第5話:ギルドの再会と、招かれざる視線
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街での評判が広まり、懐かしい(?)顔ぶれとの再会が始まります。 ギルドの受付嬢セラとの再会、そして、塔でレトを突き飛ばしたあの男が再び目の前に……。
勇者パーティがいかに身勝手な論理で動いているのか、その裏事情も少しずつ明らかになっていきます。
宿屋の主人を救った翌日。エリュシオンの街は、文字通り「蜂の巣をつついたような」騒ぎになっていた。不治の病を一瞬で治した青年がいる。その噂は、尾ひれがついて街中に伝わっていた。
「……マスター。心拍数が上昇しています。逃亡を推奨しますか?」
隣を歩くアイリスが、無表情に問いかけてくる。彼女の視線の先には、レトを一目見ようと集まってきた野次馬の群れがあった。
「いいや、逃げ回るわけにもいかないさ。まずは冒険者ギルドに行って、正式に手続きをしなきゃな」
レトはフードを深く被り直し、ギルドの重厚な扉を押し開けた。染み付いた酒と埃の匂い。かつて勇者パーティの末端として、毎日のように通った場所だ。
喧騒に包まれたフロアに足を踏み入れると、一瞬、空気が凍りついた。視線の主は、受付カウンターの奥に座る眼鏡の女性――セラだった。
「あら。……死んだって聞いてたけど。ずいぶん元気そうじゃない、レト」
セラは書類から顔を上げ、驚きを隠すように眼鏡のブリッジを押し上げた。彼女はこの街のギルドで最も有能な受付嬢であり、レトがどんな扱いを受けていたかを知る数少ない理解者の一人だ。
「悪いな、期待を裏切って。なんとか生きて戻ったよ」
「……隣の美少女は? まさか、塔の中で拾ってきたなんて言わないわよね?」
「半分正解、かな。俺のパートナーだ」
セラの鋭い視線がアイリスを射抜くが、アイリスは無機質な瞳でそれを見返した。セラは一つ溜息をつき、レトを手招きして個室へと案内した。
「今、街はあなたの噂でもちきりよ。教会が治せなかった『魔力枯渇症』を、ただの翻訳家が治したってね。……レト、塔で一体何があったの?」
レトは少し迷ったが、自分のスキルが『世界そのものの定義』を読み解けるようになったことを、かいつまんで説明した。話を聞き終えたセラは、真剣な面持ちで顎に手を当てた。
「……なるほどね。単なる言語の翻訳じゃなく、事象の翻訳。……それ、もしバレたら国が黙っていないわよ。聖女以上の『奇跡』なんだから」
「自覚はあるよ。だから、あまり目立ちたくはないんだ」
「無理ね。もう手遅れよ」
セラは机の上に一枚の報告書を叩きつけた。
「シグルドたちは現在、第八〇層で足止めを食らっているわ。どうやら、彼らが力ずくでこじ開けた扉のせいで、塔の防衛システムが暴走したみたいね。……彼ら、今必死に『優秀な翻訳家』を探しているそうよ」
レトの背筋に冷たいものが走った。自分をゴミのように捨てた男が、今度は自分の力を必要としている。
「……彼らは今、塔の中に設置した『転移門』を使って、補給のために街と塔を頻繁に往復しているわ。ちょうど今も、ガストンが物資の調達に戻ってきているはずよ。見つからないうちに――」
セラの忠告が、最後まで終わることはなかった。個室の扉が、音を立てて乱暴に蹴破られた。
「おい、受付嬢! 街で『病気を治す翻訳家』の噂を聞いたぞ。シグルド様が予備の『鍵』として連れてこいと仰せだ。どこにいやがる!」
入ってきたのは、見覚えのある筋骨隆々の男――勇者パーティの重戦士、ガストンだった。攻略に行き詰まり、苛立ちを隠そうともせずに部屋へ踏み込んできた彼は、そこにいたレトの姿を見て目を見開いた。
「ハッ、やっぱり生きてやがったか、レト! 運のいい野郎だ。ちょうどいい、シグルド様が翻訳家を探してイライラしてんだ。お前のその薄汚いスキルで、さっさと扉を開けに来い」
そこには、謝罪もなければ再会を喜ぶ様子もない。あるのは、道具を再び手元に戻そうとする、傲慢な支配欲だけだった。
「……断る。俺はもう、お前たちの道具じゃない」
「あぁん? 何様だてめえ! 無能のくせに口答えしてんじゃねえぞ!」
ガストンが太い腕を振り上げる。塔を往復する手間に苛立っていた彼は、レトを強引に引きずってでも連れて行くつもりだった。
だが、その拳がレトに届くことはなかった。レトの視界には、すでにガストンの『攻撃の定義』が、剥き出しの文字列として表示されていたからだ。
第5話を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
シグルドたちは塔の攻略に詰まり、レトは街の英雄になりかけ……という、皮肉な状況になってきました。 そして、空気の読めないガストンの乱入。
「道具」としてしか見ていなかった相手に拒絶された時、彼はどう動くのか。 次回、レトの新しい力が「対人」で初めて振るわれることになります!
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