11
何かありましたら感想欄のほうへご一報下さい。
結局の所クッションを持っていくことにした俺は、ストレージにソイツを収納しなおす。
そのうちまたヴィルの抱き枕代わりに使う事も有るだろう、という予想に基づいた結果だ。
特殊効果もあるし睡眠時に使うには最適だろう。
その後、出発する準備を整えた俺は一晩中光を放ち続けていた明かりの魔法を消し、薄暗い穴倉から表へと出る為に横穴へと歩を進める。
まず最初にヴィル、そして次にシュネーさんが穴から表に出ると二人は背中合わせで周囲を見回し、危険がない事を確認すると俺に手招きをしてきた。
表に出た俺もグルリと周囲を見回す。
日が昇った後の森は大分明るい雰囲気に様変わりしていた。
こっちに到着したときに真っ暗でなければ、俺の足でも既に何処かの町か村に辿りつけていただろうな。
俺が穴から表に出た後、何やら右手を穴にむけてゴニョゴニョと呟いていたシュネーさんだったが、俺の視線の先で地面の穴がドンドン埋まっていき、最後にはそこに穴があったのが嘘だったかの様に何も無い普通の斜面となった。
一体どういう原理なのか聞いてみたが、大方俺の予想通り土を動かす魔法だとの事だった。
穴倉の処理も終わったので、早速森を抜けて村へと向かうことに。
シュネーさんが先頭に立ち、俺を挟むような感じで後ろにヴィルが位置取る陣形で、ひんやりとした空気の流れる森の中を進む。
昨日の威圧とやらの効果は切れてくれている様で、チラホラと小動物が移動している場所に出くわしたりもした。
そのうち昨日のゴブリン達の仲間でも襲い掛かってくるかと思って警戒していたのだが、拍子抜けな事にその後危険な事は何も起こらずに森を抜けることに成功。
視界の開けた先に木で出来た防壁で囲まれた場所が見えた。
シュネーさんが受けた依頼を冒険者ギルドに持ち込んだ村らしい。
踏み固められた土むき出しの道を歩いて行くと、数分も掛からずに村の出入り口に到着する。
防壁は俺の身長の数倍の高さを誇っており、中々頑丈そうな印象を受ける。
やっぱりこれくらいしないと、モンスターの侵入を防げないってことだよな。
朝晩と見回りも必要だろうし、中々大変そうだ。
俺がそんな事を考えながらボケーっと防壁を見上げていると、見張り台の様な張り出した部分に弓を持って立っている青年と視線が合った。一応礼儀としてペコリと頭を下げておく。
青年の方はなにやら俺を凝視して硬直していたが……俺の背後に居るヴィルと、今しがた門番の男性との会話を終えて、俺を呼びに近寄ってきたシュネーさんを視認すると、ポリポリと頭を掻きペコリとお辞儀を返してきた。
ああ、俺が妖しい小娘じゃなくシュネーさんと知り合いだって判ってくれたのかね。
まぁそりゃ二人でゴブリンの確認に出て行った冒険者が、一晩経ったら何故か三人で戻ってきたとなれば怪しむのも判る気がする。
しかも俺以外の二人の装備は昨日のまま……
つまり時間がたって固まった血がベットリとこびり付いたスプラッタ状態だ。
当然の如く、何事かと思われるよな。
その後、俺は門番の一人に連れられていくシュネーさんの後ろについて村の門をくぐる。
早朝だと言うのに表に出てる人が多いな。
やっぱりこういった場所の住民は仕事で早起きだったりするのか。
それにしたって何だかジロジロと見られてる気がするんだが……やっぱり冒険者の二人と違って、身元のはっきりしていない余所者が村に進入するのを嫌っているのだろうか。
シュネーさんは、俺とヴィルに村の宿屋へ先に戻っていて欲しいと告げて、村長の家に一人で結果の報告をする為に向かっていった。
村の中心の方へ歩いていくシュネーさんをヴィルと二人で見送った後。
建物の位置関係が全くわからない俺は、ヴィルに宿屋までの道案内を頼むことにする。
「了解しましたー! ささ、ジルバ様こっちですー!」
「そういえばヴィル、何で俺に対して様付けしてるんだ? 何なら別に呼び捨てでも構わないが。それとも戦闘奴隷の決まり事みたいなものでもあるのか?」
「ええええ!? そんな恐れ多い! ジルバ様はジルバ様なんです!」
両手をぐっと握り締めて俺に顔を寄せて力説するヴィル。
何やら良く判らない理屈かなにかが存在して、それが俺に対して『様』を付ける要因になっているらしい。何がそこまでお前を駆り立てるのか。
人前で様付けとかされると、俺が何か偉い人みたいに見られるから余り嬉しくないんだが。
無駄に目立つし、いいことなんてまったく無い。
そんな事をヴィルと話しつつ歩いていると、正面に2階建ての建物が見えてきた。
ヴィルの話によると、ここが村でたった一つの宿屋らしい。
ヴィルが慣れた手つきで入り口の扉を押し開いて中に入っていく。
ここに居ても仕方ないので、とりあえず俺もその後を追って宿屋の内部に入り、周囲を見回す。
と云うかだな、ココを利用する為の費用は如何すれば良いのか、そこがイマイチ不安で落ち着かない。
無遠慮に無一文だからココの費用は奢りで頼む! っていって良いものか。
現物支給でポーション渡すから金払ってくれ、とかにすれば問題ないか?
