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女同士の狂騒曲、大魔王との狂詩曲  作者: ひより那
=== 001 ===

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第15話 嫁と逢引

 緊急会議の名を借りたお泊り会は、夜通し続いた。


 アリアナは「その男は危険よ!」と、貴族令嬢としての危機感を説き、エルザは「全力で遊べる相手なんて最高じゃないか!」と、脳筋理論で目を輝かせ、リリィは「その方の『資産価値』をぜひ査定させてください」と、商魂たくましく微笑んでいた。


 シノンは、三人の盛大に勘違いした優しさに包まれながら朝まで過ごした。


 ◇


 翌日。チーム活動は、魔人幹部の一件以来、変わらず休止のままだ。授業中、シノンは寝不足でこくりこくりと船を漕いでいたが、クラスメイトたちの視線が痛かった。


 『アベレージワン』が、魔王幹部を追い払ったという噂が、伝言ゲームを駆け抜ける伝書鳩のように広がっていた。


(……すごい見られてる)


 授業が終わった瞬間、アリアナがシノンの席に飛んできた。


「放課後、お茶でもどうかしら? もちろん、昨日の話の続きよ」

「え!? あ、あの……」

「むー! アリアナだけズルいぞ! 私も行く!」

「ふふふ。もちろん、私もご一緒させていただきます」


 シノンが断る隙など、どこにもなかった。彼女の平穏な放課後は、今や仲間たちによる厳重な監視の対象となっていた。


▶(シノン)◇


(ど、どうしよう……!)


 あの後、一晩中考えたけど、嫁の意味が分からない。じいちゃんの『基礎』にも、『情熱的恋愛入門』にも、載ってなかった……。


 それに、あの人、「また逢いに来る」って言ってた。


 いつ?  どこに?


(でも、もし、みんながいる時に来たら……?)


 また戦えるのは、ちょっと楽しみだけど…… 考えれば考えるほど、胃が痛くなってくる。


▶◇◇◇


「シノン、顔色悪いぞ? やっぱり、あの嫁の男のせいか!」

「エルザ! 声が大きい!」


 アリアナが、慌ててエルザの口を塞ぐ。


「(シノンさん。その男に、次に会う約束とかは、してないわよね?)」

「や、約束、は……してない、ですけど……」

「なら、良かったわ。もし、またしつこく言い寄ってきたら、すぐに私たちを呼ぶのよ! 私が、エインズワース家の名において、撃退してさしあげますから!」


(アリアナさん、本気だ……)


「ふふふ。でも、シノンさん。その方、すごく強くて綺麗なんですよね?」


 リリィが、目の笑っていない笑顔で核心に迫ってくる。


「具体的に、どこの貴族様か、お名前とかは……」

「な、名前……!」


(魔王ディアブロです、なんて言えるわけない!)


「そ、それが……! 聞いて、ません……!」

「名前も聞かずに嫁!? シノンさん、それは本気で危ないわよ!」

「あああ……」


 シノンが、三人の尋問に追い詰められ、頭を抱えた、その時だった。


「…………?」


 シノンの背筋が、凍った。放課後の、賑やかな学園の中庭。  学生たちの談笑の声。そのすべてが、一瞬、遠くなった。


(……この感じ)


 昨日、市場で感じた圧倒的な気配。


(なんで……!? 今、ここで!?)


 シノンが、恐る恐る気配のした方角……中庭から少し離れた、図書館の裏手、人気のない渡り廊下の方を見ると。そこに、彼はいた。


 昨日と同じ、漆黒の髪、赤い目。美しい人間の青年の姿。魔王ディアブロが、学生たちに一切気づかれることなく、平然と、木陰に寄りかかって立っていた。そして、シノンだけを見て、静かに微笑んだ。


