第10話「ご注文は『最高の未来』。私が出した答え」
全てが終わり、梓は自分のこれからについて考えていた。
このまま異世界で、『食堂きまぐれ』の店主として生きていくのか。それとも、この不思議な出会いを一夜の夢として、全てを忘れて現代日本に帰るのか。
現代の社会には、もう未練はない。けれど、育ててくれた両親や、数少ない友人たちの顔が思い浮かぶ。
一人で悩む梓の様子に気づいたジークフリートは、彼女の隣に座り、優しく声をかけた。
「何を悩んでいる?」
「……私、これからどうしたらいいのかなって」
正直な気持ちを打ち明けると、ジークフリートは穏やかな顔で言った。
「アズサ。君がどんな道を選んでも、俺は全力で君を支える。たとえ、この世界を去ることを選んだとしても、俺は君の幸せを願う」
そして、彼は少し寂しそうに、けれど力強く付け加えた。
「もし、君がこの世界に残ってくれるのなら……会えるのが、この食堂が開く夜の間だけだとしても、俺は構わない。君の好きなように生きてほしいんだ」
彼の言葉が、梓の心の中にあった最後の迷いを吹き飛ばした。
この人は、私の都合やわがままを、全部受け入れてくれる。私が一番、私らしくいられる場所を、彼は与えてくれようとしている。
梓の心は、決まった。
***
翌朝。梓は夜明け前に現代の日本へと戻った。そのまま朝を待ち、まっすぐに向かったのはかつての職場だ。唖然とする元上司のデスクに、彼女は一枚の紙を叩きつけた。
「退職届です。大変、お世話になりました!」
「あ、相川くん!? どういうことだね!?」
慌てる上司に、梓は人生で一番晴れやかな笑顔を向けて言った。
「私、自分の店を持つことにしたんです! とっても素敵なお店なんですよ!」
すっかり荷物をまとめ、会社を後にする。もう、この場所に未練は一欠片もなかった。
そして、その夜。異世界に戻った梓は、『食堂きまぐれ』で待っていたジークとリリィの前で、高らかに宣言した。
「私、決めた! この店を続ける! 現代とこっちの世界、両方を行き来しながら!」
現代の便利な道具や美味しい食材を仕入れながら、この異世界で、大切な人たちのために料理を作る。両親や友達に会いたくなったら、現代に帰ればいい。そして、愛する人たちに会いたくなったら、この食堂の扉を開ければいい。
欲張りかもしれない。でも、それが私が出した答えだ。
「本当か、アズサ!」
「やったー! アズサ様、ずっと一緒!」
梓の決断を、ジークフリートとリリィは、最高の笑顔で祝福してくれた。
二つの世界を繋ぐ、不思議な『食堂きまぐれ』。その店主として、愛する人たちと共に生きていく。
終電を逃したあの夜から始まった、梓の新しい人生が、今、最高の形で幕を開けたのだった。




