表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女同士の狂騒曲、大魔王との狂詩曲  作者: ひより那
=== 001 ===

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/42

第32話 死闘

 魔界と人間界の狭間に存在する、高難易度魔境(ダンジョン)奈落の渓谷(アビス・キャニオン)』。 そこは、ベテラン冒険者ですら全滅する、死の領域。


「……いいですか。今回の目標は、あくまで『第5階層』までの踏破です」


 断崖絶壁の入り口で、氷の魔将グレイが、アリアナたちに釘を刺す。


「今の貴女たちの実力では、それより深く潜れば、骨も残りません。……引き際は私が判断します」

入り口付近(じょうそう)でも、十分に稼げる素材はありますからねぇ」


 マモンが、期待を込めてリリィを見る。


「行くぞ! 死ぬ気でかかってこい!」


 ゼストが、獰猛に笑う。


 アリアナ、エルザ、リリィの三人は、緊張した面持ちで頷いた。数週間の地獄の特訓。その成果を試す、初めての『実戦』だ。


 地下1階層。薄暗い洞窟内を、異形の影が走る。全身が鋼鉄の鱗で覆われた『鋼鉄蜥蜴(アイアン・リザード)』だ。通常なら、中級冒険者パーティが苦戦する相手。


「来るぞ!」


 エルザが、大剣を構えて前に出る。以前なら、力任せに突っ込んで弾かれていただろう。だが、今の彼女は違った。


「……『呼吸』を合わせろ。……あそこだ!」


 エルザは、敵の動きをじっと見極め、鱗の継ぎ目、その一点に狙いを澄ます。師匠(ゼスト)に叩き込まれた、一撃必殺の『眼』。


「『穿孔(ピアス)』!」


 大剣の切っ先が、蜥蜴の喉元を正確に貫いた。

 ズドン!  一撃。巨大な蜥蜴が、声を上げる間もなく絶命する。


「やった……!」


 エルザが、手応えに震える手を見つめる。


「斬れた……! あんなに硬いのに!」

「油断しないで! 次が来るわよ!」


 アリアナの声。天井から、吸血蝙蝠(ヴァンパイア・バット)の群れが襲いかかる。アリアナは、杖を掲げ、複雑な術式を一瞬で展開する。


「『氷結界(アイス・フィールド)・展開』!」


 広範囲への無差別攻撃ではなく、味方を避け、敵だけを包囲する、精密な冷気の檻。蝙蝠(とかげ)たちが、空中で凍りつき、バラバラと落ちていく。


「……魔力消費、最小限。……よし!」


 アリアナが、汗を拭う。グレイとの特訓で『再構築』された魔力回路は、以前とは比べ物にならない効率で魔術を行使していた。


「回収します!」


 リリィが、マモンから借りた『空間収納(アイテムボックス)』付きの鞄を広げる。彼女は、戦闘の合間を縫って、倒された魔物から『換金部位』だけを、目にも止まらぬ早業で剥ぎ取っていく。


「……蜥蜴の皮、良質。蝙蝠の牙、欠損なし。……黒字です!」


 三人の連携は、学生レベルを遥かに超えていた。だが、ここは『奈落』である。三人は連携しながらダンジョンを進み、疲労やダメージを蓄積しながらも、地下5階層まできた。

 目標地点に到達した彼女たちを待っていたのは、この階層の主、ゲートキーパー。  岩盤と一体化したような巨体を持つ、『岩石巨人(ロック・ゴーレム)』だった。


「デ、デカい……!」


 エルザが息を飲む。学園の訓練用ゴーレムとは、サイズも、放つ威圧感も桁違いだ。


「グオオオオオ!」


 巨人が腕を振るうだけで、坑道が崩れそうになる。


「エルザ、正面からは無理よ! 物理攻撃が通じない!」


 アリアナが叫ぶ。


「私の氷魔法も、表面を凍らせるだけで、芯まで届かないわ!」


 再生能力が高く、生半可な攻撃ではすぐに修復されてしまう。


「くそっ! どうすれば……!」


 三人が、防戦一方に追い込まれる。師匠たちは、手を出さない。  これは、彼女たちの『試練』だからだ。


▶(シノン)◇


(みんな……!)


