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パーティー会場での騒動1

そして話は戻って、現在。


メイリィに強引に連れ出されたトアレ。

頭の中で今日やる予定だった仕事のことがぐるぐる回る。

まあ、今日は出荷の予定もないし家を離れても大丈夫だろう。


「で、どこに行くんだ?」


「私の家いこうよ。今日の2時からステージでバイオリン弾くことになってるの。」


広場から抜け出しても、結局バイオリンか。

トアレは苦笑する。暇さえあればバイオリン。こういうところは本当に変わってない。


メイリィの家、いや屋敷は、豪華なものだ。

メイリィを守り神に迎えてすぐに、町長の命令で建てられた。

中では日夜パーティーが行われ、演奏用の大きなステージが作られている。

トアレも何度か足を運んだが、非常に煌びやかなものだった。


それにメイリィのバイオリンを久しぶりに聴きたいという気持ちもある。

だが・・。


「・・悪いけど、遠慮しとく。」


「ええー、なんでよ?」


不満そうにメイリィが言う。


「どうせ、町長も来るんだろ?」


「あ・・。」


そうなのだ。

去年のことがあってから、トアレは顔と名前を町長に覚えられ敵視されているのだ。

会えば因縁をつけてくるのは明らかだ。


「俺はあのおっさんと顔を合わせたくない。」


トアレの気持ちももっともだ。

それはわかっているのだが、メイリィも引かずに続ける。


「で、でも気持ちはわかるけど友達の晴れ舞台ぐらい見にきてよ。」


「何が晴れ舞台だ。確かお前の家のパーティーは毎日やってるんだろ。」


「毎日やってても晴れ舞台なの! 明日も明後日もその後もずっとあるけど晴れ舞台なのよ! いいから来てってば!」


メイリィがヤケクソ気味に言う。


「なんでそんなにこだわるんだよ?」


「だって・・。」


寂しそうな目でメイリィがトアレを見る。


「トアレ、私のとこにずっと来てくれないじゃん。」


「いや、それは・・。」


仕事が忙しいのと、町長に会いたくないのと・・。


「私がこんなことしてるのに反感もってるのはわかってるけどさ・・。そんなに私のこと嫌い?」


「・・そんなわけないだろ。」


確かにメイリィがやっていることには感心していない。

だがトアレは今でもメイリィのことを親友だと思っている。

嫌っているなんてとんでもない。


第一、メイリィがこうやって自分に会いに来てくれていることを、実は内心、感謝しているのだ。

メイリィは町では毎日引っ張りだこなので、本来もう会えなくなってもおかしくない。

それなのにわざわざ暇を作っては自分の所に来てくれる。


「わかったって、行くよ。」


その言葉にメイリィの顔をパッと明るくなる。


「行こ、トアレ!」


メイリィはトアレの左手を握って走り出した。


メイリィの屋敷は町の中心街にある。

出来るだけ人通りのない道を選んでは来たが、屋敷に近づくにつれてそうはいかなくなってくる。


「これは、メイリィ様おはようございます!」


「こんなところでメイリィ様にお会いできるとは光栄でございます!」


「メイリィ様、バイオリン聞かせてー!」


すれ違っては声をかけられ、子供にはせがまれ、その全てにメイリィはニコニコと会釈する。トアレと言えばそのたび気まずそうに顔をそむけている。


「(誰だ、あのメイリィ様の横歩いてた奴?)」


「(あんまり気品のない奴だな。なんであんな奴がメイリィ様と一緒にいるんだ?)」


「(確かメイリィ様の昔の友達で・・、名前はトアレだったかしら?)」


「(ふうん、友達ねえ・・。)」


通り過ぎた後にひそひそ聞こえる声。

トアレはため息をついた。

覚悟はしていたが、ここまで居心地が悪いものとは。


何度となくそんなやりとりを繰り返しているとメイリィの屋敷が見えてきた。

木々や花が並ぶ庭、中央には噴水、その奥にそれは建っている。

レンガ造りで2階建ての横長の建物。正面には大型の木製扉が左右に分けて作られており、2階にはガラス窓が並んでいる。

外から見ると部屋が多く見えるが、実際は多くない。1階はホール、2階は吹き抜けになっており、壁際に寝室などが数部屋あるだけだ。


「メイリィ様、お疲れ様です!」


門番2人が敬礼する。


「町長は来てる?」


「いえ、キド町長は今日はいらしていません。」


トアレとメイリィが同時に安堵の息をつく。


「門をあけて。」


「はっ!」


門番がそれぞれ1つずつ扉を掴む。ギギイと音を立て門が開いていく。


吹き抜けから見えるシャンデリア、敷き詰められた豪華な絨毯。クロスのかけられた多数の丸テーブル、その上には肉料理や魚料理から、酒類、甘いお菓子まで色とりどりのごちそう。


そして正面にはメインステージ。


舞踏会を思わせるパーティー会場だ。

メイリィ達が扉をくぐると参加客の視線がそちらに集まり、そして歓声に近い声が上がる。


「おお、メイリィ様お帰りになりましたか!」


「今日の演奏も楽しみにしていますよ!」


「きらびやかでいいですなあ、まさにメイリィ様にふさわしい!」


熱烈な歓迎に対応していると、走る音が聞こえてきた。


「メイリィ様ー!」


制服姿の男が駆け寄ってくる。


「あらニールさん。」


「お戻りになりましたか! ああ、よかった・・。」


そこで横にいたトアレに気づく。


「これはトアレ君! ようこそいらっしゃいました!」


「お久しぶりです、ニールさん。」


軽く、顔をゆるめて挨拶を返すトアレ。


彼の名前はニール、この屋敷の給仕長兼全体の管理を任されている人だ。

キド・ラント町長の直属の部下の一人であり、屋敷の完成と同時に送り込まれてきた。

町長の部下ということで、どんなロクでもないやつかとトアレは構えていたが、その認識はすぐに改められることになった。

彼は信用できる人だ。


トアレからすれば、メイリィの周りにいるのは胡散臭い者ばかりで嫌気がさしているのだが、ニールにだけは心を許している。

「どうしたの、そんなに慌てて?」


「もう開演時間10分前ですよ。」


「え・・、もうそんな時間?」


そういえばぐるぐる遠回りをして帰ってきたのだった。

どうやら、予想以上に時間がかかってしまったようだ。


「とは言っても、メイリィ様が急に予定を変更するのは珍しいことではないので、別の出し物も用意していましたが・・。今日は必要なさそうですね。」


「えへへ・・。いつもごめんねニールさん。」


「お前、ニールさん引っ張り回すなよ・・。」


「いえ、これが仕事ですので。」


さわやかな笑顔で言うニール。


「えーっと、それじゃあ・・。」


メイリィはステージ近くを見渡す。

よし、一番前のテーブルが空いている。

トアレの手をとって、その席まで移動する。


「トアレ、ここで待ってて。」


「一番前かよ・・。」


もっと目立たない席がいいんだが。


イマイチ気は進まないが、席に座ると頬杖をつく。


「特等席だよ。すぐ始まるから。」


そう言って、笑いかけるとステージ裏に駆け出た。


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