第4話「地上げ屋(?)登場!私の店は私が守る!」
騎士団御用達の不思議な食堂。その噂は、王都を駆け巡るうちに尾ひれがつき、良からぬ者たちの耳にも届いてしまった。
ある日の夜。開店準備を進めていたところ、店の扉が乱暴に開かれた。入ってきたのは、見るからに悪徳商人といった風情の肥えた男と、その用心棒らしき屈強な男たちだった。
「ここが噂の食堂か。なるほど、なかなか趣のある作りだ」
商人は値踏みするような視線で店内を見回し、梓に向かって高圧的に言い放った。
「俺は王都で商売をしているバルガスという者だ。単刀直入に言おう。この店を我々に譲渡してもらいたい。もちろん、相応の対価は支払う」
その後ろには、この国の実権を狙うヴァルター宰相の影がちらついている。宰相は、騎士団の強化に繋がるこの店の力を、自分のものにしようと画策していたのだ。
「お断りします。この店は、私にとって大切な場所なので」
梓が毅然とした態度で断ると、バルガスの顔が歪んだ。
「ほう。賢明ではないな。後悔することになるぞ」
捨て台詞を残して彼らが去った翌日から、陰湿な嫌がらせが始まった。王都から仕入れていた肉や野菜、小麦粉といった食材が、一切店に届かなくなったのだ。どの業者に連絡しても、バルガス様の命令で卸せないと断られてしまう。
現代のスーパーで買い出しをして持ち込むにも、毎日大勢の冒険者や騎士たちの胃袋を満たすほどの量となれば、梓一人の力と資金では限界があった。
食材がなければ、料理は作れない。食堂は、開店休業状態に追い込まれてしまった。
「私のせいで……」
カウンターに突っ伏し、落ち込む梓。そんな彼女の頭を、小さな手が優しく撫でた。
「アズサ様、元気だして。リリィがなんとかする!」
そう言うと、リリィは自慢の猫耳をぴんと立て、鼻をくんくんとさせた。
「森に行こう! リリィの鼻なら、美味しいもの、いっぱい見つけられるもん!」
その言葉に、梓ははっと顔を上げた。そうだ、この世界には豊かな自然がある。それに、私には現代から持ち込んだ食材もあるじゃないか。
***
翌日、梓とリリィは二人で森へ向かった。リリィの鋭い嗅覚は本物だった。香り高いキノコや、甘い木の実、滋養のある薬草などを次々と見つけ出す。まるで宝探しみたいだ、と二人は夢中になった。
食堂に戻った梓は、森の恵みと、日本から持ってきた秘密兵器である切り干し大根や高野豆腐、ひじきといった乾物を組み合わせることにした。
スキル【絶対味覚の調理人】は、未知の食材の最適な調理法すら閃かせてくれる。
森のキノコと薬草、そして切り干し大根を煮込んだスープ。高野豆腐を異世界の鳥の出汁でじっくりと煮含めた、優しい味の煮物。
完成した新メニューを【鑑定】してみると、驚くべき効果が表示された。
【森の恵みと乾物の滋養スープ:効果・滋養強壮(大)、魔力回復(中)】
「これなら……!」
肉やパンがなくても、お客さんを満足させられるかもしれない。
その日の夜、店を開けると、事情を知らない冒険者たちがやってきた。
「お、今日は肉料理はないのか?」
「すみません、今日は森の恵みを使った特別メニューなんです」
半信半疑でスープを口にした冒険者たちは、次の瞬間、目を見開いた。
「な、なんだこれ! 身体の奥から力が湧いてくる!」
「魔力が回復していく……! ポーションよりすごいぞ!」
新メニューは、たちまち冒険者たちの間で大評判となった。肉体や魔力を酷使する彼らにとって、安くて美味しく、絶大な効果を持つ梓の料理は、まさに命綱だったのだ。
危機を乗り越え、店が再び活気を取り戻したその時、店の扉が勢いよく開いた。
「アズサ、無事か!」
そこに立っていたのは、事情を知って任務先から駆けつけた、鬼の形相のジークフリートだった。
「お前たちか。アズサの店にちょっかいを出したというのは」
彼の背後で青ざめるバルガスたちを一瞥し、ジークフリートは静かに剣の柄に手をかける。騎士団長の本気の怒りを前に、商人たちは悲鳴をあげて逃げ出していった。
「ジークさん……」
駆けつけてくれた彼の姿に、梓は心からの安堵を覚える。
「すまない。俺がもっと早く気づいていれば……」
「ううん、大丈夫。私の店は、私とリリィで守ったから」
誇らしげに胸を張る梓と、その隣で得意げに尻尾を揺らすリリィを見て、ジークフリートは知らず知らずのうちに、その口元を緩ませるのだった。




