第6話「王宮からの招待状と宰相の罠」
騎士団の強さの源は、謎の食堂の料理にあり。
そんな噂は、ついに国王の耳にまで届くことになった。そしてある日、『食堂きまぐれ』に王家の紋章が入った一通の招待状が届けられた。
差出人は、アークライト国王。内容は、梓の功績を称え、王宮の晩餐会でその腕を振るってほしい、というものだった。
「王宮の……晩餐会!?」
あまりにスケールの大きな話に、梓は目を白黒させる。しかし、その裏で糸を引いているのが、あのヴァルター宰相であることには気づいていなかった。商人を使った店の乗っ取りに失敗した彼は、今度は国王の名を使い、梓を王宮という鳥籠に取り込もうと企んでいたのだ。
晩餐会当日。ジークフリートにエスコートされ、豪華絢爛な馬車で王宮へと向かう梓は、緊張で顔がこわばっていた。
「心配するな。俺がそばにいる」
ジークフリートの力強い言葉に、少しだけ心が安らぐ。
案内されたのは、眩いばかりのシャンデリアが輝く、豪華絢爛な厨房だった。しかし、そこに用意されていた食材を見て、梓は眉をひそめた。
わざと鮮度の落ちた魚。筋が多く、調理が困難な硬い肉。どれも、晩餐会で使うにはあまりにも質の悪いものばかり。ヴァルター宰相による、あからさまな嫌がらせだった。料理に失敗させ、梓の評判を貶める魂胆なのだ。
(……なめないでよね)
社畜時代に培った逆境への耐性と、食品メーカーで得た知識が、梓の心に火をつけた。
彼女はまず、スキル【鑑定】で全ての食材の状態を完璧に把握する。そして、ユニークスキル【絶対味覚の調理人】の力を解放した。彼女の頭の中には、目の前の食材を最高の一皿に変えるための、無数のレシピが閃いていた。
鮮度の落ちた魚は、現代から持ち込んだ多種多様なハーブと白ワインで臭みを完全に取り除き、香草焼きにする。硬い肉は、果物に含まれる酵素の力で驚くほど柔らかくし、赤ワインでじっくりと煮込んだシチューに。
次々と魔法のように絶品料理を生み出していく梓の姿に、王宮の料理人たちは驚愕の表情を浮かべていた。
***
そして、晩餐会が始まる。
前菜からデザートまで、完璧に計算され尽くしたフルコース。梓が作り上げた料理は、舌の肥えた王侯貴族たちを唸らせ、誰もがその味を絶賛した。国王もいたく感動し、梓に感謝と賞賛の言葉を贈る。
「見事であった、異世界の料理人アズサよ。そなたの力、ぜひ我が国のために役立ててはくれぬか」
計画を完璧に覆され、苦虫を噛み潰したような顔でそれを見ていたヴァルター宰相は、ほくそ笑む。彼の目的は、梓の評判を貶めることではなかった。彼女の力が本物であることを、国王や貴族たちの前で証明させることこそが、真の狙いだったのだ。
これで、国を挙げて彼女を保護するという名目で囲い込む大義名分ができた。
ヴァルターは、アズサという規格外の力を直接手に入れるため、より強硬な手段に出ることを静かに決意するのだった。