「あ……あ……」


シノンの顔から、血の気が引いていく。


「シノン? どうしたんだ?」

「シノンさん? また顔色が……」

「むー? もしかして、あそこに嫁の男がいるのか!?」


 エルザが、シノンの視線の先を追おうとする。


「だっ、ダメ!」


 シノンは、咄嗟に叫んでいた。


「ご、ごめんなさい! 私、先生に用事があったの、忘れてました!」


 シノンは、アリアナたちに苦しすぎる言い訳をすると、「すぐ戻りますから!」と叫び、三人の制止を振り切り、魔王のいる図書館裏へと、走り出した。


「あ! 待ちなさい、シノンさん!」

「なんだよー! またかー!」

「……ふふふ。これは、本格的に……追跡の必要がありそうですね」


 リリィの目が、怪しく光った。


 ◇


 図書館裏の、渡り廊下。シノンは、魔王ディアブロの前に駆け寄ると叫んだ。


「な、なんで……! なんで、学園にいるんですか!」

「逢いに来る、と言っただろう」


 ディアブロは、平然と答えた。


「私の嫁を、迎えにな」

「嫁じゃありません! ていうか、なんで誰も、あなたのことに気づかないんですか!?」


 シノンが、周囲の学生たちを見る。彼らは、ディアブロのすぐ側を通り過ぎていくのに、まるで彼が石か空気ででもあるかのように、一切、その存在を認識していない。


「簡単な『認識阻害(イリュージョン)』だ。マグナスの子孫(のこりかぜ)である貴様と、私が許可した者以外には、私の姿は見えんよ」

「そ、そんな……!」 (じいちゃんの『基礎』にも、そんな便利なのはなかった……!)


「さて」


 ディアブロは、シノンの葛藤などお構いなしに、シノンに手を差し伸べた。


「昨日の遊びの続きを、しに行こうか、シノン」

「ひっ……!」


 シノンは、その手が、何を意味するのかを理解し後ずさった。


「だ、ダメです! 私、今日は友達と……!」

「友達、か」


 ディアブロは、シノンが逃げてきた方角を一瞥し、……初めて、その威厳の仮面の下に、純粋な好奇心のような色を浮かべた。


「ならば、その友達とやらを、私にも紹介しろ」

「(へ!?)」


 シノンの心の声が、声にならずに響いた。


「嫁の友人だ。魔王(わたし)が挨拶をしておくのも、礼儀だろう?」


 ディアブロは、至極真面目な顔で、そう提案した。


「(挨拶!? 魔王が!?)」


 シノンは、その、あまりにもズレた提案に、恐怖よりも混乱が勝ってしまった。


「そ、それは……! ダメです! 絶対に!」

「なぜだ?」


 ディアブロが本気で分からない、という顔をする。


 シノンは、魔王の言葉に、どう対応すべきか、必死に頭を悩ませていた、その時。


「――見つけましたわよ! シノンさん!」


「!」


 アリアナの声。渡り廊下の角から、アリアナ、エルザ、リリィの三人が、息を切らして現れた。


「はぁ……はぁ……。ここにいたのね! 用事っていうのは、この男と会うことだったのね!」


 三人の目に、ディアブロの姿が、はっきりと見えていた。ディアブロが、彼女たちに、見ることを許可したからだ。


「「「…………」」」


 三人は、ディアブロの姿を見て、固まった。


「(……綺麗……)」


 アリアナは、その現実離れした美貌に、貴族以上の気品を感じ、絶句した。


「(……つ、強そうだ……!)」


 エルザは、その佇まいから、昨日の上位種(ホブゴブリン)など比較にならない圧を感じ、武者震いした。


「(……これは……とんでもない資産価値……!)」


 リリィは、その男が纏うオーラが、金銭換算不可能なレベルであることを見抜き、笑顔が引きつった。


「……ほう」


 ディアブロは、現れた三人を、品定めするように一瞥した。


「……これが、貴様の日常か。  魔術師に騎士に商人か。……なるほど。確かに、退屈はしなさそうだ」


「な……! あなた、いきなり失礼ね!」


 アリアナが、我に返って叫ぶ。


「あなたが、シノンさんを嫁にするとか言った、不届き者ね!?」

「おお! こいつが嫁の男か!」


「……シノン」


 ディアブロは、騒がしい三人を無視し、シノンにだけ、声をかけた。


「今日は、客人が来たようだ。……遊びは、また今度にしよう」

「あ……」

「だが、次は邪魔が入らん場所で、ゆっくりと逢引といく」


 ディアブロは、シノンにだけ分かる、挑発的な笑みを浮かべると、「――さらばだ、友達諸共」 ……その姿が、ふっ、と影に溶けるように、消え去った。


「「「……消えた!?」」」


 三人が、呆然と叫ぶ。


「……行った」


 シノンは、その場にへたり込んだ。


「シノンさん!」

「シノン、大丈夫か!?」


 三人が、シノンに駆け寄る。


「……今の、何……?」


 アリアナが、震える声で呟いた。


「……ただの人間じゃないわ。あの気配……。それに、あの転移魔術」

「……」


 シノンは、何も答えられなかった。


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