第39話 砕けた狂戦士
アリアナとグレイの『パートナー契約』から数日後。王都郊外、演習場跡地。 そこでは、今日も今日とて、轟音が鳴り響いていた。
「らあああああっ!」
エルザが、大剣を振りかぶり、全力で叩きつける。
ドゴォン! その一撃を、闘将ゼストは、篭手で受け止めた。衝撃で大地がひび割れるが、ゼストは一歩も退かない。
「軽い! 腰が入っていないぞ!」ゼストが、大剣ごとエルザを弾き飛ばす。「もっと殺意を乗せろ! 私を殺す気で来い!」
「言われなくても! うおおおお!」
エルザは、吹き飛ばされても即座に体勢を立て直し、再び突っ込む。彼女の体は傷だらけだが、その瞳はギラギラと輝いていた。
二人の『特訓』は、もはや『殺し合い』の領域に達していた。だが、傍から見れば分かる。二人は、心底楽しそうだった。
「はぁ……はぁ……!」
数時間の組手の後。エルザは、大の字になって地面に転がっていた。ゼストもまた、少し息を乱し、額の汗を拭っている。
「……ふん。今日はここまでだ」
ゼストが、水筒を放り投げる。エルザはそれを受け取り、豪快に飲み干した。
「ぷはー! 効いたぁ……! 師匠、やっぱ強えな!」
「当たり前だ。貴様ごときに後れを取っては、闘将の名が廃る」
ゼストは、エルザの隣にドカッと座り込んだ。夕日が、二人の傷だらけの体を照らす。
「……なぁ、師匠」エルザが、空を見上げたまま呟く。「私、強くなったかな?」
「ああ。以前とは比べ物にならん」ゼストは即答した。「だが、まだ足りん。貴様の『器』は、そんなものではないはずだ」
「……そうか。へへっ」エルザは、嬉しそうに笑った。「師匠にそう言われると、なんか、無限に強くなれる気がするよ」
エルザは、体を起こし、ゼストを真っ直ぐに見つめた。
「師匠。……私、決めたんだ」
「何をだ」
「私、師匠より強くなる!」
それは、弟子としての目標であり、同時に、一人の『武人』としての宣戦布告だった。
「そして、師匠に勝ったら……」エルザの顔が、夕日のせいか、少し赤くなる。師匠を、私の『婿』にする!」
「…………ぶっ!」ゼストが、飲んでいた水を吹き出した。 「な、なんだと!?」
「だ、だって! 私より強い男なんて、師匠しかいないし!」エルザは、真っ赤になりながら叫ぶ。「アリアナも、グレイ先生と付き合い始めたし! シノンもディアブロとラブラブだし! 私だって、強い男と一緒にいたいんだよ!」
ゼストは、呆気にとられた顔でエルザを見ていたが、やがて、豪快に笑い出した。
「クク……ハハハハハ! 『婿』か! 私を!?」
「わ、笑うなよ! 本気なんだぞ!」
「いいだろう!」
ゼストは、立ち上がった。その顔には、これ以上ないほどの『好戦的』な笑みが浮かんでいた。
「その心意気、気に入った! だが、私は強いぞ? 『婿』になどなれば、貴様は一生、私の『後ろ』を歩くことになる」
「上等だ! いつか追い抜いて、師匠を『嫁』にしてやる!」
「ほざけ!」
ゼストは、エルザの頭を、ガシガシと乱暴に撫でた。
「……だが、悪くない提案だ。貴様が私に一撃でも入れたら、考えてやってもいい」
「本当か!?」
「武人に二言はない」
「やったー! 言質取ったぞ!」
エルザは、ゼストに飛びついた。ゼストは、その小さな体をしっかりと受け止めた。
「覚悟しておけよ、エルザ。私の『愛』は重いぞ? 貴様が壊れるまで、鍛え上げてやる」
「望むところだ! 壊れるまで付き合ってやるよ、師匠!」
二人の『拳』が、軽くぶつかり合う。それは、言葉以上の『契約』だった。筋肉と闘争本能で結ばれた、暑苦しくも清々しいカップルが、ここに誕生した。
◇
翌日。作戦会議室に、全身包帯まみれのエルザが現れた。
「お、おはよう……」
「エルザ!? どうしたのその怪我!?」
シノンたちが驚愕する。
「へへへ……。昨日の『告白』の代償だ」
エルザは、痛む体をさすりながら、しかし満面の笑みで言った。
「私、師匠と『結婚』の約束してきたぞ!」
「「「結婚!?」」」
「おう! 師匠に勝ったら、婿に来てくれるって!」
「(……一生、結婚できないんじゃ……?)」
シノンたちは思ったが、口には出さなかった。
「よかったな、エルザ」
「ええ。お似合いですわ」
「ふふふ。治療費がかさみそうですが……ま、必要経費ですね」
エルザが、これ以上ないほど幸せそうだった。




