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騎士サマ親衛隊隊長な姫君  作者: 萩之まろあ
親衛隊結成後のこと
15/16

試練、そしてまた新たな試練

「……」

 その場を沈黙が支配する。

 私を含め、三者一様に考え込むけれど誰も良い対策案が浮かばないのは、二人の顰めた顔を見れば分かることだった。

 こうなったら、もう今日は仕方ないと思い切る。


「まあ、考えようによっては、お祭り開催の許可を国から取れたってことだから、その点は良かったんじゃないかな」

「出た! エリザ隊長の土壇場ポジティブ思考」

「これ聞くと、どうにかなるんじゃないかって思っちゃうんですよね」


 ミカ達の表情が少し緩む。そうそう、イヴァン様の親衛隊隊員たるもの、いつも余裕を持って行動しなければ!


「だって『〈親衛隊規律/第四十条〉理不尽なものに対しては決して屈しない!』でしょ?」

「……そうですね」

「はい!」


 よっし。二人とも、良い返事!

 力を抜くところは抜かないと持たないし、普段の活動に支障が出るからね。

 ……ん?

 私、何か忘れているような…………。


 ああああああああ!!


 そうだ! 明日はヒトナお婆ちゃんの家にイヴァン様がいらっしゃるんだ!

 早く買い物を済ませて、準備をしておかないと!


 焦った私は口早に言い放つ。

「とにかく、お祭りのことは何か考えておくよ! ミカは連絡ルートを使って、他の親衛隊隊員に今日の一件に関する緊急集会を近々開くことを伝えて。

 以上、取り敢えず解散!!」


「えっ、隊長!?」

「ごめん! 急ぐから!」


 そして猛ダッシュ。

 ううー……。これから買い物して、掃除して、ヒトナ婆ちゃんに明日のことを話して……。ちゃんと夕方までに城に帰れるかな? 時間がない!



「こんにちはー!」

 挨拶もそこそこに、通りにある馴染みの食料品店に飛び込み、急いで目当ての物を手に取っていく。それは明日の午前に作ろうと思っているお菓子の材料だ。

 最初は既製品を買おうかと迷ったのだけれど、高級店の物を食べ慣れていらっしゃるだろうイヴァン様に、私の少ないお小遣いで買えるような物をお出ししても喜ばれないだろう。と考えて、手作りという真心の味で誤魔化す作戦に至った。


「あらぁ、エリザじゃない。……何か作るのぉ?」

「マチルダさん」

 奥から店主である、年齢不詳の美女マチルダさんが出てきて、私の手の中にある薄力粉を見ながら話しかけてくる。


「クッキーを作ろうかと思いまして」

「普通のやつ? 溶かしたチョコでデコレーションはしないの?」

「はい。あまり時間に余裕がないので」

「なら、特売のココアパウダーだけでも一緒にどう?」

「……ココア・クッキーですか」

 この間買ったお菓子作りの本に載っていた定番レシピにもあったな。

「そうそう。余った生地にパウダーを混ぜるだけでココア・クッキーになるから、クッキーの味と色に変化が付けられるじゃない」

「そうですねえ」


 うーん。

『時間がないから、なるべく時短に時短を重ねた料理を!』としか考えてなかったけど、商売上手なマチルダさんのお言葉に従おうか。だって、せっかくイヴァン様が家にいらっしゃるんだし。


「じゃあ、まとめて買わせてもらいます。あと卵も下さい」

「りょうかーい。全部で五百セリよ」

「はい」

 ぴったり持ち合わせがあったので、即座に支払いを済ませ、包んでもらった品物を手に持つ。


「では、失礼しま――」

「あら。そんなに急がなくたっていいじゃない」

「!」

 マチルダさんがニッコリ笑って、素早く立ち塞がってきた。私は言葉を失う。



「私さっき見たのよ。店員の子に任せて出かけた時に。貴女、随分と慌てて印刷所に駆け込んでいったわよね? あれは何かあった顔色だったわ。――何を隠してるの?」

「いえ、あの、……」


 この食料品店にもイヴァン様のご生誕祭に参加してほしいと思っている。となれば第二王子の件はいつか話さなければならないことだ。でも、まだ話す順番の整理もしてないし……。


「どうしたの? 早くお姉さんに話してごらん」

 ……要約すると、『早く話せや、ノロノロすんなや』っていうオーラが満面の笑みの向こう側から伝わってくる。うん、これは間違っても逆らっちゃいけないところだ。


 マチルダさんは『食料ギルドの女傑』と皆から呼ばれて陰で恐れられている人物で、あのアレックスでさえ一目置いているらしい女性なのだ。

 以前、食料ギルド内で話し合いをしている時、マチルダさんの冷静な意見にやり込められた男が激昂して彼女に殴りかかろうとしたことがあったという。その男はマチルダさんによって一本背負いと見せかけた、空中横回転を半周で勢いを付けてからの、全力投げ飛ばしという三段階の反撃を受けたらしい。怖すぎる。

 こうなったら……!


「――ということがありまして」

「なるほどね」

 結局、洗いざらい話す私です。自分の命は自分で守ろう。

 ……まあ、マチルダさんは意味なく暴力で自分の主張を通す人ではないけどね。


「話は分かったわ。今日は帰っていいわよ。急ぐんでしょ」

「ハイ?」

 思ったより解放が早いですね。


「別に取って食う気はないわよ。これでお祭りに参加するかしないかは、私が決めることでしょ。それは、これから考えてみるわ」

「……宜しくお願い致します。では、また今度」

 マチルダさん自身の決定に、これ以上の介入は出来ないということか。

 彼女が色よい回答を出してくれますようにと、私は祈るしかないんだ。

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