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女同士の狂騒曲、大魔王との狂詩曲  作者: ひより那
=== 001 ===

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第27話 デート

 ある休日。 シノンが自室でくつろいでいると、窓の外に、ふわりと黒い影が現れた。


「迎えに来たぞ、シノン」

「えっ!? き、今日はデートの約束なんて……」

「私の庭の花が、見頃でな。……貴様に見せたいと思った」


 ディアブロは、以前のような強引さではなく、少し照れくさそうに手を差し出した。その表情に、シノンは胸が高鳴るのを感じた。


「……はい。行きます」


 シノンは、彼の手を取った。


 ◇


 転移した先は、予想していた『おどろおどろしい魔界の風景』とは、まったく違っていた。

 空には、大小二つの月が淡い光を放ち、永遠の夕暮れのような、紫と茜色が混ざった幻想的な空が広がっている。眼下には、黒曜石で作られたような荘厳な城下町が広がり、街路樹の『月光の闇薔薇ムーンライト・ブラックローズ』が、青白く発光して街を照らしていた。


「わぁ……。綺麗……」


 シノンは、思わず声を上げた。


「気に入ったか?」

「はい! すごく神秘的で……」

「魔王様、万歳!!!!!」


 その感動を、地響きのような大合唱が遮った。見れば、城門の前に整列した数千の魔族兵士たちが、一糸乱れぬ動作で平伏していた。


「魔王様! ご帰還、心よりお慶び申し上げます!」


「「「ハハーッ!!」」」


 その光景は、圧巻であり、同時に恐怖すら感じるほどの絶対服従だった。シノンが引きつった笑顔でディアブロを見る。


「……あの、ディアブロさん。これ……」

「気にするな。ただの友達だ」

「(無理があります!)」



 その後、ディアブロの案内で、城下町へ繰り出すことになった。

 魔族たちは、ディアブロが通ると、モーゼの海割れのように道を開け、直立不動で敬礼する。(全然平凡なデートじゃない……!)シノンは冷や汗をかいたが、ディアブロは満足げに一軒の店に入った。


「ここだ。人間の女は甘味を好むと聞いたのでな。作らせておいた」


 そこは、魔界風にアレンジされた、少し薄暗いオープンカフェだった。

 運ばれてきたのは、どす黒い色をしたパンケーキ。トッピングには、怪しげに光る果実と、ドラゴンの形をしたチョコレート?。


「……こ、これは?」

「『暗黒竜(ダーク・ドラゴン)』の卵を使ったパンケーキだ。毒はない、安心しろ」

「(毒の心配!?)」


 シノンは恐る恐る一口食べた。……すると。


「……おいしい!」


 見た目に反して、味は濃厚で、口の中でふわっと溶けるような絶品だった。


「そうか。ならば、もっと食え」


 ディアブロが、嬉しそうに自分の分もシノンの皿に乗せる。その不器用な優しさに、シノンは自然と笑みがこぼれた。



 店を出て、少し人通りの少ない裏通りを歩いていた時だった。


「――お待ちください、魔王様!」


 鋭い声と共に、一人の女性魔族が立ちはだかった。真紅の鎧を纏い、背中には身の丈ほどの大鎌を背負っている。美しくも、獰猛な獣のような瞳。 王親衛隊長、ゼスト。


「ゼストか。……何の用だ」


 ディアブロが、不機嫌そうに眉をひそめる。


「魔王様! その人間の小娘が、未来の妃候補だという噂……。私は認めません!」


 ゼストは、シノンを睨みつけた。


「魔界は力こそ正義! 魔王様の隣に立つ者は、最強でなければなりません! こんな弱そうな人間など……!」

「……下がれ。私の客だ」

「いいえ! 確かめさせていただきます! この小娘に、魔王様の伴侶たる資格があるのかを!」


 ゼストは、ディアブロの制止も聞かず、殺気と共に大鎌を振りかぶった。普通の人間なら、認識する前に首が飛んでいる速度だ。


「シノン!」


 ディアブロが止めに入ろうとする。  だが、それよりも早く。


▶(シノン)◇


(……またこれだ)  せっかくのデートなのに。  ディアブロさんが用意してくれた時間を、壊されたくない。


(戦いたくはないけど……彼との時間を守るためなら!)


 私は、無意識に『基礎』の構えを取っていた。迫りくる大鎌の刃。その軌道と力点が、手にとるように分かる。


(そこ!)


