですか?」
「ええ、村長さんには詳しい事情を伝えてまいりました。つい先ほど、村の若い方を冒険者ギルドに使いに送ると仰っておりましたので、私達は村で待機と云う形になります」
シュネーさんが俺の質問に対してそう返答してきた後。
何やら少し考え込んで逡巡する素振りを見せて……懐から何かアイテムを俺に差し出した。
ああ、昨日保険にと渡した中位ポーションと、なにか小さい皮袋だな。
で、なにをそんなに真剣な表情で、俺の顔を見詰めているのだろうか……?
俺がシュネーさんの行動に首をかしげていると、当の本人は近くにあった作りの荒い木の椅子をガリガリと引っ張って俺の前に腰を下ろし、一度息を吐くと俺に向かってポーションを持った手を突き出しながら、頭を下げ言葉を発した。
「実は、こちらのポーションを安く譲っていただきたいのです!」
「……はい?」
緊迫した雰囲気を感じ取ったので、何か不味い事でも起こったのかと不安に思っていたのだが。
別にそういう事では無かったようだ。
「今回の様な緊急時用に持ち歩きたいと思いまして……お金はここにありますので何とか!」
「それ、昨日シュネーさんに手渡した時点で、譲ったつもりでいたんですけど……」
実は『軽衣服』のレベル上げの為に、延々と敵に殴られる算段だった俺のストレージ内には、スタック数限界である999本の中位ポーションがぶち込まれていたのだ。
ちなみにアイテム所持の重量制限がないゲームで、重量が関係してくるのは装備品全般の話だ。
弱い相手とは言え殴られている状態だと、流石に俺のキャラでも回復魔法の詠唱が阻害される可能性があったので、確実にHPを回復できるように消耗品をガッツリと持っていた。
下位ポーションの方は大分消費して500本程度まで減っているが、それでも全然問題ない量だろう。
そもそもソロの通常時、俺は回復魔法でHPやスタミナを回復していたので、消耗品を使う頻度が低いのである。MPも自然回復量でほぼ賄える状態だったのでマナポーションを使う事も、ボスとの戦闘中以外はほぼなかった。
そういった事で、中位ポーションの10や20程度俺には痛くも痒くも無いのだ。
むしろ宿代を肩代わりしてもらう代わりに、ポーションを受け取ってもらう方向に持っていったほうが良いのではなかろうか。
そんな事を思いついたので、その旨をシュネーさんに伝えようと思ったのだが。
「そ、そんな! こんな貴重な物を2本目まで無料だなんていけません!」
椅子の上でオロオロとしつつ青い顔をして、俺に何やらジャラジャラと音のする皮袋っぽい物を押し付けてくるシュネーさん。これはお金の入った袋だろうか……
っていうか恐らくそれ全財産ですよね? 全額俺に押し付けてどうするんですかシュネーさん。
「いやいや、それなら待機中の宿代を肩代わりして頂く、という事でどうでしょう?」
「えええ!? 余り薬の知識のない私でも、このポーション一本で数ヶ月、いや一年は宿代が払えるという事くらい判りますよ!?」
「どりゃー何事ですかぁ!? ヴィルの両耳がご主人様の悲痛な心の叫びを捕らえましたよぉ!」
俺の提案にその顔を更に青くしたシュネーさんが、両手で中位ポーションを握りしめて、俺にポーションの価値を懇切丁寧に説明しつつ詰め寄ってきたタイミングで、両手に洗いたての『宵闇の長手袋』をもったヴィルが雄たけびを上げつつ、バタンとドアを開けて滑り込んできた。
ええい大声でやかましい、何事ですかと言いたいのは俺の方だ。
お前が来ると無駄にややこしくなる可能性が高くなるから、暫く大人しくしといてくれ。
まだ湿っている感じがする『宵闇の長手袋』と、それと同じくらいにビショビショなヴィルの両手を乾かすべく、俺は風の魔法の出力を弄る感じで、温風を右手から発生させヴィルに吹き付けてやる。
『ふぉぉぉぉ!? あったかぁーい!』と言いながら穏やかな顔になるヴィル。
よし、そのまま話が終わるまでそこで洗濯物と一緒に、大人しく温風を受けておいてくれ。
その後、色々な角度からヴィルにドライヤー魔法を当てて喜ばせつつ、何とかポーションで宿代という条件をシュネーさんに飲んでもらった俺は、それならば使っていない剣があったら一本欲しいと条件をつけて、予備で持って来ているというシュネーさんの武器を一つ頂く事に成功した。
ちなみにシュネーさんにも温風を当ててあげたが、中々好評だった。ふむ、需要あるなこの魔法。




