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第七話「時をかける女神」

季節は梅雨。ジメジメとした空気が空を覆う中、私と佐川さんはある一人の男子生徒さんと会うことになった。



といっても、私はすでに彼と親しい関係にあって、毎日話をしている。佐川さんは違うクラスなので、この学校伝統の全学級自己紹介ノートでしか交流がなかった。そのノートに書かれた彼の達筆な字を見て、彼女は興味を示したのだ。



「早紀島殿、遅いなぁ」

「そうですねぇ」



彼の名前は早紀島有斗。赤縁眼鏡を目下にかけ、誰とも視線をあわせようとしなかった彼は、自称コミュ障のオタクだ。正直のところ、コミュ障がどんなことかは分からなかったけど、彼の語る話はとても面白い。美少女戦士が悪の手先を捕まえて、『はーとふぉんでぃすく』で駆逐する話や、男の人の主人公が、何人もの可愛い女の子たちに恋をするお話だとか(早紀島君はギャルゲーと呼んでいた)。早紀島君は面白い話を沢山してくれる、そう佐川さんに話すと、彼女は彼に会ってみたいと言うので、放課後に会うことにしたのだ。



「たったたたたたたのっ、たのももももも」

「…櫻木殿、彼もシュレッダーなのか?」



やっと現れた早紀島君は、何故だか震えていた。彼は、佐川さんと会うことになった時、とても喜んでいた。それはもう、本当に窓から飛び出してきた程に。



「早紀島君?大丈夫?」

「お、あぁ…スタンダードめが、…櫻木氏」



私出て行こうか?その方が話しやすいだろうし。そう耳打ちすると、早紀島君は頭を左右に激しく振り、私の腕にすがりついた。

「我がコミュ障だということを忘れたのか櫻木氏っ…!!」目尻にうっすら涙を浮かべ、こちらを見る。あ、確かコミュ障って、見知った第三者がいないと会話ができない…だったよね。合ってるかどうかは定かではないけど。


「櫻木殿、其方が早紀島殿か?」

「あ、うん。早紀島有斗君だよ」

「ほぅ…」



佐川さんは値踏みでもするかのように足元から頭までみて、それからくすり、と笑った。



「早紀島殿、君は随分面白い格好をするのだな。シャツが裏表逆のようだが」

「えっ!?うそっ」

「嘘だぞ」



早急にバラされた嘘に、早紀島君は先程までの不安げな表情から、驚いた顔へとシフトした。



「はははははははっ、なかなか良い反応をするな。面白い、ますます興味が湧いた」



そういって、佐川さんは全身真っ赤になった早紀島君の手をとり、


「私は佐川秋歩。一年A組15番の陸上部だ。どうぞ、よろしく頼む」

「は、はい、われ、我は早紀島とあり、有斗と申すものでありま、すます!!一年C組18番の文化同好会会長をを、つ、務めておりまするぅ!!」



佐川さんの暗い空気を壊す行動が早紀島君にも効いたのかもしれない。普段初対面の相手には挨拶すらできなかった彼が、しどろもどろながらも、ちゃんと返事を返せたのだ。



「早紀島殿、君の学年交流ノートの自己紹介、読ませてもらったぞ。とても綺麗な字を書くのだな」

「あ、それは只周りに筆ペンしかなくて…」



教室から外にでると、空には大きな虹がかかっていた。


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