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何処か懐かしいような。そんな光景が目の前に広がっている。
写真から切り取ったような酷く薄っぺらい情景。
父さんと母さん。そして俺。3人仲良く朝食を取っている光景だ。
恐らく、俺が8歳の頃だったろうか。
そして場面は切り替わり、父さんと俺の二人だけの食事風景に。
母さんが空いている時間を仕事にあてて、家計の足しにしたいといい始め……働き始めた。
父さんは最初渋っていたのだが話し合いの結果やむなく了承した形だ。
父さんの決断が間違っていたのか……今は判らない。
母さんは職場で知り合った男性と暮らすと告げ、荷物を持って家を出ていってしまった。
父さんはジッと何かに耐えるような顔をして……コレからは二人で暮らしていこうと、そう俺に告げた。
場面は切り替わる。
母さんが居なくなって一年程経過した、ある日の風景。
最近頻繁に父さんが『背中が痛い』と云うようになった。
仕事のし過ぎで疲れが溜まっているのかもな、なんて苦笑いしながら言って。
もともと父さんは酒も煙草も嗜むほどだった物が。
母さんが居なくなってからは、毎日両方浴びるように摂取するようになっていた。
さらに半年ほど時間が経過し、俺が10歳の誕生日を迎えた頃だろうか。
ずっといたみ続ける背中に痺れを切らした父さんは、病院を変えてみると言い始め。
評判のいい大病院へと足を運んだその日、家に帰ってきた父さんは頭を抱えていた。
末期の肺がんだった。
父さんが、親戚や知り合いに電話を掛け捲っているのを横で見ていた。
もう手の施しようのない状態だったそうだ。
肺から体の内側に飛沫のように癌細胞が転移していて、それが筋肉の痛みの様な苦痛を父さんに与えていたらしい。
他の場所にも転移しており、手術してもいたずらに体力を消耗するだけだろう、と。
要するに、最初行っていた病院がヤブ医者だったって事なのだろうか。俺には判らない。
そして俺が11歳になる前に、父さんは病院で息を引き取った。
母さんも何人も男をとっかえひっかえした後に、旅行先で脳梗塞で倒れそのまま他界したらしい。
そうして浮気離婚の末に酒と煙草に溺れ、死んでいった父親と。
一度遊びにはまったが最後、誘惑に勝てず多数の男と暮らし、そのまま死んでいった母親。
そしてその息子である俺、という肩書きが完成したのだ。
俺は親戚をたらいまわしにされ、最終的に聞いたことも無い様な遠い親戚筋に当たる人に引き取られた。
何やら会社の社長をしている人で、妻を早くに亡くしたといっていた。
その人は俺に潤沢な金だけを渡し、あとは好きにするといいと言って放置した。
そもそも自宅に帰ってくることも余りない人だった。
中学に入学する頃にはそんな生活にも慣れ、その頃からネットゲームにはまり始めたのだ。
頼むと金だけは出してくれる、俺の引き取り主に甘えていた形でもある。
学校と家を往復し、ゲームをプレイする日々。
それが中学3年間の俺の思い出だ。
何時も俯いて喋りもしない、家族の絡む学校行事には誰も来ない。
勉強もソコソコ、特徴もない。自分の見た目にも頓着しない。
そんな俺を『遊び』の対象にして、頻繁にちょっかいを出してくるバカ共が現れたのも、ある意味納得だ。
そして場面は飛び、高校の教室に。
代わり映えのない日々。
そしてあの光の奔流。
ああ、嫌な事を思い出させてくれる夢だよ。夢の中でため息がつけるならつきたい。
何かに緩く締め付けられるような妙な息苦しさと、それに比例するような温かさを感じて俺は両目を開く。視線の先には剥き出しになった土の天井が見える。
耳を澄ますと聞こえてくるのは、シュネーさんが何か書物を読んでいる様で、規則正しく聞こえてくるページをめくる紙がすれる音。
ああ、光量を落とした俺の魔法で出された光の玉はまだ健在みたいだな。
視線を自分の体に向けると、俺を抱き枕の替わりにして物凄い絡みつくようにくっ付いてきている、ヴィルのだらしない寝顔が視界に飛び込んでくる。おい、よだれが垂れてるぞ。後で折檻だな。
ヴィルを起こさないように横になった体勢でぼーっと天井を眺めていたが。
