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女同士の狂騒曲、大魔王との狂詩曲  作者: ひより那
=== 001 ===

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第8話 チーム対抗実習

 リリィの交渉術によって、市場の盗難事件を円満解決してから数週間。チーム『アベレージ・ワン』は、その後も学園とギルドから斡旋される学生向けの依頼を、着実にこなしていた。


 アリアナの的確な指示、エルザの圧倒的な突進力、リリィの抜け目ない後方支援。そして、シノンの規格外のサポート。彼女たちのチームの評価は順調に上がり、四人の友情も、様々な依頼を経て、確固たるものとなっていた。


 その日、教室の黒板に、新しい告知が張り出された。


『告知:第一回・チーム対抗実習の実施について』


「おお! なんだなんだ?」


 エルザが、告知文に真っ先に食いつく。


「『チーム対抗実習』……。ルールは、学園の演習林全域に隠された複数の魔力印(ターゲット)を、制限時間内にどれだけ多く回収できるか、ね」


 アリアナが、冷静にルールを読み上げる。


「戦闘は許可されてるのか?」

「ええ。『ただし、相手チームに《《重傷》》を負わせた場合は失格』ですって。あくまで実習よ」

「なーんだ! 思いっきり戦えないのかー!」


 エルザが、頬を膨らませる。


「ふふふ……」


 その横で、リリィが告知文の、ある一点を見て、目を輝かせた。


「アリアナさん、エルザさん、シノンさん。これ、ご覧ください」


 リリィが指差したのは、末尾の一文。


『成績優秀チーム(上位三組)には、ギルドと学園から《《特別奨励金》》を授与する』


「「「おおー!」」」


 エルザとリリィの声が重なった。


「よし! 絶対勝つぞ! 奨励金で、市場のあのデカい串焼きを腹一杯食べるんだ!」

「エルザ、あなたは食べ物のことばかりね……。でも、確かにこれは燃えるわ」

「ふふふ。腕が鳴りますねぇ」


▶(シノン)◇


(初めての、学園行事……!)


 じいちゃんとの『基礎訓練』には、もちろんこんな楽しいイベントはなかった。仲間と力を合わせて、競い合って、景品を目指す。なんて……なんて、楽しそうなんだろう!


▶◇◇◇


 実習当日。  広大な演習林のスタート地点に、総合クラスの全チームが集結していた。


「作戦会議、いいわね?」


 アリアナが、他のチームに聞こえないよう、三人を集めて小声で地図を広げる。


「演習林は広大よ。やみくもに探しても時間の無駄。まずは効率的に……」

「よし! じゃあ、私が森のど真ん中に突っ込んで、他のヤツらを全部倒してくる!」

「待ちなさいエルザ。それは《《やみくも》》の典型よ」

「むー! でも、それが一番早いぞ!」

「……シノンさん」


 アリアナが、すでに脳筋なエルザを無視し、シノンに向き直った。


「あなたの索敵、お願いできる?」

「へ? あ、はい!」


 シノンは、言われた通り目を閉じ、意識を集中させる。祖父直伝の『基礎』気配察知。森の魔力の流れ、人の気配、そしてターゲットの気配が、手に取るように流れ込んでくる。


「ええと……。(こっち)の方に、五つくらい。西(あっち)の方に、三つ。あと、強そうな気配が、北の広場に集まってます」

「……相変わらず、規格外ね」


 アリアナは、シノンの索敵結果を即座に地図に書き込む。


「よし、決めたわ。北の連中(主力)とは戦わない。私たちは、シノンさんの索敵を頼りに、効率よく南側(東と西)のターゲットを回収するわよ!」

「おおー!」

「了解です!」


 開始の合図と共に、チーム『アベレージ・ワン』は、他のチームとは逆方向の、南の森へと駆けだした。


 シノンの索敵は、完璧だった。


「あ、アリアナさん。その木の、三番目の枝の裏にあります」

「……本当にあったわ。どうやって見えてるの……」

「エルザさん! その岩の向こう、小さいのが二匹います!」

「おお! 本当だ! まとめてゲットだぜ!」


 四人は、他のチームが一体も見つけられないうちに、すでに八個のターゲットを回収していた。


「ふふふ。これは圧勝、奨励金はいただきですね!」


 リリィが無邪気に喜んだ、その時だった。


「――そこまでだ!」


 木々の間から、四人の生徒が現れ、アベレージ・ワンの行く手を塞いだ。全員が、エリート魔術科の青い制服を纏っている。学年トップの優勝候補チーム、『蒼き鷹(ブルーホーク)』だ。


