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第8話:王立研究所の秘密、暴かれる偽りの歴史

お読みいただきありがとうございます!


ついに物語の核心へ。王立研究所の最深部で、レトはこの世界の「嘘」と対峙します。 聖女エレインの誘いを断り、レトが選んだのは、偽りの平和を壊してでも「真実」を訳し出す道でした。


世界を揺るがす、翻訳家の反撃が始まります!

 王立研究所の最深部。そこは、地上の喧騒が嘘のように静まり返った、冷たい石造りの空間だった。  中心に鎮座するのは、巨大な黒い石柱。表面には幾何学的な紋様が刻まれ、そこから漏れ出すどす黒い霧のような魔力が、空間を歪ませている。


「……マスター。これより先は、現行の人類が触れるべきではない高次領域です」


 アイリスが警告を発する。彼女の瞳は、これまでにないほど激しく情報を処理し、青い光を放っていた。


「これが聖女の言っていた『遺物』か。……いや、違うな。これは『遺物』なんて呼べる代物じゃない」


 レトは石柱に歩み寄る。視界に浮かび上がるのは、これまでの魔物や病気とは比較にならないほど膨大な、そして「バグ」だらけの文字列だった。


【重要オブジェクト:世界管理記録アーカイブ】 【状態:致命的なセクタ損壊、およびウイルス干渉を検知】 【※注意:記録されている『歴史』の90%が、後天的に書き換えられています】


「歴史の書き換え……? どういうことだ、アイリス」


「言葉の通りです。この世界を管理するメインシステムに対し、何者かが過去のログを翻訳デコードし、都合の良いように改竄(改ざん)した形跡があります」


 レトは震える手で石柱に触れた。その瞬間、膨大な「真実」が脳内に流れ込んできた。


 ――一千年前、魔王を倒し世界を救ったとされる「伝説の勇者」。だが、記録に映し出されたのは、力を持ちすぎたがゆえに世界をバグらせ、人々を虐殺した「狂った破壊者」の姿。


 ――人々に恩恵を与える「聖なる光」。だが、その正体は、システムから漏れ出したバグを隠蔽するために、人々の魔力を吸い上げるための「寄生プログラム」。


 この世界の神話も、歴史も、人々の信仰さえも。すべては誰かが、世界のバグを誤魔化すためにデタラメに「翻訳」した作り話に過ぎなかったのだ。


「……ひどいな。全部、嘘じゃないか」


 レトの言葉に呼応するように、背後の扉がゆっくりと開いた。そこには、騎士団を待機させた聖女エレインが、勝利を確信したような笑みを浮かべて立っていた。


「お気づきになりましたか、レトさん。ええ、この世界は綻び(ほころび)だらけ。だからこそ、貴方のその『正しい翻訳』の力が必要なのです」


 エレインは一歩、また一歩と距離を詰めてくる。


「その石柱の記録を、私たちの都合の良い『正史』へと完全に書き換えてください。そうすれば、バグは消え、私たちは永遠の繁栄を手に入れられます。貴方はその立役者として、生涯、富と名声の中にいられるでしょう」


「……それで、今苦しんでいる人たちはどうなる? バグを消すんじゃなく、ただ上から綺麗な嘘を塗りつぶすだけだろ」


「それが政治であり、平和というものですわ。真実など、民衆には毒でしかありません」


 エレインの背後の文字列が、黒く変色していく。  彼女は世界のバグを「直す」つもりなどない。バグを「支配」し、自分が世界の唯一の管理者になろうとしているのだ。


「悪いが、俺のスキルは『嘘をつく』ためにあるんじゃない」


 レトは石柱に向き直り、全身の魔力を指先に集中させた。


「翻訳――全ログ展開フルアクセス! 隠蔽された『真実』を、世界定義に復元レストアしろ!」


「なっ……何をしているのです!? やめなさい、レト!」


 エレインが叫ぶが、もう遅い。石柱から放たれた白銀の光が、研究所の壁を、地面を、そして街の空を貫いた。


 ひび割れていた空から、ノイズが消えていく。同時に、世界中の人々が「見ていたはずの幻想」が剥がれ落ち、真実の景色が露わになっていく。


「……マスター。全世界の再同期を開始。これより、嘘に守られた偽りの平和は終了します」


 アイリスの声が響く。光が収まった時、石柱は砕け散り、聖女エレインは腰を抜かして床に崩れ落ちていた。


「貴方は……貴方は、なんてことを……! これでは、私たちが守ってきた『秩序』が……!」


「そんな秩序、最初から壊れてたんだよ」


 レトは冷たく言い放ち、アイリスと共にエレインの横を通り過ぎた。街の方からは、混乱した人々の叫び声と、それ以上に、どこか晴れやかな「真実に目覚めた」ざわめきが聞こえてくる。


 世界のバグを暴いた代償として、レトはこの国の、そして偽りの神殿の「最大の敵」となった。だが、彼の足取りに迷いはなかった。

第8話を最後までお読みいただき、ありがとうございました。


一気に物語が動き出しました! 歴史の改竄、偽りの神話……。レトが石柱を書き換えたことで、世界中の人々が「見ていたはずの幻想」が剥がれ落ちるシーンは、執筆していて鳥肌が立ちました。


しかし、国の秩序を真っ向から否定したレトは、文字通り「世界の敵」となってしまいます。 崩れ落ちる聖女を背に、レトとアイリスはどこへ向かうのか。


「急展開にワクワクする!」「ここからの逆転劇が楽しみ!」と思っていただけましたら、ぜひ【ブックマーク】や【評価★】をいただけると嬉しいです!

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