第一章と第二章
第一章
〜君との出会い〜
二千十五年、まだ真っ赤に染まった葉が残っている頃、僕は中学生の同級生と久しぶりに同窓会をする事になった。その日まであと二週間、わくわくしてたまらない。もしかして、中学生の時に大切だったある女の子とまた会えるのか。彼女は僕、いや僕らにとってとても大切な人だ。だが中学二年生の終わり頃、突然いなくなった。僕の小さな恋心も花が散るようにひらひらと底に散った。
僕が中学二年生の時に出会った彼女は今まで出会った女の子の中で一番純粋、正直、奇麗、かわいい、友達思い、そして推理力が高い女の子だ。彼女は今、どうしているんだろう。元気にしているだろうか。今でも大好きな謎解きをしているだろうか。時々会いたくなる。彼女は僕に言った、「好きになるには理由なんていらない、根拠もいらない。ただいると幸せな気持ちになるの。」それはまるで僕だ。何の根拠も、理由も無いけれど一緒にいると幸せな気持ちになる。そう、あなたといると。
僕は上野淳。この小さな村にしてみれば結構かっこいい名前だった。中二の時は恋愛なんて興味なかったし、サッカーが出来ればそれで良かった。こんなに小さな学校でごちゃごちゃしてほしくなかった。だが、もうこのときから恋をするときまでのカウントダウンは始まっていた。
彼女に初めて会った時は秋の葉がまだ少し残っているときだった。僕は小さな村に住んでいて、中学校は村で一つしか無い。もちろんクラスは学年で一つ、僕のクラスメートは十人。転校生は全くと言っても良いほどいない。そんな日、あるびっくりするニュースが耳に入った。
「淳〜。」いつものように青いパーカーに黒いジャージの下を着ていた彼は僕が学校に入った瞬間に声をかけて来た。声をかけて来た友達は小枝勇気。ものすごく明るくってクラスのムードメーカーっぽい性格だ。彼はプロのサッカー選手になりたいらしく、毎日朝一番に学校に行き練習している。僕もたまに付き合っていた。
「淳さ〜。新しい子がクラスに来るらしいよ。しかも東京から!」
「へ〜。」この時は別に興味は無かった。だってすぐまたこんな田舎からでていくんだ。僕らは頑張ってこの田舎で生活をしている。テレビのチャンネルもあまり無いし、田んぼ、田んぼそして田んぼ。近所はおばあちゃんとおじいちゃんばかり。こんな田舎は嫌だ!本当は東京みたいな場所に嫉妬している。そう思っていたが彼女との出会いは僕の考えを百八十度ひっくり返した。
でも今はこの田舎が大好きだ。もしここにいなかったら彼女とは会えなかったから。しかも彼女もこの田舎が好きと言っていた。恋って怖いよな。すべてを動かせられる。確か、「サラリーマンがぎゅうぎゅうの電車に乗って、ビルも毎日出来て、ファッションの最先端。という場所よりもおばあちゃんとおじいちゃんが毎日畑仕事をして、自然がいっぱいでのんびり暮らしてられるこの村が好き。だってなんか人間ってこういう方が自然じゃないかな?自然の人間の姿。」こう言っていた。
「自然な人間の姿」とは何だ…そもそも人間はどうあるべきなのか…彼女が言う言葉にはこう言って人間のことをもっと考えさせられることもある。彼女の言葉でいろいろな人が変わった。もちろん僕もその一人。
さて、あの日のことをもっと話そう。たしか勇気が僕に新しい子が来ると報告した所だったはず。そのあと、いつも見たいにホームルームに行った。クラスに入るといつもよりも皆が喋っていた。その話題はもちろんその新しいこのことだった。幸いこの学年は優しい子ばりかだから目立った子をいじめることも無いと思う。
そんなことを考えているとクラスの女の子に声をかけられた。
「ねえそこの男子達!新しい子が来るらしいけどさあ、何か情報ないの?」