「……何の用かしら。私たちは急いでるのだけど」


 アリアナが、警戒しながら前に出る。


「ほう。噂の『アベレージ・ワン』か。上位種(ホブゴブリン)を倒したと聞いていたが……。なんだ、雑魚ばかりじゃないか」


 リーダーらしき、嫌味な貴族男子が、アリアナたちを値踏みするように笑う。


「……!」


 エルザの眉がピクリと動いた。


「むー……。なんだあいつ、感じ悪いぞ」


「特に、お前か」


 リーダーの男は、シノンを指差した。ひよっこはひよっこらしく、隅っこで薬草でも摘んでいるんだな。そのカゴの中のターゲット、全部置いていけ」

「……なぬ?」


 エルザの肩が、わなわなと震え始めた。


「……アリアナ。あいつ、やっちゃっていいか?」

「ダメよエルザ。挑発に乗らないで」

「でも!」

「奨励金、没収されますよ?」


 リリィの、笑顔だか冷たい一言。


「うぐっ……」


 エルザは、大好物の串焼きと、目の前の獲物を天秤にかけ、ぐっとこらえた。


「交渉決裂、か。ならば、仕方ない」


 リーダーの男が、ため息をつくように手を振る。


「やれ。ただし、重傷は負わせるなよ?」


 『蒼き鷹』のメンバー三人が、同時に詠唱を開始する。


「「「『風縛(ウインド・バインド)』!」」」


 強力な魔力の風が渦を巻き、アリアナ、エルザ、リリィの三人を襲った。


「くっ……! 早い!」 「きゃっ!」 「あ〜!?」


 三人は、見えない風のロープに縛られたかのように、動きを封じられてしまう。


「はっはっは。ひよっこには、これくらいで十分だろう」


 リーダーの男が、高笑いしながらカゴを持っているシノンに近づく。


「さあ、それをよこせ、ひよっこ娘」


 男は、カゴを奪おうと、シノンに手を伸ばした。


 ――が。


「あれ?」


 シノンは、リーダーの男の手をひょいと避け、首を傾げた。


「……は?」


 男が固まる。


「あの、すみません。なんだか、急に風が強くなってきましたね? アリアナさんたちも、どうしたんですか?」


「「「…………え?」」」


 リーダーの男も、拘束されている三人も、全員が固まった。

 祖父の『基礎訓練』では、暴風竜(テンペストドラゴン)の吐く暴風の中で『基礎体術』を行うのが日課だった。それに比べれば、『風縛(ウインド・バインド)』など、ただの心地よいそよ風でしかない。


「な……! なぜ、『風縛(ウインド・バインド)』が効かない!?」


 リーダーの男が、信じられないものを見る目でシノンを睨む。


「え? 何か、私にしました?」


 シノンは、きょとんとした顔で聞き返した。


「あ、そうだ。私たち、急いでるんで」


 シノンは、呆然と立ち尽くすリーダーの男の横をすり抜け、 「皆さん、先に行ってますねー!」と、森の奥へ走り去ってしまった。


「あ! 待ちなさい! こら!」


 リーダーの男は、慌ててシノンを追おうとしたが、 「……行かせないわよ」 「私たちのこと、忘れてないか?」 「ふふふ……」。いつの間にか、アリアナ、エルザ、リリィの三人が、拘束を解いて彼らの前に立ちはだかっていた。



 結果。実習は、アベレージ・ワンが圧勝した。


 その日の放課後。四人は、王都のカフェで、奨励金で買ったケーキセットを囲んでいた。


「やったー! ケーキだ、ケーキだ!」


 エルザが、子供のようにはしゃいでいる。


「あなた、それだけのために頑張ったの……」


 アリアナが、呆れながらも紅茶を一口飲んだ。


「ふふふ。報奨金(おごり)で食べるケーキは美味しいですねぇ」


 リリィが、満足そうに微笑む。


▶(シノン)◇


(おいしい……)。初めて食べる、お店のケーキ。仲間たちと、他愛のない話をして、笑い合って、甘いものを食べる。じいちゃんとの『基礎訓練』では、絶対に味わえなかった時間。


 これが、私の求めていた平凡……。


 私は、この幸せな日常が、ずっと続けばいいと、心の底から願った。


▶◇◇◇



 ――その頃。王都から遠く離れた、南の古代遺跡。ギルドから派遣された、ベテラン冒険者チーム『鋼のグリフォン』が、そこで《《何か》》と交戦していた。


「……馬鹿な! なぜ、魔人幹部クラスが、こんな場所に……!」

「ぐああああ!」


 ベテラン冒険者たちの悲鳴が、遺跡に響き渡る。闇の奥で、二つの赤い光が、静かに嗤っていた。



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