第17話 予告
――護衛
シノンの悲痛な抵抗は、仲間たちの友情の前では、無力だった。
こうして、シノンの日常を守るため、という名目の、チーム『アベレージ・ワン』による『シノン護衛任務』が、秘密裏に開始された。
シノンは、(……あの人、また来るって、言ってたなぁ……)と、本気で胃が痛くなるのを感じるのだった。
◇
翌日。シノンが、朝、自室のドアを開けた瞬間。
「「「おはよう(ございます)!」」」
「おお! シノン、おはようだぞ!」
ドアの真ん前に、アリアナ、エルザ、リリィの三人が、仁王立ちで待っていた。
「え!? み、皆さん、どうして……」
「決まってるでしょう!」
アリアナが、シノンの両腕を左右から、がっちりと固める。
「『護衛任務』よ! あの規格外男が、いつ、どこで、シノンさんに接触してくるか分からないわ!」
「むー! そうだそうだ! 私が、変な男は全部『ドーン!』って、やっつけてやるからな!」
「ふふふ。シノンさんの資産価値は、私たちが守りますから」
「あ、ありがとうございます……」(すっごく、歩きにくい……!)
シノンは、アリアナとエルザに両脇を固められ、リリィに背後を取られるという、厳重すぎる護送態勢で、教室へと向かうことになった。
当然、学園内では、その異様な光景が注目を集めた。
「……おい、見ろよ」
「『アベレージ・ワン』の内輪揉めか?」
「いや、あれは……護衛……? シノンさん、どっかの、お姫様だったのか!?」
魔人幹部を撃退したと噂されるチームの異様な行動。この行動が、シノンの噂を更に大きくし、超重要人物疑惑が、さらに加速していった。
「……」
授業中も、『護衛任務』は続いた。シノンが、授業中にペンを落とした。
「あ……」
シノンが拾おうと屈むより早く。
「シノン! 私が取るぞ!」
エルザが身を乗り出し、ガタン! と、派手な音を立てて机ごとひっくり返った。
「エルザ! あなたは脳筋なの!?」
アリアナが即座に風魔術の小突風でペンを巻き上げ、シノンの机に叩きつけた。
「ふふふ。シノンさん、予備のペンなら、こちらに《《ダース単位》》でご用意がありますよ?」
リリィが、どこからともなく、高級そうな羽根ペンを取り出す。
「「「…………」」」
教室中の視線が、シノンたちに集まる。教師が、こめかみを押さえて呟いた。
「……アベレージ・ワン。……放課後、反省文な」
「「「(むー!)(しまったわ!)(あらら)」」」
◇
昼休み。食堂。
「よし、シノン! 今日のAランチは、私が毒見してやるぞ!」
「エルザ! 毒見なんて、そんな大袈裟な……!」
「ふふふ。エルザさん。毒見なら、こちらの|携帯用・魔力検知・毒見 銀食器セットの方が、確実ですよ?」
「なぬ! リリィ、ズルいぞ!」
「二人とも、落ち着きなさい! ……まずは、私が、このお水に浄化をかけますから!」
「あ、あの……私、そこまでされなくても……」
シノンは、三人の完璧な護衛によって、一口も昼食に手を付けられなかった。
◇
そして、放課後。反省文を提出し終えた四人は、ぐったりと作戦会議室に戻ってきた。
「はぁ……。疲れたわ……」
アリアナが、ベッドに倒れ込む。
「護衛って、戦闘より疲れるのね……」
「むー! 私はまだ戦い足りないぞ! 結局、あの嫁の男、来なかったな!」
「ふふふ。ですが、これで一日目は無事に終了、ですね」
(一日目……!? これが、毎日続くの……!?)
シノンは、仲間たちの優しさが《《ありがたい》》と思う反面、この異常な日常が、自分の求めた『キラキラした学園生活』とは、あまりにもかけ離れていることに、絶望し始めていた。
(……あの人のせいだ! あの人が、「また来る」なんて、訳の分からないこと言うから! もう、二度と来ませんように……!)
シノンが、本気で祈りを捧げた、その瞬間。
――ピロリン♪
シノンの目の前にだけ、可愛らしい効果音と共に、半透明のウィンドウが浮かび上がった。
『魔王様から、新着メッセージがあります』
「「「?」」」
シノンが、虚空を見て、フリーズした。
「シノン? どうしたんだ?」
「むー? また顔色悪いぞ?」
「シノンさん……?」
三人が、不思議そうにシノンを覗き込む。もちろん、三人の目には、そのウィンドウは見えていない。
▶(シノン)◇
(……な、なに、これ……!? メッセージ……!? じいちゃんの『基礎』にも、こんなのは……! ど、どうすれば……。いいの……?)
私が、恐る恐る、ウィンドウの『手紙』ボタンに触れると。目の前に、ディアブロからの手紙が、するすると表示された。
『――シノンへ。 魔王だ。昨日は、楽しかった。
さて、約束通り、今夜、貴様の元へ逢引に行く。友達は家に帰らせるか、寝かしつけておくように。……もし、起きていたら、夫として、挨拶させてもらう。
ディアブロより』
「…………」
その文面を読み終え、ゆっくりと、天を仰いだ。
(こ、今夜!? この部屋に!? アリアナさんたちがいたら夫として挨拶!?)
ダメだ。絶対に、ダメだ。今、この部屋で、ディアブロと、アリアナと、エルザと、リリィが、出会ってしまったら……。
▶◇◇◇
「シノンさん? 本当に、どうしたんですか?」
「シノン、なんか、すっごい震えてるぞ?」
「あ、あ、あ……」
シノンは、ワナワナと震えながら、三人の仲間を見た。
「あ、あの……! み、皆さん……!」
「「「?」」」
「こ、今夜は……! その……! ……お、お泊り会、しませんか!?」
シノンはみんなを早く寝かせて部屋を抜け出そうとするのだった。




