ご了承を頂きに参ります③
「じゃあ、おっちゃん。また今度ねー」
「おう。元気でな~」
おっちゃんと別れ、眼鏡屋を出た私はヒトナお婆ちゃんの家に向かって、考え事をしながら町の通りを歩き出した。
それにしても、と思う。兄は、というか第二王子殿下は果たして一介の町娘エリザと会ってくれるだろうか、と。
…………うん、無理だよね。エリザは上級貴族でも大商人でも何でもない。王子の面会を望んでも、門前払いされるのがオチだ。
「兄上との面会を成立させる方法をまず考えないとだよ…………」
いや、その前に明日の、ヒトナお婆ちゃん宅へのイヴァン様ご招待を乗り切らねば! だから今日は、お婆ちゃんちの掃除とか色々しておこう。はあー、やること多過ぎだけど、頑張ろう。
「エリザ隊長ぉぉぉー!」
「!?」
何だ何だ。後ろから大きな呼び声が聞こえたので立ち止まる。
振り向けば、よくミカと同人誌を作っている親衛隊隊員が走って来ていた。彼女はミカに同行して印刷所に行っていたはずだ。
とりあえず私は首尾を聞いた。
「どうだった? 印刷所はお祭りに賛同してくれた?」
「それがっ…………、大変なことになっていて! 印刷所に第二王子殿下が突然いらっしゃって、居合わせたミカが親衛隊の活動について、手厳しく追及を受けているんです!!
隊長っ。お願いですから早く行って、ミカを助けてあげて下さい!」
「っ、分かった!!」
緊急事態、勃発。
私は印刷所へ、呼びに来てくれた親衛隊員と共に全速力で走り出す。
駆けつけたところで事態が好転するとも思えないけれど、私が一応、親衛隊の責任者だ。もし兄上に責められる咎があるならば、それは隊長の私が受けるべきもの。兄上の矛先がミカに向かうなど、あってはならない。
それに……ミカは逆上すると、見境がなくなる子だ。いくら第二王子がムカつく野郎だとはいえ、仮にも王族に対して暴挙に出ることがありませんように!
ようやく印刷所に着き、私達二人はバタバタと中へ飛び込んだ。建物の内部はそこまで広くないので、目的の人物はすぐに見つかる。
第二王子には多分この建物内で一番立派な椅子ーー社長の物と推測されるーーが用意され、仕方なさそうに腰を下ろしていた。
艶やかな黒髪と、不機嫌そうに見える細められた黒い瞳。悔しいけど美男だ。
そして、そんな第二王子の隣にいるのは側近でーー
「何だ、お前達は」
この、町民を見下しきった口調をする不遜な男。……「アンタが身を尽くして仕えている、そこの王子の妹です」とは勿論言えません。
彼の髪色は第二王子と一緒だけど、瞳はエメラルドグリーン。『美しい第二王子の側近』として、隣に並んでも遜色ない美貌の持ち主だ。
それで、えーっと。
……飛び出してきたのは良いものの、この二人とどうやって戦えばいいのかな?