さるかに合戦
昔々あるところに、おむすびを持った蟹と、柿の種を持った猿がいました。
猿が蟹に言いました。
「あんたのおむすびとあたしの種、交換しな~い?」
「あらあら、ごめんなさいねえ。私、お腹の赤ちゃん達の為に沢山食べなきゃいけないの。そんなに小さな柿の種とは、交換できないわ」
「な~に言ってんのよ。おむすびは、食ったらそれまで。それにひきかえ柿の種を埋めて育てれば、いくらでも柿が食べられるのよ~」
「まあ。それは素晴らしいわねえ」
こうして、蟹は柿の種を、猿はおむすびを手に入れました。
猿はあっと言う間に、おむすびを平らげました。
「おむすびマジヤバイんですけど~」
蟹は柿の種を地面に埋め、毎日せっせと育てました。
そしてついに、沢山の柿の実が生りました。
蟹は早速柿を食べようと思いましたが、蟹は木に上れませんでした。
そこへ、柿の種をくれた猿がやって来ました。
「あら、猿さん。この間は柿の種をどうもありがとうねえ。やっと実が生ったのだけど、私ったら、木に上れない事をすっかり忘れちゃってて困っちゃったわあ」
「そ~れ~な~ら~、あたしが代わりに柿の木に上って柿の実を採ってあげる、みたいな~?」
「あらまあ。そうしてもらえると、助かるわあ」
「お安い御用、って感じ~?」
蟹が事情を説明すると、猿は快く柿の木に上ってくれました。
しかし、
柿の木に上った猿は自分ばかり柿の実を食べて、蟹には一つも柿の実をくれません。
「やっぱスイーツよね~」
「あらあら、美味しい柿の実が生ったみたいねえ。私にも、一つくださる?」
「くださる?なにそれ、猿をバカにしてんの~?マジありえないんですけど~」
「あらやだ!そんなつもりは無かったのよお。ごめんなさいねえ」
「別に~ど~でもい~ってゆ~か~。そもそも柿の実は全部あたしの物じゃないですか~」
「え?」
「だって~、あたしが持ってた柿の種だったわけだし~」
「それを私のおむすびと交換したんでしょ?」
「え~?あたしそんなの知らな~い」
「そ、そんな……」
蟹は気付きました。
自分は猿に騙されたのだと。
猿は蟹が木に上れない事を知ってて、おむすびと柿を一人占めにしようとしたのです。
ですが、もうすぐ子供が産まれる蟹にはどうしても柿の実が必要です。
蟹は猿に頼みました。
「おねがい。柿の実をちょうだい」
「うっさいわね~。これでも食べてれば~」
猿はまだ青くて硬い柿の実を、蟹に投げつけました。
硬い実が蟹の体に当たり、蟹の脚が一本折れました。
「あぁっ!」
「アハ!チョ~ウケルんですけど~。えいっえいっ」
バキッ
ぐちゃッ
猿は次々にまだ青くて硬い、とても食べられそうにない柿の実を蟹に向かって投げつけました。
蟹は避けられず、柿の実が当たる度に甲羅にはひびが入り、脚は折れ体を支えられなくなります。
それでも、蟹は必死にお腹に抱えた卵達を庇います。
「やめ……やめて……。赤ちゃんが……いるの……」
「はあ?あたしそんなの知らな~い」
蟹が懇願しても、猿は硬い実を投げ続けます。
すでに蟹の眼は二つ共潰れ、痛みも感じなくなってきました。
ごめんねえ、赤ちゃん達。ママ……あなた達に……会えない、の……
蟹は死にました。
蟹が最期に思ったのは、
自分を騙した猿への憎しみでも、
猿の企みに気付けなかった悔しさでもなく、
愛する我が子達に会えない事への寂しさでした。
柿の実を食べて満腹になった猿は、どこかへ行きました。
「やっだ~。ダイエットしなきゃ~」
しばらくすると、すでに死んでいるはずの蟹の体が蠢きだしました。
その体の下から、小さな赤いものが出てきます。
それは蟹の子供達でした。
母蟹が必死に守ったことで、誰一人死ぬことなく産まれる事が出来たのです。
ですが、子蟹達の中に産まれた事に対する喜びはありませんでした。
「ママ」
「ママ……」
「ママぁ」
「ママー!」
口々に母蟹に呼びかけますが、返事はありません。
呼びかけが、やがて嗚咽に変わっていきます。
「ママ、マっ……うっ、うわあ……あぁぁぁぁぁぁあああああん!!!!!!!」
子蟹達は、涙が涸れるまで泣きました。
涙が涸れると、悲しみのいた場所に、違う感情がいました。
憎悪でした。
時は流れて――
猿への復讐を決意した子蟹達に賛同する者達が現れました。
栗、蜂、牛糞、臼です。
四人は猿を家に招きました。
「こんにちは!……あれ?」
猿が家を訪れると、誰も居ません。
猿は囲炉裏のそばで待つことにしました。
囲炉裏の中には、栗が隠れていました。
囲炉裏の中で熱くなった栗が跳びだし、猿の股間に抱き付きました。
猿は大火傷をしました。
猿は慌てて水瓶に飛び込みます。
水瓶の中には、蜂が隠れていました。
蜂は猿の乳首を刺しました。
あまりの痛さに、猿は家から走り出ました。
家の前の地面には、牛糞がいました。
牛糞を踏んだ猿は引っくり返りました。
牛糞は猿の体を這い回りました。
乳首や股間に牛糞が染み、その痛みと牛糞の臭さで猿は悶えます。
そこへ、屋根にいた臼が飛び降りました。
臼に潰されて、猿は死にました。
めでたしめでたし。