第20話 友達
――おはよう(ございます)じゃない(わよ)!!!!
作戦会議室では、昨日よりも深刻な尋問の渦中にいた。
アリアナは『シノンが変な男に騙されている!』と、貴族令嬢としての正義感に燃え。エルザは『シノンが自分より強い奴と遊んだ!』と、戦闘への嫉妬に燃え。リリィは『シノンが超優良物件と結婚!?』と、商魂に燃えていた。
シノンは、三者三様の圧力を前に、必死で言い訳を捻り出した。
「ち、違います! ディアブロっていうのは、その……遠い親戚みたいな……!?」
「「「(遠い親戚!?)」」」
「結婚っていうのも、あの人が一方的に言ってる冗談です! きっと!」
「「「(冗談!?)」」」
「あんな転移魔術を使う男が、冗談で!? 戦ったっていうのも、その……口論みたいな……!?」
「「「(口論!?)」」」
シノンの苦しすぎる言い訳は、火に油を注ぐだけだった。アリアナが、わなわなと震えながら、シノンの両手を掴む。
「……シノンさん」
アリアナは、昨夜の魔力障壁と警報機の残骸を悲しそうに一瞥した。
「……分かりました。もう物理的な護衛は、やめます」
「へ? ほ、本当ですか!?」
シノンが顔を輝かせた。
「ええ。あのディアブロとかいう男には、あんな玩具、無意味だと、嫌というほど分かりましたから」
「むー! じゃあ、どうするんだ、アリアナ! あいつが来たら、私が戦うぞ!」
「そうよ、エルザ」
アリアナは、シノンの両手をさらに強く握りしめ、真剣な目で、仲間たちを見渡した。
「だから、これからは作戦を変更します。……私たちは、仲間として、友達として!」
「「!」」
「シノンさんの恋が、あらぬ方向へ行かないよう、シノンさんを《《見守る》》ことにします!」
「おおー! 見守るだな!」
「ふふふ。友達としての継続監視ですね。承知いたしました」
「ええええええええ!?」
シノンの悲鳴が、部屋に響いた。
◇
数日後。学園長から『チーム活動・再開許可』の通達が来た。
『通達——
魔人幹部の件は、王都正規軍と高ランクの冒険者が引き継ぎ、学生たちは、再び『安全な』依頼に戻す』
「よし! 久しぶりの依頼だぞ!」
エルザが、ギルドの依頼書の前で、嬉しそうに飛び跳ねている。
「こら、エルザ。はしゃがないの。……シノンさん、体調は大丈夫?」
「は、はい! 大丈夫です!」
「ふふふ。では、活動再開の肩慣らしとして、今日はこの辺りにしておきません?」
リリィが、一枚の依頼書を剥がしてきた。
『依頼:学園図書館・低ランク魔導書の整理・清掃 難易度:学生可(下級)』
「えー! また戦いじゃないのかー!」
「むー! エルザ。たまには、肩慣らしにはちょうどいいじゃない。それに……」
アリアナが、シノンをチラリと見る。
「……こういう安全な場所の方が、シノンさんの恋愛相談にも、ゆっくり乗ってあげられるし?」
「おお! そうか! 嫁の男の話だな!」
「あ、あはは……」(やめて、エルザさん……)
シノンは、アリアナとリリィの監視の視線を感じながら、久しぶりの『チーム活動』へと、向かうのだった。
◇
学園の図書館は、静まり返っていた。四人は、一番奥の書庫で、埃っぽい魔導書を棚に戻す作業を、行っていた。もちろん、作業だけでは、終わらなかった。
「……で、シノンさん」
アリアナが、魔導書を拭きながら、小声で尋問を再開した。
「そのディアブロ様は、その後、何か接触は?」
「(ビクッ!?) な、ないです! 何も!」
「本当ですかぁ?」
リリィが、棚の上段から、笑顔でシノンを覗き込む。
「シノンさん、ここ数日、時々虚空を見て、フリーズしてますよね? ……まるで、物思いにふける少女のように」
「ぎくっ!?」 (ディアブロさんからのメッセージを見ているとは言えない……)
事実、あのお泊り会以来、シノンの元には、一日三回、ディアブロから魔力通信が届いていた。
『今、何をしている』
『「友達」ごっこは、まだ終わらんのか』
『早く「返事」を寄越せ。嫁よ』
……など、内容のほとんどが求婚の催促であり、シノンはすべて無視を貫いていた。
「むー! シノンだけズルいぞ!」
エルザが、本の山に座り込み、頬を膨らませる。
「ディアブロってヤツ、そんなに強いなら、私も会いたいぞ! 今度、紹介しろ!」
「そ、そんな、無茶な……!」
シノンが、三方向からの尋問に、どう切り抜けようか悩んでいた、その時。
「…………?」
シノンの背筋が、凍った。
(この感じ……! 市場で感じた、あの『圧倒的な気配』……! まさか! 今、ここで!? みんながいるのに!?)
シノンが、恐る恐る、書庫の影が一番濃い場所……誰もいないはずの行き止まりの棚を見ると。そこに、彼はいた。
魔王ディアブロが、認識阻害をかけたまま、平然と、埃っぽい魔導書を、つまらなそうに立ち読みしていた。
「(ひいいいいい!?)」
シノンの顔から、血の気が引く。ディアブロは、シノンの視線に気づくと、パタン、と本を閉じ、シノンに向かって、ゆっくりと歩いてきた。
「シノンさん? またフリーズして……」
アリアナが、怪訝な顔でシノンに近づく。
「むー? シノン、どうしたんだ?」
エルザも、シノンの視線の先を追おうとする。
(ダメダメダメ! アリアナさんが来ちゃう! エルザさんに見つかる!)
「あ、あ、あの!」
シノンは、咄嗟に、目の前のディアブロと、隣にいるアリアナたちに向かって、意味不明な大声を上げた。
「埃が! 目に……!」
「え? 埃?」
「だ、大丈夫です! ちょっと、そこの水場で、顔、洗ってきます!」
シノンは、仲間たちにそう叫ぶと、ディアブロに向かって、猛然とダッシュした。
「あ、待ちなさい、シノンさん!」
「なんだよー!」
シノンは、アリアナたちの制止を振り切り、ディアブロの手を掴むと、「(こっちです!)」と、彼を引っ張るようにして、書庫の奥にある誰もいない資料準備室へと、雪崩れ込んだ。
バタン! シノンは、準備室のドアに鍵をかけると、目の前の魔王に向かって、息を切らしながら叫んだ。
「な、何してるんですか! こんな所まで!」
「逢引だ」
ディアブロは、平然と答えた。 「貴様が、私のメッセージを、すべて無視するから、直々に返事を聞きに来てやった」
「そ、そんな……!」
「それにしても、シノン」
ディアブロは、楽しそうに目を細める。
「随分と、積極的になったではないか。……自ら、私の手を引いて、二人きりの密室に連れ込むとは」
「なっ……!?」
シノンの顔が、カアアアッと真っ赤に染まった。




