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女同士の狂騒曲、大魔王との狂詩曲  作者: ひより那
=== 001 ===

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第7話 商人のソロバン

 上位種(ホブゴブリン)討伐から数日。チーム『アベレージ・ワン』の四人は、王都のギルド支部、その窓口にいた。


「はい、こちらが今回の上位種(ホブゴブリン)討伐の報酬と、素材の買い取り金額ですね。いやー、学生でこれをやっちゃうんだから、君たちは大したもんだよ!」


 ギルドの受付担当者が、興奮した様子で高額の報酬袋をリリィに手渡す。


「やりましたね! これでまたチームの資産が増えました!」


 リリィが、いつにも増して満面の笑顔で報酬袋を握りしめる。


「ちょっとリリィ、あなたお金が絡むと目の色が変わるわよ……」

「ふふふ。仲間と協力した『正当な対価』じゃないですか」


 アリアナが呆れたように言う横で、エルザはすでに入り口の依頼書(クエストボード)を眺めてソワソワしていた。


「むー! 早く次の戦いに行きたいぞ!」

「エルザ、少しは落ち着きなさい……」


 シノンは(今日も平和だなぁ……)と、仲間たちとのこの賑やかな日常に、幸せを感じていた。ギルドの受付担当者が、ふと何かを思い出したように声を上げた。


「ああ、そうだ。君たち『アベレージ・ワン』に、ちょうど名指しの依頼が届いてるよ」


「「「名指し?」」」


 四人の声が重なった。


「お、今度はなんだ? ドラゴン退治か!?」

「エルザさん、だから私たちはまだ学生ですよ……」


 リリィが、受付から渡された依頼書を広げて読み上げる。


『依頼:王都中央市場における、連続スリ・盗難事件の犯人捜索 詳細:魔王軍の侵攻から逃れてきた難民の増加に伴い、治安が悪化。市場での被害が多発している。正規軍、冒険者共に手が回らないため、アベレージ・ワンに《《警ら》》と捜査を依頼する』


「……戦闘じゃないわね。でも、重要な任務よ」


 アリアナが、気を引き締める。


「えー! また戦いじゃないのかー!」


 エルザが、あからさまに頬を膨らませた。


「ふふふ……」


 その横で、リリィだけが、依頼書を見て目を輝かせていた。


「……市場、ですか。これは、私の専門分野ですね」


 ◇


 王都の中央市場は、難民の流入もあってか、以前よりも遥かに混雑していた。


「うわぁ……。人が多いな……」

「こんな人混みで、どうやって犯人を探すんだよ?」


 エルザが、早くも飽きたように周囲を見回す。


「エルザ、キョロキョロしないの。ただでさえその大剣で目立ってるんだから」

「むー……」


 アリアナも、人の多さに少し辟易している様子だ。


「皆さん。ただ歩いていても、犯人は見つかりませんよ」


 リリィが、水を得た魚のように生き生きとした表情で、パン、と手を叩いた。


「こういう時は、まず情報(タネ)を仕入れます。……アリアナさん、エルザさん、シノンさん。少し、ここで待っていてください」

「え? リリィ、一人で?」

「はい。こういうのは交渉ですから。……私に、お任せください」


 リリィはそう言うと、笑顔で人混みの中へと消えていった。


 彼女は、まず被害が一番大きいという果物屋の強面の店主に話しかけた。


「まぁ! 立派な林檎(りんご)ですね! 私たち、学園の依頼で市場の《《警ら》》に来たんです。……最近、物騒だってお聞きしましたけど?」


 学生、それも可愛い少女(リリィ)に話しかけられ、店主はデレデレになりながら、被害状況を洗いざらい話し始めた。


 次に、被害者の会の中心になっているという雑貨屋のおやべりな女将さんの元へ。


「まぁ、女将さんお綺麗ですね! そのエプロン、素敵!」


 世間話を装いながら、「犯人は子供らしい」「いや、影のように素早いヤツだった」「難民の連中が怪しい」といった、ありとあらゆる噂を巧みに引き出していく。


 一時間後。リリィは、大量におまけでもらった果物や菓子を抱えて、三人の元へ戻ってきた。


「お待たせしました。大体の事情は掴めましたよ」


「「「早……」」」


「リリィ、あなた一体何を……」

「ふふふ。『情報収集』ですよ。さ、皆さん、こっちです。犯人の隠れ家(アジト)の目星がつきましたから」


 リリィは、仕入れた情報と、市場の裏知識を元に、ゴミが打ち捨てられた薄暗い路地裏へと案内した。一番奥、崩れかけた廃屋の前で、リリィは足を止める。


「……ここです。十中八九、犯人はこの中に」

「よし! 突撃だ!」

「待ちなさいエルザ!」


 アリアナが、また突っ込もうとするエルザの服を掴む。


「犯人が武器を持っているかもしれないわ。慎重に……」

「アリアナさんのおっしゃる通りです。……でも、ここは私が」


 リリィが、アリアナを制して、廃屋の扉を優しくノックした。返事はない。リリィは、ゆっくりと扉を開けた。


 中にいたのは、痩せこけた小さな兄妹だった。

 兄らしき少年は、まだ十歳にも満たないだろう。妹は、それよりさらに幼く、汚れた毛布の上で苦しそうに咳き込んでいる。彼らの周りには、市場から盗んできたのであろう、干からびたパンや、傷んだ果物が散らばっていた。