▶◇◇◇


 パァン!  乾いた音が響いた。


「……な!?」


 ゼストが目を見開く。彼女の渾身の一撃は、シノンの人差し指と親指によって、刃の側面を軽く摘まれる形で、完全に止められていた。


「……危ないですよ」


 シノンは、少し困った顔で言った。


「そんな大きなもの、振り回したら」

「ば、馬鹿な……! 私の『死神の鎌(デス・サイズ)』を、指先だけで……!?」


 ゼストが、全力を込めて鎌を引こうとするが、びくともしない。シノンの指先は、まるで山のように動かなかった。


「……ふっ」


 ディアブロが、鼻で笑った。


「分かったか、ゼスト。その女は、私と互角だ」

「魔王様と……互角……!?」


 ゼストは、戦慄した。そして次の瞬間、その場に平伏した。


「も、申し訳ございませんでしたァァァ!!」


 地面に頭がめり込むほどの勢いだ。


「これほどの強者であらせられるとは露知らず! このゼスト、一生ついていきます! 女王様!」

「じ、女王様……!?」


 魔界は、力こそ正義。シノンは、たった一度の防御で、親衛隊長の絶対的な忠誠を勝ち取ってしまった。


 騒動の後。  二人は、魔王城の最上階にあるバルコニーにいた。眼下には、宝石箱をひっくり返したような、魔界の夜景が広がっている。


「……騒がしくてすまなかったな」


 ディアブロが、夜風に髪をなびかせながら言った。


「いえ。……みなさん、ディアブロさんのことが大好きなんですね」

「……フン。恐怖で支配しているだけだ」

「そうですか? 私には、尊敬されているように見えましたけど」


 シノンは、隣に並び、手すりに寄りかかった。


「……ここは、静かですね」

「ああ。……貴様の望む平凡とは違うかもしれんが、私にとっては、ここが唯一、気の休まる場所だ」


 ディアブロが、シノンの方を向く。


「だが、一人は退屈だ。  ……貴様がいてくれると、この景色も、悪くないと思える」


 その言葉は、どんな甘い言葉よりも、シノンの心に響いた。彼の孤独と、自分への想い。それが、痛いほど伝わってくる。


「……はい。私も、そう思います」


 シノンは、自然と、彼の手を握っていた。二人の影が、月光の下で一つに重なる。言葉はいらなかった。ただ、互いの体温を感じるだけで、満たされていた。


 ◇


 「……送ろう」


 名残惜しさを振り切るように、ディアブロが言った。そして、シノンを部屋に転移した。


 部屋に戻ると、そこには、アリアナ、エルザ、リリィの三人が待ち構えていた。だが、以前のような形相ではない。


「あ、お帰りなさい、シノンさん」


 アリアナが、少し気まずそうに、しかし優しく出迎えた。


「……早かったのね」 「え? あ、はい……」


 シノンは、怒られると身構えていたので、拍子抜けした。


「シノン! どうだったんだ? デートは!」


 エルザが、興味津々で食いついてくる。


「楽しかったか? 強いヤツ、いたか?」

「ええと……景色が綺麗で、パンケーキが美味しくて……強そうな人は、いました」

「おおー! いいなー!」

「ふふふ」


 リリィが、シノンの手にある魔界の珍しいお菓子を見て、微笑んだ。


「シノンさん、とても良い顔をしていますね」

「え……?」

「私たち、少し反省したんです」


 アリアナが、真剣な顔で言う。


「シノンさんを心配するあまり、過保護になりすぎていたかもって。あなたが選んだ人なら、信じて見守るのも、友達の役目……よね」

「アリアナさん……」

「それに!」


 アリアナが、急に顔を輝かせた。


「シノンさんがそんなに幸せそうなら、私たちも負けていられませんわ!」

「へ?」

「私たちも、そろそろ恋を探すべき時期かもしれません!」

「そうだぞ! 私も、私より強い彼氏が欲しい!」

「ふふふ。優良物件のご紹介なら、歓迎ですよ?」


 三人が、期待に満ちた目で、シノンを見た。


「ねえ、シノンさん。今度、その彼氏さんに頼んで……彼のお友達を、紹介してもらえないかしら?」

「えええ!?」


 シノンの頭に、魔界の土下座していた兵士たちや、戦闘狂のゼストが浮かんだ。


(あ、あの人たちを、紹介……!?)


 新たな騒動の予感に、シノンはひきつった笑顔で頷くしかなかった。

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