「勇気とか情報ないの?」と違う女子が話しかけて来た。実は僕、女子があまり好きではない。なんであんなに騒がしくしてなければならないのか、なぜあんなにほかの人のことを妬んだり、恨んだりしなければならないのか。勇気は別に気にしていないみたい。勇気が言うには、全員がそうって訳ではない。沈黙が続いたら、勇気が口を開いた。
「なんか東京から来るらしいよ。」
「東京?」女子がざわざわしてきた。東京から来て何が悪い?だがそう言っている僕が一番東京に憧れていたのかもしれない。
「東京か〜。」つい口に出してしまった。幸い僕の言葉には誰も気付かなかった。このときはどんな少女なのかとても楽しみだった。それは「東京」という言葉で判断していたからだ。
ガラガラ
先生が入って来た。クラスの皆は急いで席に着いた。僕らの担任の先生はとっても明るいが怒ると鬼のような顔をする先生だ。怒るとどんな子でも泣いてしまう、赤鬼先生と呼ばれている先生の名前は中川まり。意外とかわいい名前なんだが、人は名前や見かけで判断してはならない。
「では、皆さんが知っているように新しい仲間が来ました。どうぞ入ってください。」
「はい。」扉の奥からかわいいらしい女の子の声がした。
ガラガラ
彼女はゆっくりと、だが堂々と中央まで歩いた。彼女は見た事の無い茶色の制服、そして茶色のブーツ。髪の毛は肩の高さで内側に巻いていた。前髪はぴっちり眉毛の高さに切ってあった。色も濃い茶色なのか黒なのかよく分からない微妙で、そして自然な色をしていた。彼女は僕を魅了した。こんなに引きつけられるような思いは初めてだった。今思ったらこれは「一目惚れ」と言うのが分かった。
「初めまして、小池理子です。東京から来ました。これからよろしくお願いします。」彼女はとても優しい声をしていた。内側から出てくる上品さが一番後ろの席でも分かる。
「では、小池さんは上野さんの隣に座ってください。」先生が僕の方を見ながら理子に言った。
「はい。」と言い、僕の方に歩いて来た。僕の中でこんなに緊張したのは初めてだ。
ドクドク
「初めまして。先ほど言ったように私は小池理子です。よろしくお願いします。えっと、上野なにさんですか?」ずっと下を向いていた僕に笑顔で話かけて来た。こんな人は初めてだ。黒い服を着ていて、フードもかぶっている。ずっと下を向いている初対面の人に優しい笑顔で、何の戸惑いも無く、話しかけて来た。
「ぼっ僕は、その上野淳です。よろしく。」
「はい、淳さん!」彼女は僕の隣に座った。皆が彼女を見ている。それからずっとボーっとしていた。彼女はどういう理由でここに来たのか、彼女はどういう性格なのか。彼女のことばかり考えていた。そうしているとホームルームが終わった。多分僕が世話係らしき者だと思った。だから勇気を振り絞って声をかけてみた。まずは仲良くならなくては!そう思った
「あの、小池さん、なんで僕が上野だって分かったんですか?」なんでこの質問を聞いたのかは分からないがとっさにでた言葉がこれだった。
「それは上野さんと言ったとき、淳さんがピクって反応したんですもん。先生もそちらを見ていたので。あと、理子で良いです。」
「理子?」
「理子は名前の理子ですよ。」
「ごめんなさい。」
「あなた、すぐ謝りますね。だめですよ!自分を大切に!自信もって。自信を持っている人はなんだか輝いていて、しかも自分という人間を受け止めていると言うか…よく分からないや!」そう言い、彼女は違う女子のグループの方に行ってしまった。あの時の言葉は今でも忘れられない。自分に自信持たなきゃならない。勇気はいろんな人に声をかけられる。それはたぶん性格もあるが自信を持っているからだからだろう。なんか声をかけやすいオーラが出ている。自信を持っているから自分が何を言われようと気にしない。自信を持っているから胸を張って「これが自分だ」と言える。だが僕は言えなかった。いじめられたらどうしよう、面倒なことになったらどうしよう。そういっていつも怖がってばかりいた。だが自分に自信を持たなければならないと僕はそのとき分かった。
