第24話:拠点のデバッグ(防衛戦)。押し寄せるジャンクの嵐
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賢者ゼクスとの魂の取引を経て、最強の神器『真説シルフィード』を手に入れたレト。 しかし、彼が拠点『デバッグ・ラボ』へ戻るや否や、自由領ノアのハイエナたちが牙を剥きます。
押し寄せる百人の武装集団と、巨大な魔導兵器。 かつては逃げることしかできなかったレトですが、今の彼には、進化したアイリスと、概念すらも切り裂く「翻訳」の剣があります。 「ここは俺たちの家だ」――大切な場所を守るため、レトが初めて見せる、圧倒的な「支配者」としての戦いをご覧ください!
自由交易領ノアの空を、汚濁した魔力の雲が覆っている。賢者ゼクスの工房で「真説シルフィード」を鍛え上げ、アイリスと共に自らの拠点『デバッグ・ラボ』へと帰還したレトを待っていたのは、静寂ではなく、金属が擦れる不快な咆哮と、幾重にも重なる殺意の波だった。
「……マスター。ラボの周囲、半径三百メートルが完全に封鎖されました。対象はノア最大のジャンク・ギルド『スクラップ・スカル』。構成員約百二十名、および改造魔導兵器『スクラッパー』が八体。……目的は、マスターが構築した拠点の強奪、および私の『コア』の回収と推測されます」
アイリスの瞳が、戦闘モードの深紅へと染まる。背中の光の翼が低く唸りを上げ、周囲の魔力粒子を吸い込み始めた。
ラボの正面、ガラクタの山から躍り出たのは、全身を機械の義肢で武装した大男――ギルドのリーダー、ガザだった。彼はレトが作り変えた白銀の工房を、欲望に濁った目で見つめている。
「へっ、ただの廃墟が一晩で宝の山に変わりやがった。……ガキ、その場所と、後ろのイカした人形を置いていきな。そうすりゃ、命だけは助けてやるぜ?」
ガザの背後で、重機を無理やり人型に組み替えたような、全高五メートルの魔導兵器が駆動音を上げた。レトは無言で腰のシルフィードを抜いた。翠色の刀身が、夜の闇に鮮やかな軌跡を描く。
「……悪いな。ここは俺たちの『家』だ。ゴミ溜めに変えさせるわけにはいかない」
「ハッ、死ねよ! 全員、突っ込め! ラボを壊しすぎるんじゃねえぞ!」
ガザの号令と共に、百人を超える荒事師たちが一斉に放たれた。同時に、魔導兵器『スクラッパー』が巨大な鉄球を振り回し、建物の壁を粉砕せんと迫る。
「アイリス、同期開始! 拠点の防御定義を俺の翻訳に接続しろ!」
「了解。マスターとの思考同期率、九八パーセント。……翻訳空間、展開します」
レトが剣を地面に突き立てた。その瞬間、ラボを中心に黄金の文字列が円環となって広がり、押し寄せる敵軍を飲み込んだ。
「翻訳――因果の拒絶。この空間において、俺たちが許可しない『破壊』の概念を一時的に凍結する!」
信じがたい光景が起きた。スクラッパーが振り下ろした数トンの鉄球が、ラボの壁に触れた瞬間、まるで綿菓子のようにフワリと弾け、攻撃力を失ったのだ。銃弾は空中で停止し、魔法の火炎は色鮮やかな花びらへと書き換えられて霧散する。
「な、なんだ!? 攻撃が通じねえぞ! 何をした!」
「……次は、俺の番だ」
レトが地を蹴った。アイリスとの同期により、彼の視界には敵の「構造」が透けて見えている。どこを斬ればその存在が「無効化」されるのか。その正解が、網膜に直接表示されていた。
「一閃――翻訳」
レトの姿が消えた。いや、あまりの速さに視覚が追いついていない。翠の閃光がスクラッパーの巨体を通り抜ける。シルフィードは、鋼鉄を斬った手応えすら返さない。ただ、そこにあったはずの「硬度」と「結合」という定義を、一瞬で削除したのだ。
ガクン、と音を立てて、魔導兵器の巨体が豆腐のように崩れ落ち、ただの鉄のパーツへと還った。
「……バカな! スクラッパーの装甲は、竜の鱗並みの強度だぞ!? それを一撃で……!?」
「アイリス、残りの雑兵を無力化する。……殺さずに、戦意だけを『翻訳』しろ」
「了解。広域音声出力、および精神干渉波の再定義を実行。……聴け、バグ共」
アイリスが光の翼を扇状に広げた。彼女の口から放たれたのは、歌とも、機械音ともつかない、世界の基底振動そのもの。それを浴びた荒事師たちは、突如として武器を取り落とし、その場にへなへなと座り込んだ。彼らの脳内にある「攻撃心」というパラメータが、アイリスの演算によって一時的に「零」へと書き換えられたのだ。
「……化け物め! 総員退却だ! こんな奴らとやり合えるか!」
ガザが悲鳴を上げて逃げ出そうとする。だが、レトは逃がさなかった。一瞬で背後に回り込み、シルフィードの切っ先をガザの喉元に突きつける。
「……ガザと言ったか。あんたたちには、これからこの街の『バグ』を直すための労働力になってもらう。……死ぬよりはマシだろ?」
「……あ、ああ……分かった、従う! 命だけは……!」
一分足らずで、ノア最大のギルドは沈黙した。
戦いが終わった後、レトはアイリスと共に、損傷一つないラボの屋上に立った。足元には、レトが「翻訳」によって強制的に改心、あるいは従属させた荒事師たちが、ラボの周囲の清掃と整備を始めている。
「……マスター。拠点の完全安定を確認しました。また、今回の防衛戦のデータを元に、ラボの自動防衛システムをアップデート。これからは、私が眠っている間も、半径一キロ以内の脅威を自動で『無効化』することが可能です」
「お疲れ様、アイリス。……これでようやく、本当の意味でここが俺たちの拠点になったな」
レトは空を見上げた。十年前、聖女エレインが始めた世界の改竄。かつての賢者ゼクスが敗れ、多くの人々が依存させられたあの「物語」。
今の自分なら、その物語を終わらせることができるかもしれない。最強の剣、最高の相棒、そして誰にも侵されない聖域。王国の外側で、レトは着実に、反逆のための力を蓄えていた。
「……アイリス。明日から、本格的に例の『古代遺跡』の調査を始めよう。……聖女が隠した、この世界のソースコード……その正体を突き止める」
「御意、マスター。……あなたの歩む道に、最適な論理を。……どこまでも、お供します」
第24話を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今回はとにかく「新装備とアイリスがどれだけ強いか」を真っ向から描きました。 物理的な装甲を斬るのではなく、「硬いという定義」を斬り捨てるシルフィードの初陣、いかがでしたでしょうか? 相手の攻撃を花びらに変えたり、敵の戦意を「零」に書き換えたりと、レトの能力がもはや個人の戦闘能力を超え、「領域を支配する力」へと進化していることを描写しました。
また、倒した敵をそのまま拠点の「労働力」として再定義するあたりに、レトの合理性と、少しずつ増してきた「強者の余裕」を込めています。
次回は、第2編(延長戦)の最終話となります。 拠点を完全に掌握したレトが、第3編の舞台となる古代遺跡へと旅立つ直前の、嵐の前の静けさと新たな決意を描きます。
「圧倒的な無双っぷりが最高!」「アイリスとの連携がますます息ぴったり」と思っていただけましたら、ぜひ【ブックマーク】や【評価★】で応援いただけると、レトの次なるデバッグがさらに過激になります!




