第八話「小柄なスタンダード女神」
「櫻木氏!!おはよう!!」
朝、教室に入ると早紀島君のご機嫌な声が飛んできた。
「櫻木氏のおかげで、あの女神と話すことができた!!君には本当に感謝しているぞ!」
興奮気味に語る早紀島君の手が私の腕を掴み、ぶんぶんと上下に振り上げる。只でさえ小柄な私は、早紀島君が振る度、若干足が宙に浮いてしまう。
「さ、早紀島君っ、浮いてる、私浮いてるからっ」
「む、あぁ、すまない。しかし櫻木氏は本当に小さいなぁ」
そう、私は高校一年というもう成人に近い年頃だと言うのに、身長が小学生並みに小さい。この間なんて、電車の切符を大人料金で払おうとしたら「違いますよ」と、駅員さんに止められたのだ。
今だって、私は同い年の女の子たちと頭一つ分の差がある。せめてもう少し、150もあればまだ、大人に見られるかもしれないのに。
そんなことを考えていると、急に早紀島君の素っ頓狂な声が、私を我に返らせた。
「ど、どしたの早紀島君!?」
そのまま硬直してしまう早紀島君の視線の先を見てみると、そこには―――
「煩いぞ馬鹿が」
「実君っ」
物凄い顔で睨みつける実君が、本を片手に仁王立ちしていた。
「……おいそこのオタク」
「ひ、ひゃいっ!?」
「退け。そこは僕の席だ」
実君が、びしっと早紀島君のいた席を指差す。不機嫌な顔は、更に色を濃くなり、ついにはだんっ、と床を力強く踏む。
「す、すすすすすすまないっ」
「……」
早紀島君が慌てて退くと、実君は何事もなかったかのように椅子に着席して―――そこでちょうど、HRを知らせる鐘がなった。