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騎士サマ親衛隊隊長な姫君  作者: 萩之まろあ
親衛隊結成後のこと
12/16

ご了承を頂きに参ります②

 イヴァン様に会いにいった翌日の午後、私は町の眼鏡屋へ行った。

「こんにちはー」

「おっ! よお、嬢ちゃん。久しぶりだなあ」


 扉から入った途端に、カウンターの向こうに立っている店主のおっちゃんに話しかけられる。おっちゃんは四十代の働き盛りで、まだ黒髪に白いものが混ざらない、やや男前な人だ。



「今日もメンテナンスだろ?」

 ほれほれ寄こせ、と片手を差し出されたので、素直にビン底眼鏡を外して渡す。地味で目立たない第四王女の素顔なんて誰も覚えていないから、けっこう気軽なものだ。おっちゃんに眼鏡のメンテナンスをしてもらいながら、アットホームな居心地に気を許した私はカウンターにうつ伏せた。



「おっちゃん。もっと目が疲れなくて、視界の良いビン底眼鏡が欲しいよぉ」


「また、そのボヤきか。お前さんが欲しいのって、あれだろ? かけても目があまり悪くならなくて、他人から見てビン底眼鏡だと認識されるやつ。それ、そもそも意味分かんねーから。前提としてビン底眼鏡は視力の低い人がかけるもんだよ。嬢ちゃんみたいに、元々の視力が悪くねぇもんがする物じゃない。いつも言ってっけどさ、こんな状態を続けたら、目が悪くなるぞ」



「うぐっ。目が悪くならないように、おっちゃん、もっと改良したビン底眼鏡ぇ~。お願い、作ってぇ」



 ここで見放されたら頼る人がいないので、私は粘る。



「ったく。嬢ちゃんは本当に変わり者だよなぁ……。あんたのことだから何か事情があるんだろうし、力になってやりたいけどよ。親衛隊で娘も世話になってるみたいだしな。まあ、今かけてる物はビン底眼鏡の中で言えば、度は軽いほうだけどさ。嬢ちゃんの依頼を受けて、俺がちょっぴり工夫して作ったからな」



 おっちゃんは一呼吸置いた。そして、すぐに続ける。



「話の分かる嬢ちゃんだから、率直に言うぜ。そんなん頑張って開発しても、町じゃ需要がないんだ。利益が出なきゃ、時間かけるだけ無駄だろ。それより、もっと売れる商品作っていかないと、俺たち家族が路頭に迷うことになっちまう」


「分かりませんよ? これからビン底眼鏡の時代が来るかもしれないじゃないですか。そしたら、おっちゃんは流行りの最先端を行く人として、脚光を浴びるようになるんです。あー、おっちゃんは皆にもてはやされて、もっと店も繁盛するようになるんだろうな~。そして若いピチピチした女の子達もいっぱい来るようになって、『おっちゃん、カッコ良い~!』って騒がれるようになるかも?!」



「…………若い女の子かー。俺も若い頃は天才と呼ばれてたのに、町の片隅で随分とくすぶってたけど、ようやく俺の時代が来るのかもなぁ…………」



 と、おっちゃんが一人で何かブツブツ言い始めたので、ちょっと待つ。


「仕方ねぇな。少しだけなら、趣味の時間削って頑張ってやっよ!」

「ありがとう。おっちゃん! よっ、男前!」

「ハハッ、嬢ちゃん分かってんな~」



 よし、洗脳完了。おっちゃんはチョロいね。



「それから、おっちゃん。まだ企画段階なんですけど、町の一画でイヴァン様のお誕生日祭りを開催したいと思ってまして。賛同してもらえます?」



「ん? イヴァン様のお誕生日って、確か七月十五日だったか。いつも娘が騒いでるから、俺まで覚えちまったよ。で、一画って、具体的にどこからどこまでなんだ?」



「私が、お誘いしようと思ってるのは、この眼鏡屋からパン・メリーゼまでですね。さっきパン・メリーゼと、その向かいのお菓子屋さんには買い物ついでに寄って来て、オッケーもらえました。後は青果店とか一つ一つ、隊員の皆と手分けして掛け合ってみる予定です」



 補足すると、いつも月刊紙や号外の印刷を頼んでいる印刷所には今ミカを向かわせているし、隊員の白手袋を発注した洋服店にはサラに行ってもらっている。ちなみにラプネーの父親の病院からは既にラプネーの説得によって参加が決まりそうらしい。これら三ヶ所も区画内にあるので、是非祭りに参加してもらいたいところだ。



「そうか。いいぜ、イヴァン様には町の平和を守ってもらってるしな。俺の仲間連中にも了承もらえるようにしとくから、週末にでも結果を聞きに顔出してくれ」

「やったあ! ありがとうございます。お任せします!」



 そう、町の商工には仲間制度――――――ようは幾つものギルドがあって、一店だけ勝手な商売をすることは許されない。例えば、この時計屋も同種の店々で作られた一つのギルドに所属しており、厳しい掟の下で営業している。お店が祭りに参加する為には、所属ギルドの同意が不可欠なのだ。

 


「でもなぁ、嬢ちゃん。店側と各ギルドの了承を得るのも大事だが、元締めの許可が無いと駄目だぜ? あんたなら分かってると思うが、祭りに参加する店の売り上げには町の金が関わってくるからな」


「…………そうなんですよね、はぁ~。面会を求めようとは思っているんですが」



 この国には経済の元締め、またの名をラスボスと陰で呼ばれている第二王子の一派がいる。つまり私達が祭りを行うには、国の経済を第一に任されている第二王子達からGOサインをもらわないといけないということなのだ。………………私、あの人と、その側近が苦手なんだよね。一人は半分だけ血が繋がってる自分の兄だけどさ。あー、会いに行かなきゃいけないの嫌だなぁ。

『パン・メリーゼ』:マーガレットの家の隣のパン屋。

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