7.捜し者は槙ですか?
樂くん達は、楓さんと、楓さんに持っていかれた槙を追いました。
数分後。
運動場に到着。楓ちゃん達はもうすでに中にいるだろう。槙を引きずって走ってたし。身体強化ってすごい。
「二人とも、どこにいるかな」
「どうせ槙は水場でしょ」
「まあ、そうだよね」
槙は能力の関係で、水場……川や湖の周辺にいることが多い。捜しやすくて助かる。
ここ、運動場は広大な面積を持つ。具体的な面積はよくわからないけど、学生が千人ほど集まってかくれんぼをしても余裕そうなくらいなので、とりあえず広い。ちなみに運動場は人の手のあまり入っていない自然公園みたいな地形で、範囲はただフェンスで囲ってあるだけ。雑だ。
さらに、体力の有り余る学生たちが存分に暴れられるようにという配慮から、運動場一帯にはちょっとした結界が張ってある。『内部では攻撃を受けても傷を負わない』という高位のものらしい。学生たちは、ここで広範囲魔法をぶっ放したり組み手をしたり、日頃のストレスを発散している。
「楓は……どこだろう」
「槙で遊んでるか、走り回ってるか、かな」
「……まあ、そうだね」
後者なら、捜しにくいどころの話ではない。動き回られていたら見付けるのが非常にめんどくさい。見付けたとしても、足の早さ的に追い付く事ができない。どうか槙で遊んでいてほしい。
「んー……とりあえず、ボクは楓を捜すよ」
「じゃあ、僕は槙を」
「ん。じゃ、後でね」
「うん」
柚は視界の開けた方へ向かっていった。
僕も槙を捜そう。川に添って歩いていけば、そのうち見付かるでしょ。
――――――――――
近場にあった川を遡ること十数分。
このあたりから川幅が広くなる。どうやって捜そうか。
とりあえず辺りを見回してみる。人影はない。
人影はないけど……遠くに白い生き物が見える。あれはたぶん、というか間違いなく槙の猫ちゃん。なんでこんなところに? 槙がいるの?
あの猫には槙に寄っていくという習性(?)がある。気付くと槙のそばにいる。
それなのに僕は近付いただけで威嚇される。なんでなの? 僕の何が気に入らないの? むしろ槙の何が気に入ったの?
……ああ、だめだ。あんまり考えると立ち直れなくなりそう。考えないで行動しよう。
猫ちゃんのいる方へ向かう。いや、違うよ? これは槙を捜すためだよ? 少しでも槙のいる確率の高い方向へ行くと猫ちゃんに近づく結果になるだけであって、別に猫ちゃんに触れたらいいなとか考えてるわけじゃないよ?
ゆっくりと猫ちゃんの方へ――じゃない、槙のいそうな方へ歩いていく。ゆっくりと、気付かれないように。そーっと、そーっと……。
あと10メートルくらい。よしよし、この調子。
しかし、そこはやっぱり野生の動物。気配も消せないような人間が、ここまで近付いてしまえば流石に気付く。僕に接近に気付いた猫ちゃんは一目散に逃げ出してしまった。
……うん。知ってたよ。触れるなんて思ってなかったし。というか、元々触ろうとなんて思ってなかったし……! うん、思ってなかった!
「だから別に悲しくなんてないし……」
「何を言っとんのだお前は」
「!?」
猫ちゃんに逃げられたと思ったら、いつの間にか槙に背後を取られていた。一体どこから湧いたのか。……そしてなぜか、槙の肩に猫ちゃんがしがみついている。ええぇ? さっき僕の正面方向からまっすぐ逃げて行ったよね? なのにどうして背後から湧いた槙と一緒にいるのさ?
「とりあえずさ槙、ツッコミが追い付かないんだけど」
「そこで全部拾うか流すかでお前センスが問われるな」
「そんなセンスどうでも良……くはないけど、ひとつ聞くね? なんで槙はここに?」
「ああ、楓から逃げてきた」
「聞きたいのはそういう事じゃないんだけど――」
そんな会話をしていたら突然、
「見付けたぞ“白猫”ォ!!」
槙の後ろから誰かの声が聞こえた。