番外編「看板娘のナイショのレシピ」
これは、アズサとジークフリートが恋人になる、少しだけ前のお話。
看板娘のリリィは、いつも自分に優しくしてくれる二人に、何かお礼がしたいとずっと思っていた。
(アズサ様はいつも美味しいご飯を作ってくれる。ジーク様はいつもリリィを守ってくれる。リリィも、二人がうーんと元気になるもの、作りたい!)
ある日、アズサが現代に少しだけ買い出しに戻った隙を狙って、リリィは内緒の計画を実行に移すことにした。
こっそりと厨房に忍び込み、アズサのエプロンをきゅっと結ぶ。もちろん、大きすぎてぶかぶかだ。
「えーっと、まずは……」
リリィは、アズサが使っているレシピ本を開いてみる。けれど、難しい文字はさっぱり読めない。彼女はレシピ本を絵本のように眺めながら、自分だけのユニークすぎる創作料理を開始した。
「キラキラしてて、美味しそう!」
リリィが鍋に入れたのは、昨日、森で採ってきた虹色に光るキノコ。次に、川原で拾ってきた、おはじきのようにキラキラ光る綺麗な石。
「アズサ様は、お鍋でぐつぐつしてた!」
見よう見まねで、鍋に水とキノコと石を入れ、火にかける。しばらくすると、鍋からは怪しい紫色の煙がもくもくと立ち上り始めた。
***
ちょうどその時、買い出しから戻ってきたアズサと、巡回を終えて店に立ち寄ったジークフリートが、その光景を目撃した。
「リ、リリィちゃん!? 何してるの!?」
「鍋から毒ガスのようなものが……!」
二人は大慌てで鍋の火を止める。
きょとんとした顔のリリィは、紫色の煙を指差して、胸を張って言った。
「二人へのプレゼントなの! これを食べたら、きっとすっごく元気になるんだよ!」
その一生懸命な気持ちと、健気な瞳に、アズサもジークフリートも怒ることなんてできなかった。アズサはリリィを優しく抱きしめる。
「ありがとう、リリィちゃん。その気持ちだけで、すっごく元気が出たよ。でもね、石は食べられないんだよ」
「えーっ! そうなの!?」
「代わりに、一緒にクッキーを作らない?」
アズサは、リリィに簡単なクッキーの作り方を教え始めた。小麦粉とバターを混ぜるリリィの小さな手を、アズサが優しく支える。その様子を、ジークフリートが少し不器用な手つきで手伝う。
三人で型を抜き、焼き上げたクッキーは、少し不格好だったけれど、バターのいい香りがした。
カウンターに並んで座り、温かいミルクと一緒に、三人でクッキーを頬張る。
「おいしい!」
「ああ、美味いな」
「えへへ!」
リリィの笑い声が、店内に響き渡る。
それは、血の繋がりを超えた、本物の家族の温かい時間。美味しいお菓子とたくさんの笑顔が、『食堂きまぐれ』を優しく満たしていた。