中に入ってみると中々雰囲気の良い建物で、一階部分は食堂になっている感じなのか、テーブルと椅子が並んでいる。その奥にあるカウンターの横で、ヴィルとふくよかな女性がワイワイ喋っているのが見えた。
いかにも宿屋の女将さん! って感じのおばさんだな。
身につけているエプロンも年季が入ってる。
何やら俺の方を指差しながら、ヴィルが女将さんに対してワイワイ言っている言葉の内容が耳に入ってくる。要約するとあの入り口にいらっしゃるお方は、シュネーさんの知り合いかつ命の恩人で物凄く強い人なんです! みたいな感じの事を、嘘臭さ満点の表現でベラベラと捲くし立てていたようだ。
まぁ女将さんのほうは、笑いながら話半分で聞いているみたいなので問題なさそうだけど。
とりあえず、村長の家からシュネーさんが戻ってくるまで今後の予定が判らないので、休憩しつつそれを待つ事になった。
ヴィルがグイグイと俺の手を引いて、自分達の借りている部屋まで案内します! と言い始めたので、ひとまず落ち着け! とヴィルの脳天にちょっと強めのチョップを炸裂させ、女将さんに向き直り声をかける。せめて挨拶くらいさせろっちゅうの。
「どうも、突然お伺いして申し訳ない。俺の事はジルバと呼んでください」
「あら! ご丁寧にどうもねぇ! それにしたってあんたぁ……そのなりで男言葉たぁ驚いたわぁ!」
「あー……まぁ癖みたいなものなので、気にしないで下さると助かります」
俺がそう告げると、あっはっはと豪快に笑った女将さんが頷きながらわかったよ! と大きな声で返事をしてきた。通りのいい声だなぁ……肝っ玉母さんって感じだ。
そんなこんなで挨拶も終わり、俺の背後で頭をさすって涙目になっているヴィルの首根っこを掴むと、案内を再開するように声をかける。そんな痛がる強さじゃないだろ。
仕方なくワシワシと頭を撫でてやると、途端に笑顔で元気になるヴィル。
くっ……こんのヤロウ嘘泣きか。
ヴィルは俺の手を引いて二階へ上がる階段を駆け上がり、突き当りの部屋のドアを懐から取り出した鍵で開けると、中へ俺を招き入れた。
「ココがシュネー様がお借りしてるお部屋です! 村長さんへの報告が終わったらお戻りになると思いますので、それまでお休みくださいませ!」
「ああ、それじゃお言葉に甘えてそうさせてもらうか……ああ、そうそうヴィルよ」
「はい? なにかご用でしょうか! 何なりとお申し付け下さいませ!」
物凄い勢いで尻尾が振られている。仕事を与えられるのが嬉しいタイプなのか……
俺は自分の両手をヴィルの正面に突き出して、ひらひらと振りながらこう言ってやる。
「さあ簡単な問題だ。昨日の晩にこの手に装着されていた物はなんでしょうか?」
「……あ! そうだ手袋! あ、洗ってきますぅ!」
「はい駆け足! しっかりお勤め果たしてこい!」
「いってまいりますー! ジルバ様はごゆっくりどうぞぉー!」
身につけていた装備をガチャガチャと外して身軽になったヴィルは、腰に短剣のみを提げた状態で扉の向こうへと消えていった。
あの様子だといわなかったらそのまま懐に入れっぱなしだった可能性が大だな。
俺はベッドの上に横になると、昨日確認しようと決めていたスキルの状態を見るため、スキル一覧を表示させるべくスキルメニューを開くイメージを脳内に浮かべた。




