第5話「クールな騎士団長の意外な弱点と甘いデザート」
商人たちを追い払ってくれたジークフリートに、梓はとっておきのお礼をすることにした。
「ジークさん、いつも助けてもらってばかりなので。今日は私からのサービスです」
そう言って彼女がカウンターに置いたのは、ガラスの器に美しく盛り付けられた、色とりどりのデザートだった。
グラスの底にはサクサクのコーンフレーク。その上に冷たいバニラアイスクリーム、そして現代から持ってきた黄桃やみかんのフルーツ缶詰をたっぷりと飾り、仕上げに真っ赤なチェリーを乗せた、特製のフルーツパフェだ。
「これは……なんだ? 宝石のように綺麗だが」
ジークフリートは、初めて見るデザートに戸惑いの色を浮かべている。
「フルーツパフェ、です。甘いんですよ」
促されるまま、彼はスプーンでアイスとフルーツをすくい、おそるおそる口に運んだ。
その瞬間、ジークフリートの碧い瞳が、今まで見たことがないほど大きく見開かれ、キラキラと輝きだした。
「……あ、まい……!」
冷たくて、甘くて、フルーツの酸味が口の中に広がる。今まで経験したことのない、幸福な味の洪水。普段のクールな彼からは想像もできないほど、その表情は喜びに満ちていた。
「美味しい……! アズサ、これはなんだ!? なんという食べ物だ!」
まるで子供のようにはしゃぎ、夢中でパフェを食べるジークフリートの姿に、梓は思わずくすくすと笑ってしまった。その無邪気な笑顔が、なんだかとても愛おしく感じられた。
最後の一口までを名残惜しそうに食べ終えたジークフリートは、ふぅ、と満足のため息をつくと、ぽつり、ぽつりと自らの過去を語り始めた。
「俺は……今まで、食事というものがわからなかった」
彼は王家の血筋に連なる貴族の生まれだった。しかし、幼い頃、家督争いに巻き込まれ、食事に毒を盛られたのだという。一命は取り留めたものの、その後遺症で味覚のほとんどを失ってしまった。
それ以来、彼にとって食事は、命を繋ぐためのただの栄養補給作業になった。味がしないものを、ただ黙々と胃に流し込むだけの時間。
「だが、アズサの料理だけは違った。君が初めて作ってくれたオムライスを食べた時、俺の世界に、初めて味というものが生まれたんだ」
アズサの料理だけが、なぜか彼の閉ざされた味覚をこじ開け、温かい感情を呼び覚ます。この食堂で過ごす時間だけが、彼に心の安らぎを与えてくれるのだと。
彼の孤独な過去を知り、梓の胸は締め付けられるようだった。ただの異世界人、ただのお客さんだと思っていた彼が、自分にとって特別な存在なのだと、はっきりと意識した瞬間だった。
「ジークさん……」
「だから、礼を言うのは俺の方だ。アズサ。君がここにいてくれて、本当に良かった」
そう言って微笑む彼の顔は、いつもの厳しい騎士団長の顔ではなく、一人の優しい男性の顔をしていた。
この人のために、もっと美味しいものを作ってあげたい。この人の心を、私の料理で温めてあげたい。
梓の心に、確かな想いが芽生え始めていた。カウンターを挟んだ二人の間には、パフェの甘さにも似た、穏やかで温かい空気が流れていた。




