序章 七月二十一日
同じ時間の過ごし方
銀神月美
序章 七月二十一日
酷暑の中の体育祭も終わり、学校中が夏休みのことばかりを考えている。私達もお弁当を広げながらみんなと同じように夏休みに何をするか話し合っていた。
「夏といえば例の祭典ですな、とわ氏」
「ん? 確かにお祭りはあるけれど」
日向が永遠に話し掛けているけれど、全く話が噛み合っていない。勿論、いつものごとくわざと話を逸らしているのだろうけど。
「もう、逸らさないで欲しいなぁ」
「私は敬虔なブッティストだからちゃんとお墓参りに行くの」
冗談を交えながらいつものように楽しくお昼ごはん。高校二年生の夏休み目前の今、進学校故の圧力が先生から掛けられていて、今年が高校時代最後の夏休みなんて言われている中で、きっと来年は受験で忙しくなるだろうから、高校二年生だからこそ出来る何かを実は真剣に悩んでいた。今みたいに二人と楽しく過ごせる時間があとどのくらいだろうと、高校生が考えることには思えないけど、私は真剣に考えていた。
「で、環は夏休みに予定あるの?」
「え……うーんと」
真剣に色々なことを考えた結果、私が辿り着いたのはある意味で突拍子もないことだった。でも、我ながらに自信がある提案で、胸は張らないまでも強く宣言した。
「同じ時間の過ごし方を考えようよ」
私の言葉を聞いて二人は目を丸くして、一体何を変なことを言っているのと目で言ってくる。二人がそんな態度を取ることは予測の範疇だったけれど、ここまであからさまに、そして心配そうな目で見てくることまでは予想していなかった。
「えっと、それはSFか何かの構想かな?」
「いやいや、きっと純愛ものだって」
私の言葉は本当の意味を理解されることなく曲解されて、二人のことだからそのまま突き進んでしまうと予測される。だから、私は真剣なのだとしっかり宣言しないといけない。
「違うよ。いつまでも今みたいな楽しい時間は過ごせないから、何かこう……頑張って今の楽しい時間を、ずっと同じ楽しい時間を過ごせる方法はないかって」
途中、自分が何を考えているのか分からなくなったけど、何とか最後まで二人の介入を許すことなく言うことが出来た。でも、邪魔が入らなかった理由は別にあるようで、
「えっと、それはつまり……SF?」
「いやいや、オカルトでは?」
結局のところ曲解されたまま話が進んでしまったのだった。
その後、代償に昼休みの大半を失って何とか間違った解釈を修正して、自分が本当に言いたかったことを二人に伝えた。私の言葉を漸く理解してくれた二人は最初やはり心配そうな目で私を見たけれど、ちょっとの思考時間を経てから互いの顔を見合わせて、「なるほど、そういうこと」「暑さでやられたかと」と冗談を交えて意味するところを捉えてくれたようで何より。それで昼休みが終わって、詳しい話は別の機会ということで。
先生の理不尽な圧力を掛けられた私が考え付いたのは、自分達の力を最大限に生かして〝同じ楽しい時間を過ごす方法〟を考えること。それが今年の夏休みに私がやろうと決意したこと。文芸部の永遠、漫画研究部の日向、そして美術部の私で、今のこの楽しい学校生活を作品の中に閉じ込めて、作品を見たらすぐに今のこの時間を過ごせるという、つまりは作品を見るとタイムスリップしてしまうという、そんなSF的でオカルト的な話を目標に実行すれば、きっと何か出てくるはず。三人寄れば文殊の知恵。
「でも、よくよく考えると、三人寄ってやっとこさ知恵が出るのよね」
「おっと、これは手厳しい発言」
「それはちょっと酷いかな」
そんなこんなで昼休みのこの話からはじまりはじまり。