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女同士の狂騒曲、大魔王との狂詩曲  作者: ひより那
=== 001 ===

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第11話 帰還

 アリアナは、司令塔として即座に冷静さを取り戻した。

 もう、四人の間に確認の言葉は必要なかった。『シノンを守る』。その意思は、今、この瞬間に統一されたのだ。


「……さて!」


 アリアナは、パン、と手を叩き、いつもの調子で指示を飛ばす。


「エルザ! まだ動けるわね! 予備の魔力信号(フレア)を準備して。ギルドに救援と報告よ!」

「おお!」

「リリィ! あなたはエルザの応急処置を! シノンは周囲の警戒を!」

「はい!」

「了解です!」


 エルザが、魔力信号(フレア)を空高く打ち上げた。赤い光が、王都の方角へ飛んでいく。

 ギルドの職員が駆けつけるまでの、数分間。四人は、クレーターや魔人幹部の話には触れず、負傷したエルザや、幹部と遭遇した直後に魔力信号(フレア)が飛ばせなかったことなど、事務的な会話を交わしていた。



 ほどなくして、ギルドの職員たちが森に到着した。


「無事か学生たち! 魔人は!?」


 職員たちが、エルザの怪我と、シノンの足元のクレーターを見て、息を飲む。


「……それが」


 アリアナは、一歩前に出ると、一切の動揺も見せず真実(じじつ)を告げた。打ち合わせも、練習もしていない。だが、アリアナには、仲間たちが完璧に合わせてくれるという確信があった。


「報告します。私たちは、魔人幹部と偶然遭遇しました。魔力信号(フレア)は、即座に破壊され、使用不能に」

「なんと……!」

「私たちは、交戦を余儀なくされましたが、歯が立ちませんでした。エルザも一撃で戦闘不能に」

「む……!」


 エルザが、悔しそうに顔を伏せる


「ですが」


 アリアナは、堂々と続けた。


「幹部が、我々にとどめを刺そうと、大規模な魔術を行使した際、……何らかの暴発を起こしました」

「……暴発、だと?」


 ギルドの職員が、怪訝な顔をする。


「はい。原因は不明ですが、幹部の魔術が自らの足元で暴発し、地面が陥没。幹部は、その衝撃で深手を負ったようでした。……その後、『マグナスの……』と、謎の言葉を残し、撤退していきました」

「……」


 職員たちは、アリアナの報告(じじつ)と、目の前のクレーターを見比べ、ゴクリと息を飲んだ。


「なんという魔力の暴発だ……。運が良かったな、君たち」

「はい。本当に、幸運でした」


 リリィが、完璧な笑顔で、アリアナの報告(じじつ)を補強した。


「ともかく、全員生還したのは幸運だ。エルザ君の怪我もある。すぐに王都に戻るぞ」


 こうして、四人はギルド職員の護衛のもと、王都へと帰還した。


 ◇


 学園長室。四人は、緊張した面持ちで、学園長と、ギルドマスターの前に立っていた。ギルド職員からは、すでに報告(じじつ)が上がっている。


「……無事だったか! よくぞ生きて戻った!」


 学園長が、四人の姿を見て安堵の声を上げる。


「して、幹部は!? ギルド職員からは『魔術の暴発』と聞いたが……! いったい何があった!」


 アリアナが、代表して一歩前に出る。


「……はい」


 アリアナは、すぅ、と息を吸い込んだ。彼女は、先ほどギルド職員にした報告と『一言一句違わぬ』完璧な報告(じじつ)を、再び堂々と繰り返した。


「……その後、『マグナスの……』と、謎の言葉を残し、撤退していきました」


「「「…………」」」


 学園長は、アリアナの顔をじっと見つめた。アリアナも、その視線を逸らさない。リリィは、完璧な笑顔でアリアナの横に控えている。エルザは、唇を噛んで俯いている。


「……マグナスだと!!」


 学園長は勢いよく立ち上がった。大きく息を吐くと静かに座った。


「……マグナス、の名が出たか。……そして、術の暴発。……分かった。君たちの報告を、ギルドと正規軍に引き継ごう。何よりも、学生(きみたち)が生還してくれて良かった。……本日は、もう休みなさい。チーム活動も、追って指示があるまで、一時休止とする」

「……ありがとうございます」


 四人は、深く頭を下げ、学園長室を後にした。


 ◇


 学園長室を出た、その帰り道。アリアナの機転と、エルザ、リリィの阿吽の呼吸によって、四人は無事に学園長への報告(じじつ)を終えた。張り詰めていた空気が、ようやく解ける。


「……はぁ」


 アリアナが、壁に手をつき、心底疲れたように息を吐いた。


「……疲れたわ。魔術を使うより、何倍も疲れた……」

「おおー! アリアナ、すごいぞ! さっきの、完璧だったな!」


 エルザが、打撲の痛みを忘れたかのように、無邪気にアリアナの背中を叩く。


「いっ……! エルザ、あなたねぇ……!」


「ふふふ。完璧な報告でしたね。学園長様も、ギルドの方も、私たちの報告(じじつ)を信じてくださったようですし」


 リリィが、いつもの笑顔に戻っている。


「あ、あの……!」


 三人の後ろを、ずっと俯いて歩いていたシノンが、意を決して駆け寄った。そして、三人の前で、深く、深く、頭を下げた。


「……ごめんなさい! 私のせいで、みんなに――」アリアナが言葉を遮った。「シノン! 事実を言ったまでよ!」と、笑顔で、シノンの頭をぽん、と叩いた。

「なーに暗い顔してるんだ! 仲間だろ、私たち!」

「え……?」

「お前が、私たちを助けてくれたんだ! だから今度は、私たちがお前を守る番だ! そうだろ、アリアナ!」

「……! ま、まあ、そういうことよ。あなたは、私たちの大切な戦力(なかま)なんだから、変なところに引き抜かれたら困るの」


 アリアナが、顔を赤くしてそっぽを向く。


「ふふふ。エルザさんの言う通りですよ、シオンさんは仲間、あの報告が事実です」

「みんな……!」


 シノンの目から、涙がこぼれそうになった。『仲間』。その言葉が、今、何よりも温かかった。


 ◇◇◇


 ――その頃。どこかの、薄暗い玉座の間。逃走した魔人幹部が、玉座の影に跪いていた。


「……それで? 『鋼のグリフォン』を始末したお前が、たかが学生(ガキ)ども四人に、手こずったと?」

 玉座から、声が響く。それは、若く、涼やかで、……それゆえに、底知れぬ圧を持つ男の声だった。


「も、申し訳ありません、我が王……ディアブロ様!」


 幹部は、震えながら報告する。


「……三人は、取るに足らない雑魚でした。ですが、最後の一人……あの小娘は、違いました」 「ほう?」


「……マグナス。あの『マグナス』の『武』を使う、後継者でした。『影界(シャドウ・フィールド)』を、ただの『踏み込み』一つで……!」

「…………」


 玉座の主……魔王ディアブロは、その報告を聞き、初めて、退屈そうに組んでいた足を、組み替えた。


「……マグナス。……ああ、いたな。唯一、私を封印してみせた、あの忌々しい人間の爺が」


 ディアブロは、立ち上がった。


「その子孫が、いたか。……面白い」


 幹部の報告は、数十年ぶりに、魔王の退屈を破った。


「……退屈していたところだ」


 玉座の影から、ディアブロが姿を現す。その姿は、魔王というよりは、美しい人間の青年のようだった。


「その玩具、私が直々に、確かめに行くとしよう」


 その赤い目が、愉悦に、細められた。

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