第22話 恋
――えええええええええ!?
アリアナ、エルザ、リリィの、今度こそ本物の絶叫が、静かなはずの図書館中に響き渡った。
「し、し、し、シノンさん! い、今、なんて……!?」
アリアナが、シノンの両肩を掴み、激しく揺さぶる。
「好き!? 好きって、あの……あのバケモノレベルの男を!? 本気で!?」
「あ、あう……」(アリアナさん、揺らしすぎ……)
「おおー! すごいぞ、シノン!」
エルザが、状況を理解しないまま、無邪気にシノンの背中をバンバン叩く。
「ついに嫁になるんだな! 応援するぞ!」
「(げほっ!?)……え、エルザさん、痛い……!」
「――お静かになさい!!」
シノンが、アリアナとエルザからの挟撃攻撃でキャパシティ・オーバーを起こしていた、その時。書庫の奥から、鬼のような形相をした、年配の女性が現れた。
「『アベレージ・ワン』の皆さん! また、あなたたちですか!」 「「「あ……」」」
魔人幹部を撃退したという噂のおかげで、最近、学園内での彼女たちの注目度と、騒がしさはトップクラスだった。
「ここは神聖なる図書館です! 恋バナだか尋問だか知りませんが、騒ぐなら外でやりなさい! ……まったく、近頃の学生は……!」
「「「「す、すみません!」」」」
四人は、司書に平謝りしながら、図書館を叩き出されてしまった。
◇
とぼとぼと、四人は作戦会議室(シノンの部屋)への帰路についていた。 (※アリアナとリリィは自宅通いだが、チーム活動(と、シノンの監視)のため、放課後は基本的にシノンの部屋に集まるのが日常になっていた)
「……はぁ」
アリアナが、頭痛をこらえるように、こめかみを押さえている。
「……信じられないわ……。シノンさん、あなたが本気で、あの男に……」
「だ、だって……!」
▶(シノン)◇
(好きって、言っちゃった……!)
言ってしまった後で、顔から火が出るほど恥ずかしくなってきた。
(でも、あれは本音だ)
『普通の学生』でいたかった。でも、あの戦いは、楽しかった。あの孤独を分かってくれた時、嬉しかった。嫁とか結婚とかは、まだ全然分からないけど……。
(あの人に、また会いたい。……そう、思っちゃってる)
▶◇◇◇
「むー!」
エルザが、シノンの隣を、嬉しそうに飛び跳ねている。
「いいなー、シノン! 嫁かー! 結婚したら、私とも戦ってくれるかな、あのディアブロってヤツ!」
「エルザ! あなたは、少し黙ってなさい!」
アリアナが、エルザを一喝する。
「……ふふふ」
リリィが、いつもの笑顔でシノンに向き直った。
「シノンさん。これで、状況はクリアになりました」
「へ?」
「今までは、シノンさんの意思が不明瞭でしたから、私たちも護衛』という対応しか取れませんでした。ですが、『シノンさん自身が、彼に惹かれている』という事実が確定した今、私たちの取るべき行動も、変わってきます」
「……どういう、ことですか?」
「決まってるでしょう!」
アリアナが、作戦会議室のドアを開けるなり、シノンを部屋の中央に座らせ、仁王立ちになった。
「……これより、『シノンさんの初恋を、まともな《《交際》》に着地させる』ための、第二回・緊急作戦会議を開始します!」
「おおー! 作戦会議だな!」
シノンは、(初恋!?)と、その単語に、顔を真っ赤にさせた。
◇
「まず、問題点を整理するわ!」
アリアナが、黒板に、チョークを叩きつけるように書き出した。
『問題点①:相手が、バケモノすぎる』
『問題点②:相手が、シノンさんを嫁と呼んでいる』
『問題点③:シノンさんが、相手に惚れてしまっている』
「ちょ、アリアナさん! 惚れてとか、そんな……!」
「事実でしょう!」
「むー! いいじゃんか! 両想いだろ、それ!」
「問題はそこじゃないのよ、エルザ!」
アリアナが、チョークをビシッと三人に突きつける。
「いいこと? 恋愛というのは、お互いが対等でなければ成立しないわ。 でも、あの男は、どう見てもバケモノ』よ。シノンさんが、力ずくで連れ去られる可能性が、非常に高い!」
「あ……」(昨夜、連れ去られた……)
「だから!」
アリアナは、高らかに宣言した。
「私たち『アベレージ・ワン』が、シノンさんの後ろ盾となって、あの男と対等に渡り合えるよう、サポートします!」
「おおー! 後ろ盾!」
「具体的には、まず交渉よ、リリィ!」
「はい。お任せください」
リリィが、笑顔で立ち上がった。
「相手が、シノンさんとの結婚を望む以上、こちらにも条件を提示する権利が発生します。まずは、シノンさんの『学園生活の保証』。次に、『私たちへの、定期的な情報開示』。そして、『慰謝料、……いえ、結納金の査定』ですね」
「リリィさん!? いつの間に、そんな……!」
「そして、エルザ!」
「おう!」
「あなたは、実力担当よ。あの男が、万が一、シノンさんに暴力を振るおうとした場合、あなたが戦うのよ!」
「なぬ!? あいつと戦っていいのか!?」
「ええ! 正当防衛として、私が許可します!」
「やったー! 燃えてきたぞー!」
「み、皆さん……」
シノンは、仲間たちのサポート体制に、嬉しさと、申し訳なさで、胃がキリキリと痛んだ。
(どうしよう……! 『あの人、魔王なんです』なんて、言ったら……アリアナさん、即座に『国を挙げての戦争よ!』って言い出しそう……エルザさん、「魔王退治だー!」って、今すぐ飛び出しそう……リリィさん、「魔王様との独占契約……!?」って、ソロバン弾きそう……ダメだ。やっぱり、言えない)
「……あの、皆さん。ありがとうございます」
シノンは、覚悟を決めた。
(この恋の相手の正体だけは、絶対に隠し通したまま、みんなに相談しよう……!)
「それで、シノンさん」
アリアナが、咳払いをして、シノンに向き直った。
「まず、第一歩として。彼を、呼び出してもらえませんか?」
「へ!?」
「ここで、私たち四人と、彼とで、正式な会談を持ちます!」
「い、今からですか!?」
「当然よ! 恋は、スピードが命よ!」
「(どこで覚えたの、その知識……!)」
シノンは、仲間たちの友情に、逃げ場がないことを悟った。




