表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女同士の狂騒曲、大魔王との狂詩曲  作者: ひより那
=== 001 ===

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/42

第24話 情熱的恋愛入門

『――シノン。会いに来たぞ』


 教会の鐘楼から響く、シノンにしか聞こえない声。そして、村の反対側から感じる、あの魔人幹部の、禍々しい気配。


「(ひいいいいい!?)」


 シノンの顔から、血の気が引いた。


(なんで!? 二人とも、こんな場所に!? ディアブロさんが、こっち見てる……! 幹部も、こっち見てる……!)


 シノンの思考は、魔王と幹部の登場により、完全にフリーズしてしまった。その意識を逸らした一瞬。


「(……見つけたぞ、マグナスの子孫(のこりかぜ)……!)」


 村の反対側に潜んでいた魔人幹部は、鐘楼の上のディアブロには気づかないまま、絶好の好機と判断した。雑魚(ゴブリン)の群れと戦うアリアナたちを無視し、その影から、一直線に、シノンめがけて影の槍を放った。


「シノンさん!」


 アリアナが、その第三者の気配に気づき、絶叫した。


「しまっ……!」


 シノンも、我に返り、基礎の防御姿勢から流れるように、迎撃態勢へと移行した瞬間——


「――愚か者が」


 鐘楼の上にいたはずのディアブロが、音もなく、シノンの前に転移していた。彼は、迫り来る影の槍を、まるで埃でも払うかのように、片手で掴み霧散させた。


「「「…………え!?」」」


 アリアナ、エルザ、リリィの三人が、突如現れた、あの規格外(ハイ・スペック)男を見て、息を飲んだ。


「な……!?」


 魔人幹部も、自分の必殺が、いとも簡単に防がれたことに驚愕する……そして、目の前に立つ男の背中を見て、全身が凍りついた。


「(……ま、まさか…………なぜ、ここに……!?)」


 ディアブロは、ゆっくりと、魔人幹部の方を振り返った。その赤い目には、演技ではない、本気の殺意が宿っていた。


「誰の嫁に、手を上げようとしている?」

「ひ……っ!?」


 幹部は、それが魔王ディアブロ本人であると確信し、声にならない悲鳴を上げた。


「下がれ。二度と、私の遊びを、邪魔するな」


「は、はい! も、申し訳……!」


 幹部は、王の本気の圧に恐怖し、即座に影となって、その場から逃走していった。


 ◇


 幹部が去り、戦場には、雑魚(ゴブリン)を掃討し終えたアリアナたちと、シノン、そして、シノンを庇うように立つ魔王ディアブロだけが残された。 一瞬の静寂。


「あ、あの……ありがとうございます……?」


 シノンが、ディアブロのローブの裾を、おずおずと引いた。


「嫁の危機を助けるのは夫の役目だ。助けなんて必要はなかろうが、つい体が動いてしまってな」


 魔王は、一瞬の、デレを見せた。


「むー! あいつ! また来たぞ!」


 エルザが、ディアブロに向かって大剣を構え直す。


「シノン! あいつ、今、嫁って言ったぞ! やっぱり、お前をさらいに来たんだな!」


「そ、そうよ!」


 アリアナも、我に返り、シノンを引き離そうと駆け寄る。


「シノンさんから離れなさい! あなたのような規格外(バケモノ)に、シノンさんは渡しませんわ!」


「……ほう?」


 ディアブロは、自分に敵意を向けるアリアナとエルザ、そして、冷静に素材を査定しているリリィを一瞥した。


「……騒がしい友達だな」


 ディアブロは、仲間たちには一切答えず、シノンに向き直った。


「シノン。会いに来たぞ」

「へ?」

「先日、『魔力石(コールストーン)』を渡したはずだ。  ……なぜ、私を、呼ばん? 私の方から逢引にきたぞ」

「あ、あ、あの……!」


 シノンは、仲間たちの「逢引!?」)という言葉に対しての、突き刺さるような視線と、ディアブロからの圧力の、板挟みになった。


(どうしよう……!)