そうしてしばらく彼女のことを考えてばかりだった。彼女とはそれから少し喋ったが女子のグループに行ってしまった。その話はどうってことない話。例えば、「今日は何があるんだっけ?」や「今日の給食なんだろう?」
なんでこんなに考えてしまうんだろう。女子は苦手なはずの僕がこんなに女子のことを考えたのは初めてだ。女子だからそれはもちろん女子方に行くだろう。まあ、僕には関係ないし。そう思うようにした。
あの日から一週間ぐらい立った。毎日同じようなつならない日が続いた。なんだかんだ、あと二週間で冬休みだった。その朝、僕はホームルームの時間ちょっと前に席に着いた。勇気はギリギリまでサッカーをしていた。そうしたらもう理子はいて、なにかの本を読んでいた。花柄のブックカバーをつけていたから題名が見えなかった。そして、僕が遠慮気味に席に座った。理子は少しこっちを見てから僕に声をかけて来た。
「あの、淳さん。私、あなたに凄く感謝しています。だって一日目、もしあなたが私の隣の席ではなかったら、私ずっと友達出来ていませんでした。なんかあなたを見ていると元気がでて、私が自信を持ってと言ったとき、深く考えてくれましたよね。そんな人初めてでした。あなたなら、言って良いかな?」よくこんなすごいことを、なんて勇気があって正直なのでしょう。僕は同い年ながらもとても感動した。こんな人、本当にいるんだ。驚きが隠せなかった。
「何を言うんですか?」
「私の父と私の夢のこと。」理子が軽く微笑みながら言った。
「お父さんのこと?夢のこと?何で僕?」理子は僕を数秒見つめて来た。何か照れくさくて僕は目をそらした。
「理由は先程述べましたよ!私のお父さんは探偵の小池竜之介。私の夢は探偵になること。推理は大好きで推理小説とか、恥ずかしいけどドラマとかも大好きなんです。」けど彼女は下を向いて少し恥ずかしそうだった。顔がほのかに赤かった。自信を持ってとか言っていたのはどこの誰なんだ?
「自分に自信を持って。その方がいいよ!あと、僕もドラマや本は大好きなんだよ。今見ているのはえっと、『昔の思い』、あと『昨日の私』、えっと本はシャーロックホームズを読んでいるんだ。」
「シャーロックホームズはいつ読んでも面白い本ですよね。『昨日の私』は最高です!来週で終わっちゃうのが寂しいんですが、なんだか主人公のメイがどうなるのか楽しみです。『昔の思い』はミステリーと恋愛が混ざっていますね。主人公と大地のちょっと切ない恋はドキドキして、でも切ない部分は泣いちゃいそうですよ。」
彼女はノンストップで語り始めた。僕は正直びっくりした。あんなに喋ったのは初めてで、しかも彼女の笑顔は春の桜のようにふわふわとしていて、真夏に咲いているひまわりよりも明るく、秋の紅葉よりも奇麗で、冬の雪みたいに見ていると優しい気持ちになる。
「なんかごめんなさい。こんなに話を聞いてくれる人なんて今まで見た事が無いです。私が自信を持ってとか言っているのに自分が自信を持てないなんて、お恥ずかしい限りです。自分の夢も言えないなんて…」彼女の目は今にも涙がでそうで、恥ずかしいのか分からないが下を向いていた。僕はとっさに助けたくて、「大丈夫。君は僕を変えてくれた。人一人の考え方を良い方に変えたんだ。本人が言うんだから間違いない。だから自信を持って!自分が思っているよりも理子は凄い人なんだよ。」彼女の肩に片手を置いた。
