ご了承を頂きに参ります①
会議の翌日。午後になり、私は今イヴァン様のお屋敷へと足を運んでいるところだ。あ、いたいた。厳つい門番さん。この人は何ていう名前なんだろうね。顔が怖すぎて迂闊に尋ねられないよ。個人的に友達になりたいけど、どう話を切り出せばいいのかな。まあ、それは今度考えよう。
「こんにちは。イヴァン様はご在宅でしょうか」
「はい。どうぞ、お入り下さい」
「宜しいのですか?」
「勿論です。エリザ殿とエリー殿は無条件にお通しするよう、命じられております」
唖然とする位に、あっさりと中へ通される。これは……、ついに私がイヴァン様に友達認定をされたということだろうか。やったね! その信頼を裏切らないように今後も誠心誠意頑張りますよー、イヴァン様。
玄関からは使用人さんによって客間へと案内される。
それから、まるで賓客に出すように恭しく持って来られたお茶を頂きながら座ってお待ちしていると、すぐにイヴァン様は姿を現した。私は立ち上がって、ご挨拶をする。
「イヴァン様、こんにちは」
「こんにちは。よくいらっしゃって下さいました。貴女はお誘いしても、なかなか来て下さらないから……。さあ、どうぞ座って下さい」
大歓迎を受け、恐縮しながら再び座る。
こんなに笑顔でいらっしゃるけれど、せっかくの休日なのに私が長居して邪魔をしたらご迷惑に違いない。用件を伝えて、さっさと退散しなきゃね。
「あの、先日お伝えしたイヴァン様のお誕生日会の件なのですけれど、そちらを変更して、お祭りを催せたらと考えているのですが。そういったことは、お嫌いではないですか?」
「お祭り、ですか。想像もつかないのですが、具体的にはどういうものなのですか?」
「私としては、その一日間、町の一区画で開催するというものを考えております。そして出来れば商店の人達にも参加してもらって、多くの人にイヴァン様のお誕生日を楽しく祝ってもらえればいいな、と。
でもイヴァン様の気が向かないようでしたら、以前の案のまま、お誕生日会をさせていただきたいですわ。
それと準備期間が約二ヶ月と短いので、お祭り場所を借りる許可を町から得られるかが心配なところではありますね」
どうかしら。イヴァン様、お祭り案に頷いてくれるかしら。
私は息を詰めて、ご返答をお待ちする。
「祭りとは気恥ずかしいですが、貴女がやりたいなら反対はしませんよ。ただし祭りをするならば当日、私にエリー殿と二人で祭りを回る時間をいただきたい。私からのお願いは、その一点だけです。その他のことは貴女がたにお任せします」
「……エリーとですか?」
いやー、無理でしょう。イヴァン様と並んで歩いているだけで後日、夕闇に紛れて町の女性達がエリーと見分けを付けられずにエリザをリンチします。この町の女性達は、結構たくましいのです。なので私の身の安全のことをどうぞ考えてやって下さい。……そう説明しようと、私が口を開きかけたところで、
「はい。エリー殿は二ヶ月後もまだ町に滞在されている予定ですよね?」
と、どうしてかイヴァン様は自信ありげに仰る。
ここで「エリーは遠い国に帰りました」とお伝え出来ればいいのに。彼なら調べようと思えば町の城門通過者の情報を確認出来るのではないかと思うと、躊躇してしまう。……はあ。
「いると思いますわ」
私は肩を落とし、そう答えるしかなかった。
「それは良かった。楽しみにしていますね。
それからエリザ殿。エリー殿から、彼女と私との約束について聞いていらっしゃいますか」
「!」
約束とは、ヒトナお婆ちゃんの家にご招待するというアレですか。忘れていて下さると良いなと思っていたのですが。
「……勿論、聞いておりますわ。イヴァン様のご都合さえ宜しければ、明日明後日でも構いませんということですけれど」
打つ手がなく、私は腹をくくる。
悲壮な覚悟を決めた私の固い表情に対して、イヴァン様の笑顔の輝いていること。
「それでは明後日の午後に。
エリー殿に宜しくお伝え下さい」
「…………はい、分かりました」
こうなったら仕方がない、ご招待とお祭りを何とか乗り切らなければ……。そんなふうに不安ばかりの私とは反対にイヴァン様は上機嫌で、その午後は随分と長く彼とのお喋りに引き留められたのだった。