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女同士の狂騒曲、大魔王との狂詩曲  作者: ひより那
=== 001 ===

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第41話 開戦の報

 ある日の朝。王都の空気が、一変した。

 広場に設置された巨大な魔導掲示板(スクリーン)に、国王からの緊急勅令が映し出されたのだ。


『――我が王国は、本日未明、魔王軍による不当な侵略に対し、総力戦をもって反撃することを宣言する』


 街はパニックに陥った。


「魔王軍が攻めてきた!」「戦争だ!」


 怒号と悲鳴が飛び交う。有能な冒険者や予備役の騎士たちには、次々と召集令状が届き、戦場へと駆り出されていく。


 王立学園の生徒たちには、『学生は動揺せず、学業とギルド活動に専念せよ』と、未来ある若者の保護命令がくだされた。


 ◇


 放課後。作戦会議室(たまりば)は、重苦しい空気に包まれていた。


「……戦争、か」


 エルザが、大剣を抱えて唸る。


ゼスト(ししょう)」に連絡がつかないんだ。……きっと、前線に行ったんだな」 「グレイ先生もです」  アリアナが、不安そうに通信機を握りしめる。 「マモン様も、商会の整理がつかないまま、姿を消しました」


 三人の師匠(彼氏)たちが、一斉に姿を消した。  それが何を意味するのか、彼女たちはまだ知らない。


▶(シノン)◇


(……おかしい)


 ディアブロさんは、言っていた。 『こちらの生活を壊すつもりはない』って。それに、あの人たちは、そんな無意味な侵略をするような人たちじゃない。


(確かめなきゃ)


 私は、居ても立っても居られず、部屋を飛び出した。


「あ! 待ちなさい、シノンさん!」

「また一人で!」


 アリアナたちの声が聞こえたけど、私は止まらなかった。


▶◇◇◇


 王都の外れ、廃教会。そこは、ディアブロたちに会いに行くときに使う転移装置があった。登録された者しか通ることができない装置の前にシノンは立っていた。そこには、夕日を背にして立つ、黒衣の青年の姿があった。


「……来たか、シノン」


 ディアブロは、いつもと変わらない様子で振り返った。


「ディアブロさん! 戦争って……!」

「……ああ。人間側が、ついに『総攻撃』を仕掛けてきたようだ。私の庭にな」

「え……?」


 シノンは耳を疑った。人間側が、仕掛けた?  魔王軍が攻めてきたのではなく?


「ま、待ってください! 王国は、魔王軍が侵略してきたって……!」

「クク……。侵略か。奴らにとっては、我々の国にある資源全てが、自国の資源とでも思っているのだろう」


 ディアブロの瞳には、深い諦念と、静かな怒りが宿っていた。


 その時。


 バタン!  教会の扉が荒々しく開かれた。


「見つけたわよ、シノンさん!」


 アリアナ、エルザ、リリィが、肩で息をしながら駆け込んできた。


「もう! 勝手に行かないでって言ったでしょう!」

「あ、みんな……」

「……ほう。騒がしい『友達』も一緒か」


 ディアブロは、三人を一瞥する。エルザが、ディアブロの前に進み出た。その顔は、真剣そのものだった。


「おい、ディアブロ!」

「……なんだ」

「あんた、めちゃくちゃ強いんだろ? シノンの彼氏だし、私の師匠の知り合いだし!」


 エルザは、大剣をドンと床に突き立てた。


「だったらさ! あんたたちも、この戦争に参加してくれよ!  私たちと一緒に、攻めてきた『魔王軍』をぶっ飛ばそうぜ!  あんたらの力があれば、戦争なんてすぐに終わるだろ!」


 それは、あまりにも純粋で、あまりにも残酷な提案だった。『魔王』に向かって、『魔王軍』を倒そうと言う。


「……クク」 ディアブロの肩が、震えた。「……ククク。……ハハハハハ!」


 ディアブロは、天を仰いで高笑いした。それは、嘲笑ではなく、運命の皮肉を面白がるような笑いだった。


「私に、魔王を倒せと言うか。……それは難題だな」


「……え?」


 エルザが、キョトンとする。アリアナとリリィの顔色が変わる。


「隠し事はおしまいだ、シノン」


 ディアブロは、笑いを収め、真っ直ぐにシノンを見た。


「……もう、誤魔化せる段階ではない」


 彼は、一歩前に踏み出した。その瞬間、彼の体から、漆黒の『覇気(オーラ)』が膨れ上がった。人の姿が揺らぎ、その背後に、禍々しくも神々しい、真の『魔王』の幻影が重なる。