「……誰だ!」


 少年は、妹を庇うように立ちふさがり、震える手で、錆びたナイフを四人に向けた。


「……なんだ、子供かよ」


 エルザが、拍子抜けしたように大剣を下ろす。


「でも、盗みはダメだぞ!」

「……事情があるようね」


 アリアナが、冷静に状況を分析する。


「でも、私たちはギルドの依頼で来たの。あなたたちを、衛兵に突き出さないと……」

「来るな!」


 少年が、ナイフを構え直す。


「来るなって言ってるだろ! こいつは……妹は、病気なんだ! 薬を買う金がないから……! だから、俺が守るんだ!」

「う……」


 アリアナもエルザも、ナイフを構えた少年を前に、どう動くべきか迷う。


▶(シノン)◇


(どうしよう……。エルザさんやアリアナさんが動いたら、この子、何をするか分からない。でも、このままじゃ……)


 私は、そっとポケットの中の護身用の小さな石ころ(おまもり)を握りしめた。


▶◇◇◇


「待ってください、アリアナさん、エルザさん」


 緊迫する空気の中、リリィが一人、笑顔で前に出た。シノンは、リリィが前に出たのを確認し、そっと少年の死角へと移動する。


「……坊や。そのナイフを下げなさい」


 リリィの口調は、穏やかだが、有無を言わせぬ響きがあった。


「そんなことをしても、妹さんの病気は治りませんよ?」

「……!」


 少年が、ナイフを握りしめたまま、リリィを睨む。リリィは、構わず兄妹に近づくと、病気の妹の前にしゃがみ込み、その小さな額に、優しく手を当てた。


「……熱が高いですね。少し、楽にしてあげます」


 リリィの手から、温かい光が放たれる。商業科のリリィが使う、専門外の『治癒魔術(ヒール)』。


「……ん」


 妹の苦しそうな呼吸が、少しずつ、穏やかになっていく。


「あ……」


 少年は、その光景に驚き、握りしめていたナイフが、カラン、と地面に落ちた。


「さて」


 リリィは、立ち上がると、少年と、アリアナたちに向かって、にっこりと笑った。


「交渉成立、ですね?」


 ◇


 十分後。 リリィは、被害者の商人たちの前に、その兄妹を連れてきていた。


「こいつらだ! こいつらが犯人か!」

「難民のガキが、恩を仇で返しやがって!」


 商人たちが、兄妹を取り囲む。


「皆さん、お待ちください!」


 リリィが、その間に割って入った。


「彼らが盗みを働いたのは事実です。ですが、彼らには事情が……病気の妹さんの薬代のためだったんです」

「知ったことか! こっちだって生活が……」

「そこで、ご提案です」


 リリィは、笑顔で一枚の紙を広げた。


「彼らを労働力として、皆さんのお店で安く雇うというのはどうでしょう? 盗まれた品物の代金は、そのお給金から天引きする、ということで」

「……は? 雇う?」

「考えてもみてください。魔王軍のせいで、王都は人手不足。皆さんのお店も、忙しくて猫の手も借りたいのでは?」


 商人たちは、顔を見合わせる。確かに、難民の流入で客は増え、人手は足りていなかった。


「兄は、タダ働き同然で文句も言わず働きます。皆さんは、安価な労働力と、盗まれた代金が分割ですが戻ってくる。……悪い話ではないと思いますが?」


 リリィの提案により、事件は円満解決した。商人たち被害者は労働力を得、兄妹は仕事、そして、リリィが妹の治療を定期的に行う約束をした。ギルドへの報告も「犯人は捕縛、被害者との和解が成立」となり、依頼は完璧な成功となった。


「……リリィ。あなた、本当に商売人ね……」


 アリアナが、心底呆れたように言う。


「おおー! リリィ、すごいぞ! 誰も戦ってないのに、丸く収まったな!」


 エルザが、無邪気に感心している。


 シノンは、誰も傷つけずに、言葉だけで事件を解決したリリィの強さに、心からの尊敬の念を抱いた。


「ふふふ。これでまた、チームの資産と信用が増えましたね!」


 リリィは、商人たちと兄妹の双方から、しっかり仲介手数料を受け取った契約書を握りしめ、今日も最高の笑顔だった。

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