プロローグ2
トアレは野菜に水を撒いていた。真っ赤に熟れたトマトを1つもぎ取る。形も大きさも中々だ。市場に出してもそこそこの値になるだろう。
あれから一年がたち、また春がきた。
15歳になり孤児院を卒業したトアレは昔の家に戻り1人で暮らしていた。
トアレの家は元々農家だった。両親は家の近くの畑で野菜を作って過ごしていたので、それを継いだのだ。
といっても、トアレが家に戻った時、畑は荒れ放題だった。孤児院に入ってから数年間ほったらかしなのだから当たり前だが。
それを耕し直し、ぼうぼうに生えている草を全て抜いてもう一度使える状態に戻したのだ。
今では自分の畑で採れた野菜を売り、生活を支える毎日だ。一方メイリィはというと・・。
「トアレ、おはよう!」
あぜ道から駆け上がってきたメイリィは、トアレに親しげにあいさつをする。しかしその身なりはトアレとは雲泥の差だ。上質な絹糸で作られた服、キレイに結われた髪、装飾品の数々。その姿は貴族の令嬢と言っても違和感がない。
「よう、メイリィ。」
「この暑いのに畑仕事? よくやるわねえ。」
「ほっとけ、で何のようだ?」
「ひどいなあ、せっかく遊びに来たのに。苦労したのよ、ここに来るまで!」
メイリィがふて腐れて言う。
「苦労?」
「さっきまで、広場でバイオリン弾いてたの。抜け出すの大変だったのよ。」
「メイリィ様―! どちらへいかれたのですかー!?」
「あ、いけない見つかっちゃう!」
そう、メイリィは今町長が直々に作った屋敷で、大勢の使用人に囲まれ、何一つ不自由なく過ごしているのだ。町の人からもメイリィ様と慕われ、その人気はすさまじいものだ。
「トアレ一緒に遊びにいこ!」
「遊びにって、俺は仕事が・・。」
「いいじゃない、たまには! ほらいこ!」
強引にメイリィに手を引かれて、走るトアレ。
なんでこんなことになってしまったのか。それは・・。