「よく聞け、娘たちよ。……私が、魔王ディアブロだ」


「「「えええええええええ!?」」」


 三人の絶叫が響き渡る。さらに。


「やれやれ……。魔王様、少し口が軽すぎますぞ」

「ふん。まあ、潮時だろうな」

「この状況では、『商売』も続けられませんから」


 教会の影から、三つの影が現れた。氷の魔将グレイ。闘将(ジェネラル)ゼスト。闇の魔将(ダーク・マーチャント)マモン。


 彼らもまた、偽装を解き、本来の強大な魔族の姿を晒した。


「せ、先生……!?」 「し、師匠……!?」 「マモン様……!?」


 アリアナたちは、腰を抜かしそうになりながら、後ずさった。自分たちが愛し、尊敬し、師と仰いだ人たちが、人類の敵である『魔王軍』の最高幹部だった。


「お収めください、魔王様」


 軍師ロンウェが、最後に姿を現した。彼は、混乱する少女たちに向き直り、静かに、しかし厳然と語り始めた。


「お嬢さん方。……貴女がたは、学校で『魔族が侵略している』と教わったでしょう。ですが、真実は逆です」


 ロンウェは、空中に魔法映像を投影した。そこに映し出されていたのは、王国軍が魔界の集落を焼き払い、資源を強奪していく光景だった。魔族たちは、ただ家族を守るために、必死に抵抗しているだけだった。


「我々は、守っているだけなのです。……そして、無益な血を流さぬよう、貴女方のような『話の通じる強者』を育て、内部から戦争を止めさせたかったのです」

「そ、そんな……」


 アリアナが、崩れ落ちる。信じていた『正義』が、音を立てて崩れ去った。自分たちの国が、『悪』だったのか。そして、彼らは、自分たちを『利用』するために……。

「……利用、だったんですか?」


 リリィが、震える声でマモンに問う。「あの『契約』も、私の『強欲』を褒めてくれたのも、全部……」


「きっかけは、そうでした」


 マモンは、悲しげに目を細めた。


「ですが……私の『心』までは、偽れません。貴女と共に歩んだ時間は、私にとって何よりの『財産』でした」

「私もだ」


 ゼストが、エルザを見る。


「貴様の剣は、真っ直ぐで、熱かった。……魔族も人間も関係なくな」

「……貴女は、私の『最高傑作』です」


 グレイが、アリアナに告げる。


「種族など、些末な問題です」


 その言葉に、嘘はなかった。少女たちは、涙を流した。敵だと知っても、騙されていたと知っても、……彼らと過ごした時間と、育んだ『想い』だけは、どうしても否定できなかった。


「……ごめんなさい」


 エルザが、大剣を下ろし、頭を下げた。


「私……なんにも知らなくて……。師匠たちを、倒そうなんて言って……」

「私たちもです」


 アリアナとリリィも、頭を下げる。


「貴方たちが、どれだけ私たちを大切にしてくれたか……分かっています。……ごめんなさい、ディアブロさん。今まで、気づかなくて」


 シノンも、ディアブロの手を握りしめた。


「……だからと言って、今すぐ『王国』と戦うことはできません」


 アリアナが、涙を拭って顔を上げた。


「私たちは、まだ学生で……王国の貴族で、民を守る義務があります。今、剣を取れば、国を裏切ることになる」


 それは、苦渋の決断だった。愛を取るか、国を取るか。まだ学生の彼女たちには、世界を敵に回してまで恋人と逃げる覚悟も、国を捨てて魔界に行く力もなかった。


「分かっている」ディアブロは、優しく言った。「だからこそ、強くなれと言ったのだ。……いつか、貴様らが国の『中枢』に立ち、その声で、この愚かな戦争を止められる日が来るまで」


「……はい」


 四人は、力強く頷いた。


「私たちは、強くなります」


 アリアナが宣言する。「いつかもっと強くなって、偉くなって……。必ず、ディアブロさんたちと、堂々と『手』を取りあえる世界を作ります!」

 それは、彼女たちの、新たな『目標』となった。ただの学生から、未来を変える『英雄』への第一歩。


「待っているぞ」


 ディアブロは、満足げに微笑むと、配下たちと共に『影』の中へと消えていった。  戦場へと戻る彼らの背中は、寂しく、しかし誇り高かった。


 残された四人は、夕日の中で誓い合った。この理不尽な世界を変えるために。愛する人たちと、再び笑い合える日のために。

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