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アリとキリギリス  作者: 延道寺よんた
プロローグ
1/27

プロローグ1

その日も快晴だった。

雲一つない真っ青な空と、気持ちよく照りつける太陽。

そんな中、トアレは畑仕事をしていた。彼の持っているかごには野菜の種が入っている。数歩進んでは穴を掘りその中に種を植える。この作業を始めてから既に2時間ほどがたっていた。


「よし・・。」


ようやく、種を植え終えてトアレは1息ついた。なかなかいいペースだ。今日の目標は種を植えて水をまくことだが、この分なら草むしりにも時間が使えそうだ。水桶を手に取りすぐさま水を汲みにいくことにした。


「ん?」


水汲み場に向かう途中、トアレはそれを見つけた。畑のど真ん中に置かれた、いや放置されたかご。嫌な予感がして、トアレはそのかごに歩み寄り中をのぞく。・・そして予感はあたった。

中身は野菜の種だった。誰のものかは考えるまでもない。今日ここにいるのはトアレとその幼馴染の2人だけだ。問題なのはかごの中に種が残っていることだ。その幼馴染が女性であることや自分とは能率が違うことを差し引いても、明らかにそれ以上の量が残っている。というより全く減っていないと言った方が正しい。

そして近くから聞こえるバイオリンの音色。トアレは何が起こっているのかを理解した。

・・あいつはサボっているのだ。



「おい、メイリィ!」


切り株の上に座り、ご機嫌でバイオリンを弾く幼馴染に叫ぶ。


「あらトアレ、ちょうどよかった。私のバイオリン聴いて、さっきから練習してたの。」


「そんなことより仕事しろ!」


「嫌よ、めんどくさいんだもん。」


メイリィはその場に転がり、口を尖らせる。


真面目で働き者のトアレと遊び好きで怠け者のメイリィ。性格は正反対で共通しているのは甘いものが好きなことぐらいだったが、家が隣どうしの二人は兄弟同然に育ってきた。

メイリィは家の手伝いもほったらかしにして遊び回っていたので、夕方に隣の家から怒鳴り声がよく聞こえていたのをトアレは今でも覚えている。

数年前、2人して両親を亡くし孤児院に引き取られることになった。孤児院は規律に厳しく、1日数時間の巻き割りや畑仕事などが義務づけられていた。もともと真面目なトアレには何の苦痛でもなかったが、メイリィの怠け癖は孤児院に入っても相変わらずだった。勉強は適当、当番はサボる、無断外出はする、すっかり先生方から悪評が立っている。


「お前、この間も掃除してなかっただろう。」


「大丈夫だって、そんなに簡単にバレないから。」


悪びれる様子もなくニコニコと笑う。


「そんなこと続けてると、いつか放り出されるぞ!」


「はいはい、反省してます、もうしません。」


メイリィはそう言いながら近くにあった草の実を摘み、幸せそうにそれを食べる。

ダメだ、反省してない。


「今日もそうだ! お前、時間過ぎても寝てただろう!」


孤児院から仕事にいく時、最初に全員が庭に集合し、それぞれの場所に向かう。あろうことか今日メイリィは爆睡していた。中々来ないことを不安に思ったトアレが部屋まで迎えにいき叩き起こしたのだ。


「・・・。」


しかしその言葉を聞いたメイリィはトアレの方に向き直った。今まで何を言われてもニコニコと聞き流していたが、何か異論がありそうな顔でトアレを見ている。


「だって・・。」


「なんだよ?」


「昨日、ハンスのおばさんの誕生日だったんだもん・・。」


ハンスは孤児院で出会った友達だ。母親を亡くしてから、叔母と2人暮らしをしていたらしい。叔母はハンスのことを実の息子のように可愛がってくれたのだが、元々叔母が貧しかったので、ハンスを養うことが出来なくなり、あえなく孤児院に預けられることになった。メイリィは昨日の夜、プレゼント代わりにバイオリンを演奏してきたというのだ。ハンスに頼まれて。


「全くお前は・・。」


そう、メイリィはこういう人間なのだ。不真面目でやることもやらないのに、人を楽しませることや人助け、人に頼まれたことには強い意欲を見せる。


「わかった、そのことはもういいよ。」


「ふふ、ありがとうトアレ。」


トアレとしてはその意欲を少しだけでも普段の生活に回してほしいのだが。


「でも・・。ちゃんとやることはやれよ? 施設から見放されたらどうするんだ。」


「あら、大丈夫よ。だって・・。」


メイリィはこっちに向き直ってにっこりと笑った。


「その時はトアレが助けてくれるんでしょ?」


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