「……そうか」


 ディアブロは、シノンが答えられないのを見て 「貴様らがいると、騒がしくて逢引もできん」と、アリアナたちが反応するより早く、シノンの腕を掴んだ。


「きゃっ!?」

「少し、場所を変えるぞ。嫁よ」

「ま、待って……!」


 シノンの抵抗も虚しく、二人の姿が影に包まれ、その場から消え去った。


「「「…………あ!」」」


 アリアナ、エルザ、リリィの三人が呆然と取り残された。


「あ! シノン(さん)が、また連れ去られたー!?」

「むー! あいつ、やっぱりシノンを嫁にする気だ! 追いかけるぞ!」

「どこへ!?……はぁ。これは、交渉のテーブルにすら、つけませんでしたね……」


 三人の言葉が、空しく響き渡った。


 ◇


 再び、あの闘技場の荒野。ディアブロは、シノンをそっと地面に降ろした。


「な、何するんですか! いきなり! みんな、まだ戦いの後で……!」

「騒がしい邪魔者がいたからな。……ここなら、誰にも邪魔されん」


 ディアブロは、シノンの抗議を一蹴すると更に続けた。


「それに、結婚の返事を保留にしただろう」

「う……。は、はい。だから、まだ……」

「ああ、分かっている」


 ディアブロは、意外にも素直に頷いた。 そして、懐から、一冊の情熱的恋愛入門(ほん)を取り出した。


「……この数日、これを熟読してな。私の論理に、一部欠落があることに気づいた」

「え……?」


 ディアブロは、本をパラパラとめくり、あるページを開いてシノンに見せた。


「ここだ。結婚とは、ゴールである。そこに至るまでには、友達、恋人といった、互いを知るための期間(プロセス)が必要不可欠である……とな」


「あ……」(この人、真面目に読んでたんだ……!)


 シノンは、ポカンと口を開けた。


「貴様が先日、返事を保留にした理由も、これだろう?  いきなり結婚と言われても、貴様は私のことを『魔王ディアブロ』としか知らん。  ……手順が、間違っていたのだ」


 ディアブロは、本を閉じ、真剣な顔でシノンを見つめた。そして話しを続ける。


「そもそも、貴様は嫁や結婚の意味を、正しく理解しているのか?」

「う……。そ、それは……」

「『人生を共にする』……『生涯の相棒(パートナー)』のことだ」ディアブロが、はっきりと言った。 「ただ強いだけでなく、互いの孤独を埋め、背中を預けられる、唯一無二の存在。……それが、私の定義する嫁だ」

「(相棒(パートナー)……)」


 シノンは、その言葉に、胸がドキリとした。戦いの中で感じた、あの全能感と安心感。彼になら、私の背中を預けられるかもしれない。そんな予感が、確かにあった。


「だが、貴様には、まだその覚悟がないのだろう。  ……ならば、シノン」


 ディアブロは、シノンに手を差し伸べた。


「私と、恋人になれ」


 シノンが、固まった。なんとか言葉を絞り出す。


「こ、恋人……?」

「そうだ。友達という段階も考えたが……」


 ディアブロは、ふっ、と笑った。


「私と貴様は互角だ。すでに命のやり取りをした仲だ。友達などという生温い関係は、とうに越えているだろう?」

「(えええ!?)」

「だから、次は恋人だ。……手順通りだろう?」


 ディアブロの論理は、相変わらずズレていたが、妙な説得力があった。友達を知らない彼にとって、戦友(ライバル)の次は、恋人しかないのだ。


「(ど、どうしよう……!)」


 シノンは、混乱した。でも、嫌ではなかった。いきなり結婚と言われるより、ずっと、現実的で……そして、少しだけ嬉しいと思ってしまう自分がいた。


「……あの」


 シノンは、おずおずと尋ねた。


「恋人って、何をするんですか……?」

「知らん」


 ディアブロは、即答した。


「だから、それをこれから二人で知っていくのだろう? ……この本によれば、な」


 ディアブロは、少しだけ悪戯っぽく、本を振ってみせた。その顔は、魔王ではなく、一人の青年の顔だった。


「……分かり、ました」


 シノンは、真っ赤な顔で、頷いた。平凡な日常からは、かけ離れているけれど。この人と一緒にいると、退屈だけはしなさそうだと、そう思ったから。


「……じゃあ、恋人……からで、お願いします」

「おお、それでは、今からお前と私は恋人同士だな」


 ディアブロは、満足そうに頷くと、シノンの肩に手を置いた。


「では、恋人として、送ってやろう。……友達が、心配しているだろうからな」


 転移の光に包まれながら、シノンは思った。


(……アリアナさんたちに、なんて説明しよう……!)


 胃痛の原因は、まだ去っていなかったが、その痛みの中には、ほんの少しの甘酸っぱさが混じっていた。


 一人残されたディアブロは、「……恋人、か」と、数百年ぶりに、楽しそうに笑うのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