肌に感じるヴィルの鼓動と体温に釣られるように、俺は再度眠りに落ちていく。
ああ、今度は嫌な夢を見ないで済むと良いな。
意識が水面下から浮上するように、ゆっくりと覚醒していく。
俺の肩を軽く揺すっているようだ。
目を開くと正面に膝を突いてシュネーさんが俺の顔を覗き込むような状態で、俺の肩に手を添えていた。ああ、もう朝になったのか。
一度起きた記憶があるが結構しっかりとした睡眠が取れた気がする。
「おはようございます、ジルバさん。もう暫くしたらココを出ようと思います」
「おはようございます。シュネーさん……で、この軟体生物のように俺に絡み付いている物体は如何しますかね」
寝なおす前とはまた違った絡みつき方を披露してくれている、安眠状態でグゥグゥ言っているヴィルの頭頂部を眺めつつ、俺はシュネーさんに苦笑いする。
暖かくて暖房器具の代わりになってくれた事に対しては感謝の意を表明したいのだが、この犬っころはもう少し遠慮という物をだな。
シュネーさんが申し訳無さそうな顔をしつつ、俺に絡み付いているヴィルを引き剥がしに掛かってくれた。手馴れた様子で俺からヴィルの両手両足を解いていく様子を眺めつつ……ああ、シュネーさんにとっても日常茶飯事な出来事なのかなーと納得した。
恐らく、普段はシュネーさんが抱きかかえられているのだろう。
抱き枕でも作ってやったほうが良いんじゃないかね。
冒険者だとあんなでかいもの持ち運んで移動は出来ないか。ままならない物だな。
ヴィルの拘束から解き放たれた俺は、両手両足をワタワタして何かを探すように蠢いているヴィルの両手の前に、今まで背もたれ兼敷布団の変わりにしていた、カボチャのクッションを差し出してやる。
俺の手から奪うようにクッションを掴み、ガッチリとしがみついたヴィルは、顔面をめり込ませる勢いで両手足を使ってクッションをホールドし直すと……数秒後にまた安らかな寝息を立て始めた。
うむ……寝る子は育つだな。
シュネーさんに目配せしてみたが、このままギリギリまで寝かせてあげて下さいとの事だった。
本当に二人は仲が良いな。奴隷とご主人様っていう役割には見えないよ。
俺はストレージからカロリーバーを取り出して、シュネーさんに一本お裾分けをする。
どうせ何時もの癖でスタック限界数まで買いこんであるので、一向に数が減らないのだ。
例のミックスジュースも取り出して手渡し、二人でカロリーバーを齧りつつストローを吸う。
「この頑丈な紙の入れ物に封入された飲み物は、色々な果物の味が混ざり合って美味しいですね!」
「気に入りましたか?」
「はい! それにこの飲み物を摂取すると、身体のそこから活力が沸いてくるような感じがします」
まぁスタミナ回復の効果があるからな。俺もゲーム内で愛用してたアイテムだし。
ヤバイ成分は含まれて居ない筈だからたくさん飲んでも問題ないだろう。
アイテム効果でゴリ押して無茶すると、ゲームとは違い体に負担が積み重なって体調を崩しそうではあるけれど。ご利用は計画的にってとこだな……
俺はシュネーさんと小声で会話しつつ、わびしい朝食を終了させる。
そうしているうちに出発する時間になったので、ヴィルの頬っぺたをぐにーっと引き伸ばしてやると、んごぁ! という凄い声を発しながらヴィルが飛び起きる。よだれを拭かんかい、よだれを!
仕方なく残った右手部分の『宵闇の長手袋』を引っこ抜き、意を決してやつの口周りを吹いてやる。
「ん゛ぁー ありがとうございますぅー」
「コイツも預けておくから、村に着いたら洗って返せよ」
『宵闇の長手袋』の片割れをヴィルの手に握らせると、俺と自分の手の上を交互に見比べたヴィルが、笑顔を浮かべてビシッと姿勢をただし返答してきた。
「あっはい! 了解です! バッチリ承りました!」
あー返事は良いんだよなぁこの犬っころは。
またもや手袋の匂いを嗅ぎつつ、準備運動を始めたヴィルを尻目に。
俺は微妙によだれ跡の付いたクッションを、ストレージに仕舞うかココで破棄するか悩むのであった。
メインで執筆している作品を優先して行きますので、こちらは今後不定期投稿になります。
ご了承いただけると幸いです。