「私は凄い人?そんなこと無いですよ。私なんかあなたに比べたら全然凄くないです。ありがとうございます。永遠の友達さん!」そう言って彼女は笑顔を取り戻して僕に手を差し伸べた。僕は手を服で拭いて右手で握手をした。ちょっと照れくさかったな。けどその日、僕の右手は魔法にかかっていたようにずっと輝いていた。たぶん誰も輝いていたなんて思わないだろう。だって僕にしか見えないのだもの。君はどう思っていたのかなんて分からない。僕の気持ちを伝えなくては。
第二章
〜僕の気持ち〜
僕のこの気持ちは何なんだろう。フワフワとしていて、嬉しい気持ちは。君というと時間があっという間に授業が終わっている。もうすぐ冬休みで僕は彼女と会えなくなるのが悲しくなって来た。あれからあんまり話せていない。あれからとっても恥ずかしくって、もう心がいっぱいいっぱいで。
そんなある日、冬休みまであと二日だった。事件は起こった。普通に学校へ歩いていた。そうしたら理子が現れた。いつもなら反対側から来る彼女がなんで?そう思っていてボーっとしていたら、理子に話しかけられた。
「淳さん?淳さん?」僕の顔をのぞいて来た。
「はい?」びっくりして声が裏返ってしまった。
「淳さん面白い。」楽しそうに笑いながら走っていった。彼女が遠くなるのを見つめていながら歩いていた。もう学校は目の前。僕の家から学校は歩いて十五分ぐらい。彼女と会ったのは歩いて二〜三分ぐらい...っていうことは僕は結構歩いたって言う事!
何だ僕、今日はおかしいぞ。彼女と会うだけでこんなに嬉しくなるなんて、僕は『恋』に落ちている。彼女は誰のことが好きなんだろう。恋愛に興味が無いのかな?それなら安全だけど、勇気が好きだったり!クラスのムードメーカーと言っても少しモテる。僕は日々『恋愛』というものへの考え方が変わっていく。
そのまま『恋愛』という終わらないことについて考えていた。
今日はなんだか赤鬼先生こと中川先生が慌ただしい。いつもホームルームの時間ぴったりに着くのに今日は二分も遅れて来た。
「はあ、はあ。では今日は特に何もありません。」走って来たのか、とても疲れたように見える。
「先生、何かあったんですか?」理子が立ち上がって先生に聞いた。
「いえ、別に。」先生は髪を触りながらちょっと下を向いて言った。なにかを隠しているはずだ。
「先生、隠しているんですか?パソコンに関係あることで、大切。う〜ん...」理子が立ち上がったまんまで考え始めた。もちろんクラスの皆は何が起こっているのかは分からない。だって聞いていたのは僕と理子だけだったから。
「何を言っているの?ほら、ホームルームは終わり。次の授業に行きなさい。」先生が慌てて言った。
「「は〜い」」
「今はまだ八時二十七分。ホームルームは三十分に終わり、授業は三十五分から。先生いっつもきちっとしてますよね。今日はなんか先生らしくないです。お手伝いできる事はありますか?」理子は先生を無視し、話しかけた。僕も理子をサポートしなければ。確か、パソコンが何か...
「大切なデータ?成績表!無くしたんですか?」頑張って先生に言ってみた。理子はびっくりした様子だが、こっちを見てニコっと笑った。
「ちょっと二人こっちに来なさい。」理子はなんの戸惑いも無く先生についていった。それは彼女の恐ろしさを知らないからだ。赤鬼先生の...
「あのね、中間テストのデータを無くしたの。って言うよりも盗まれた。」盗まれた?僕はびっくりして理子を見た。理子もこれにはびっくりしていた。
「見つけてほしいの。お願い。」先生が深く頭を下げた。何も考える前に理子は返事をした。
「はい!もちろんです。探偵、理子の初事件です!」目をキラキラと輝かせ言った。じゃあ僕は助手的な感じで。けど彼女と一緒に事件を解決できるなんて、嬉しい。
「淳さんは...助手って言う事で。」キラキラとした笑顔で僕に言った。地味に傷ついたけど、まあ助手でいいか。
「はい!ワトソンです。シャーロックホームズさん。」僕も負けずに笑顔で言った。