 私は、後ろで見守りながら、拳を握りしめた。『基礎』を使えば、あんなゴーレム、一撃で粉砕できる。でも、それじゃダメだ。これは、みんなが『自分の力』で掴み取ろうとしている戦いなんだから。


(頑張れ……! アリアナさん、エルザさん、リリィさん!)


▶◇◇◇


「……諦めるものですか」


 リリィが、懐から『何か』を取り出した。


「アリアナさん! 敵の『関節』を、一瞬だけ止めることはできますか!?」

「関節!? ……やってみるわ! 『絶対零度(アブソリュート・ゼロ)』!」


 アリアナが、残る魔力の全てを注ぎ込む。ゴーレムの膝関節が、一瞬、白く凍りついた。「ギ……!?」動きが止まる。


「エルザさん! その膝を、砕いて!」

「おうよ! 任せろ!」


 エルザが、壁を蹴って加速する。


「うおおおお! 『粉砕(ブレイク)』!」


 ドガァァァン!!  渾身の一撃が、凍った膝を粉砕した。巨体がバランスを崩し、膝をつく。


「今です!」


 リリィが投げつけたのは、マモン直伝の『溶解液(アシッド・ボム)』だった。瓶がゴーレムの胸板で砕け、強力な酸が岩を溶かし、内部の『(コア)』を僅かに露出させる。


「そこだあああ!」


 エルザが、倒れ込むゴーレムの胸に飛び乗った。そして、露出したコアに、大剣を突き立てる。


 ズブシュゥゥ……!  コアが破壊され、ゴーレムの赤い光が消えた。エネルギーの供給が途絶えると、その巨体は、土煙を上げて崩れ落ちた。


「はぁ……はぁ……」


 三人は、その場にへたり込んだ。満身創痍。魔力も体力も、空っぽだった。


「……やった……」

「勝った……!」


 ギリギリの勝利。だが、自分たちの力だけで、格上の怪物を倒したという事実は、何よりも重い『自信』となった。


 崖の上から、師匠たちが降りてくる。


「……ふん。無様な戦い方だ」ゼストが、ぶっきらぼうに言う。「だが、退かなかったことだけは、褒めてやる」

「魔力配分が滅茶苦茶です」グレイが眼鏡を直す。 「ですが、とっさの判断力は悪くなかった」

「もう少し錬金の(じさく)技術を上げないといけませんね」  マモンが苦笑する。 「ま、そのコアで元は取れますが」



「そこまでです」


 グレイが、奥へと続く暗い道を手で制した。


「今の貴女たちでは、これより先へ行けば、確実に死にます。……今日のところは、合格としておきましょう」


 アリアナ、エルザ、リリィは、顔を見合わせ、疲労困憊の笑顔でハイタッチを交わした。


「……ふぅ」


 シノンも、ホッと胸を撫で下ろした。


 ◇


 夕暮れ時。ボロボロになって王都へ帰還した四人。その表情は晴れやかだった。


「すごかったよ、みんな!」


 シノンが、心から賞賛する。


「ふふふ。まだまだよ」


 アリアナが、誇らしげに杖を握る。


「あのダンジョンの、ほんの入り口までしか行けなかったもの。……もっともっと特訓して、いつか最深部まで行ってやるわ!」

「おう! 次は負けないぞ!」

「稼ぎがいのある場所でしたね。通い甲斐があります」


 彼女たちは、確かな手応えを感じていた。


「……よし!」


 アリアナが、宣言した。


「学校が終わったら、また特訓よ! 私たちの『目標』を達成するまで、休んでる暇はないわ!」

「おー!」


 頼もしくなった友人たちを見ながら、シノンは思う。


(私も……いつまでも『隠してる』だけじゃ、ダメだよね。みんながこんなに頑張ってるんだもん。……いつか、ちゃんと、私のことも話そう)


『アベレージ・ワン』の成長は、まだ始まったばかりだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