4日目
朝起きて外を見ると、土砂降りの大雨だった。この様子だと、学校に行けそうにない。案の定スマホを確認すると休校の知らせが入っていた。
「1日暇になるな」
大きく背伸びをし、階段を降りながら呟いた。
俺は家にいる時間がとても苦痛だ。親と顔を合わせるのが嫌で、逃げたくなるほどだった。
リビングでは、母が朝食の用意をしていた。我が家は朝はイチゴジャムを塗ったパンと牛乳と決まっている。母が楽するためだ。父は朝が早いため既に出勤している。
「あら、おはよう。聞いた?学校無くて残念ね」
「本当に残念だ」
「まあ、こんな雨じゃあね。それにあなたのクラスの話聞いたわよ。クラスでも人気な子だったんでしょ?」
「そうだな」
「どうして死んじゃったんだろう。悲しいわね」
「さあ。てか、誰に聞いたの?」
「ママ友よ、ニュースにもなってたし。学校名は伏せられてたけどウチなんじゃないかとはおもってたわ」
「……」
パンが出来上がったので口を閉ざしてパンを食べる。ついでにニュース番組を付ける。今日の天気と、星座占いが主な内容だった。どうやら15時あたりから晴れるらしい。その機に外に散歩に出掛けることにした。
朝食を食べ終え、食器を洗った後自室に戻る。ベッドに寝転がり、俺はあの日のことを考え、そのまま二度寝してしまった。
次に起きたのは14時ちょっとだった。ちょうど良い時間な上に、母は夕飯の買出し中だったので、昼飯は食べずに外に出る。
地面はまだ濡れていて、水溜まりも目立つ。空気はジメッとしているし、正直リフレッシュにはあまりならない。
行くあても無いので近くにあるシャッター商店街をほっつき歩くことにし、イヤホンを両耳に刺して歩き出す。
商店街につくと珍しく人が何十人かいて、八百屋の前に集まっていた。野菜の特売か、閉店セールか。別に興味はない。
あまり知られていないが、商店街の中に小さな路地がある。その先には小さな公園があって、俺はそこが好きでよく行くのだ。高校生になってから行くことが無くなり、不意にさっき思い出したので、向かうことにした。
「この道、こんなに狭かったか?」
体を線にして歩いた先に、ブランコ1つとベンチが1つしかない公園があった。懐かしい光景だ。唯一変わっている点は、そこに空也がいたこと。空也は俺の存在に気づき、にこりと笑った。
「前田空也……なんでここに?」
「たまたまだよ。歩いてたら細い路地に気づいて」
「……なあ」
俺が口を開き、真純のことについて聞こうとしたとき、空也がそれを遮った。
「君は4組の人だよね。昨日あの場にいたでしょ?」
俺は返事をせず、静かに頷いた。
「僕を怪しんでる?」
「……どうだろう。別に自殺なわけだし、必ず犯人がいるとも限らないだろ」
「そっか。……僕は真純が本気で好きだった」
空也の回想に付き合うほどお人好しでも無いのだが、仕方無く聞くことにする。
「誰にでも分け隔てがなくて、屈託の無い笑顔。話したことはなかったけど、ずっと見てた。体育で走ったあとの満足そうな顔、人当たりの良い笑顔で友達と廊下を歩くときも」
俺は心の中に胸騒ぎを覚えた。
こいつなのか、そう思いたかった。
「真純が死んだ日、僕は真純と会ったんだ。と言ってもすれ違うだけだったけど」
あの日、あそこに空也が……?俺は空也を見ていない。俺が去った後に空也が現れたのだろうか。それとも嘘をついている?……いや、見えなかっただけかもしれない。
「会ったとき真純はなにかから逃げてるようだった。僕のことをちらちら見たり、ちょっと小走りになったり。僕は心配になって後を追ったんだ。そしたら、真純が家庭科室にたてこもっちゃって。僕は少ししたあと帰ったんだ。多分その後に真純は……」
「……なんでそれを俺に話すんだ?」
「なんでか、君とは仲良くなれそうな気がして」
「おかしいな、俺は空也が嫌いだ」
「そっか、残念。でも、信じて欲しい。僕はストーカーなんてしていない好意こそあったけど、碓氷くんの言った変な手紙は僕じゃない」
空也は左手で僕の肩を掴んだ。空也の眼差しに俺は感情が揺れ動いた。怒りなのか、信用なのか、俺には分からなかった。しかし、本人の証言に信憑性はない。
「……ストーカーはみんな、自分はストーカーじゃないって言うんだ」
俺は空也の手を解き、その場を後にする。俺はその時感じた。空也の真純に対する執着と、あの瞳を。それは俺の中の何かを彷彿とさせた。
夜。俺は空也との会話を思い出す。
「なにかから逃げているようだった」
俺と会ったあと、逃げるように。
あるいは、いたとされる空也から逃げるように。
俺の見落としか、俺が知らない誰かか。
しかし、これだけは言える。
「俺はずっと何もしていない……はずだ」
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