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女同士の狂騒曲、大魔王との狂詩曲  作者: ひより那
=== 001 ===

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第19話 求婚

――ええええええええええ!?


 シノンの絶叫が荒野に響き渡った。

 月明かりの中、完璧な美貌の魔王は、片膝をついたまま、真っ直ぐにシノンを見つめている。その赤い目には、孤独とも、好奇心とも違う、……純粋な期待のような色が浮かんでいた。


「な、な、な……!」


 シノンは、真っ赤になった顔のまま、パジャマ姿で後ずさった。


「け、結婚!? わ、私と、あなたが!?」

「そうだ」


 ディアブロは、平然と頷く。


「なぜだ? 貴様ら人間は、こうして求婚の儀式を踏むのだろう? 情熱的恋愛入門(あのほん)にも、そう書いてあったぞ」

「(『あの本』!? アリアナさんたちに没収された、あの……!?)」


 シノンは、この魔王が、自分たちの作戦会議室(たまりば)で、あの本まで査定していたことを知り、さらに混乱した。


「い、いや、そうじゃなくて! なんで!?」

「なぜ、か」


 ディアブロは、心底不思議そうに首を傾げた。彼にとって、それは、当たり前な論理的な帰結だった。


「貴様は、私と互角の力を持つ。そして、私と同じく、力を持て余し、平凡を望む孤独を知っている」

「……!」

「最強の私にとって、貴様は、この世で唯一対等な存在。……ならば、シノン。お前が、私の嫁となり、人生を共にする。これは、必然だろう?」


「ひ、必然……!?」


 シノンは、その論理に、言葉を失う。この人は、本気だ。本気で「私とあなたは同じだから、結婚するのが当たり前」だと思っている。


「(どうしよう……! 返事は!? 『はい』なんて言えるわけないし、『いいえ』って言ったら……!?)」


 シノンが、最強の求婚相手を前に、必死で答えを探していると、「……む」  ディアブロが、不意に、シノンの背後の空間を見た。


「……時間切れ、か」

「へ?」

「どうやら、貴様の友達が、目を覚まし始めたようだ」

「ええ!?」


 ディアブロは、スッと立ち上がると、シノンに手を差し伸べた。


「……仕方ない。今日の逢引は、ここまでだ。返事は、次に聞こう」 「あ……」

寝台(ベッド)まで送る。……私の嫁」

「だから、嫁じゃ……!」


 シノンが、何かを言い返す前に、ディアブロは、またしてもシノンのパジャマ姿を軽々と抱きかかえた。


「きゃっ!?」


 再び、シノンの意識は影に包まれ、荒野から消え去った。


 ◇


 作戦会議室(たまりば)。そこは、シノンが抜け出した時と、変わらない静寂に包まれていた。

 アリアナ、エルザ、リリィの三人は、シノンお手製の『|即効性・副作用無・睡眠薬草スリープ・ハーブ』の効果で、まだ眠りについている。


 ふわり、と。部屋の影から、ディアブロが、シノンを抱いたまま姿を現した。  彼は、シノンを、そっと彼女自身の寝台(ベッド)の上に降ろした。


「……!」


 シノンは、慌てて毛布を被る。


「……ふん」


 ディアブロは、眠りこけるアリアナ、エルザ、リリィを一瞥した。


「……これが、貴様の日常か」

「……そうです」


 シノンは、毛布の中から、精一杯の抵抗の目で、ディアブロを睨んだ。


「(私の、大切な日常です)」

「……そうか」


 ディアブロは、そのシノンの目を見て、なぜか、楽しそうに笑った。


「ならば、その日常ごと、お前を私のものにすればいいだけだ」

「……!」


「おやすみ、シノン」


 ディアブロは、そう言い残すと、今度こそ、音もなく影に溶け、完全に消え去った。


「…………」


 一人、寝台(ベッド)に残されたシノン。


(日常ごと、私のものに……?)(結婚……)(嫁……)


 シノンの頭が混乱する。いろいろなことがあった1日の疲労で、そのまま深い眠りに落ちていった。  ……自分の寝言には、気づかないまま。


 ◇


 朝。作戦会議室(たまりば)に、眩しい朝日が差し込む。


「……ん……」


 最初に目を覚ましたのは、アリアナだった。


「……頭が、痛い……。昨日の、ミルク……?」


 彼女は、ぼんやりとした頭で、昨夜の籠城作戦を思い出す。


(そうだわ! あの規格外(ハイ・スペック)男は!?)


 アリアナは、慌てて部屋を見渡した。


「……!」


 彼女は、信じられない光景を目にする。自分が設置した、部屋の四隅の魔力障壁(マジック・バリア)の古代魔導具が、……すべて、黒焦げになって、砕け散っている。


「そ、そんな……!」


 アリアナの悲鳴で、リリィとエルザも、飛び起きた。


「むー……。なんだ、アリアナ、朝か……?」

「……あらら。これは、派手にやられましたね」


 リリィが、冷静に、ドアと窓に仕掛けた五重の警報機の残骸を指差す。それは、ディアブロが指で摘んだ塵となっていた。


「け、結界が……! 警報機が……!」


 アリアナは、真っ青になった。


「彼が、来たんだわ……! この《《鉄壁》》の守りを、潜り抜けて……!」

「なぬ!?」


 エルザが、慌てて大剣を掴む。


「来たのか!? どこだ!?」


「……シノンさん!」


 アリアナが、最悪の事態を想像し、シノンの寝台(ベッド)を見た。


(嫁にする、と言っていた……! まさか、連れ去られた……!?)


 だが、シノンの寝台(ベッド)の膨らみは、ちゃんとそこにあった。アリアナ、エルザ、リリィは、息を飲んで、そっと寝台(ベッド)に近づく。


「……(スヤァ)……」


 シノンは、毛布にくるまり、健やかな寝息を立てていた。無事だ。……だが、その寝言を聞くまでは。


「……ん……。ディアブロ、さん……」


「「「(!?)」」」


(ディアブロ……? 名前、聞いたわね……!)


「……結婚、なんて……。いきなり、言われても……」


「「「(けっこん!?)」」」


 アリアナとエルザとリリィの目が、カッと見開かれた。


「……でも、あの戦い……楽しかった、な……。……嫁……(むにゃむにゃ)……」


「「「…………」」」


▶(アリアナ)◇


(……ま、待ちなさい)


 昨夜、あの規格外(ハイ・スペック)男は、この部屋に来た。私たちの完璧な護衛を、突破して。そして、シノンさんに、改めて結婚を申し込み、シノンさんは、それを(まんざらでもない様子で)寝言で言っている……!?


(ど、どういうことなのーーーーー!?)


▶◇◇◇


「むー! シノン、ズルいぞ!」


 エルザが、シノンの毛布をバサバサと揺さぶり始めた。


「私たちが寝てる間に、あいつと戦ったのか!? 結婚って、どういうことだ!?」


「ん……んん……?」


 シノンは、激しく揺さぶられ、ようやく目を覚ました。


「……あ。……おはよう、ございます……?」


「「「おはよう(ございます)じゃない(わよ)!!!!」」」


 アリアナとリリィの、絶叫が響き渡った。


「シノンさん! ディアブロって誰!?」

「結婚って、どういうことですか!? 交渉の進捗を、詳しくご報告願います!」


「あ、あ、ああ……」


 シノンは、パジャマ姿のまま、仲間たちによる、昨日よりも深刻な尋問に、再び巻き込まれることとなった。

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