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第23話:神話の再構築。翻訳剣・シルフィードの誕生

お読みいただきありがとうございます!


アイリスの覚醒に続き、レトが手にするのは「最強の牙」。 しかし、偏屈な賢者ゼクスが協力する裏には、彼自身の重すぎる過去がありました。


十年前、聖女エレインがこの世界の「記述」を書き換え始めたあの日。 かつてのゼクスが何を目撃し、何に敗れたのか。 失われた真実の断片をレトが「翻訳」で繋ぎ合わせたとき、時代を超えた遺志が一本の剣へと宿ります。 単なる武器の強化を超えた、魂の再構築の儀式が始まります!

 アイリスの再起動が完了し、青白い光が収束していく工房の中で、賢者ゼクスは自らの機械化された右腕を忌々しげに見つめていた。アイリスに施された「完全自律化」のアップデート。それは、この自由領ノアの技術を数十年分飛び越えた奇跡であったが、ゼクスの瞳には、成功の悦びよりも深い「飢え」が宿っていた。


「……若造。礼を言われる筋合いはねえと言ったはずだ。俺がお前に協力したのは、お前が持つその『翻訳』の力が、俺の長年の呪いを解くための唯一のマスターキーに見えたからだ」


 ゼクスは重い足取りで工房の奥へと向かい、分厚い耐火金庫をこじ開けた。中から取り出されたのは、真っ黒に焼け焦げ、原形を留めていない一枚の「魔導基盤」だった。


「……十年前、俺は王国の宮廷魔導師だった。聖女エレインが、この世界の『記述』を書き換え始めた初期の頃だ。俺はあいつのやり方に異を唱え、システムの裏口バックドアを暴こうとした。……だが、結果はこの通りだ。知識は焼かれ、仲間は消され、俺はこうしてガラクタを継ぎ接ぎして生き長らえる惨めな残骸になった」


 ゼクスの義眼が、激しく焦点を変えながらレトを射抜く。


「俺は、あいつが書き換えた『嘘の歴史』を元に戻したかった。だが、王国の管理コード(プロトコル)はあまりに強固で、俺の技術では表面を傷つけることすらできなかった。……だが、お前は違う。お前はコードを壊すんじゃない、その意味を『書き換えて』、最初から無かったことにできる。……だろ?」


 レトは沈黙し、ゼクスの差し出した焦げた基盤に触れた。そこには、かつてゼクスが命を懸けて守ろうとした「真実の断片」が、絶望的なノイズに埋もれて泣いていた。


「……ゼクスさん。俺がこれを『翻訳』すれば、あんたのやり残したことが完結するのか?」


「ああ。それは王国の基底システムにおける『最初の矛盾』を記したデータだ。だが、今の俺の目にはもう、ただの炭の塊にしか見えん。……もしお前がこれを読み解き、俺に『真実』を見せてくれるなら……アイリスの件、そしてこれからお前に施す『武具の錬成』、そのすべての対価として認めてやる」


 それは、賢者としての誇りと執念を懸けた、命の取引だった。レトは頷き、黄金の瞳を輝かせた。


「翻訳――深層サルベージ。焼失した文字列の推定復元、および論理階層の再構築……。ゼクスさんの意志を、今ここで具現化する!」


 十数分に及ぶ、極限の集中。レトの全身から汗が噴き出し、脳を直接焼かれるような負荷が襲う。だが、レトは手を離さなかった。やがて、黒焦げた基盤から一条の青い光が立ち上がり、空中にホログラムとなって浮かび上がった。


『……世界定義、第三節。人類の自由意志は、管理者の承認を……必要と……しない……』


 その一文を目にした瞬間、ゼクスの義眼から、オイル混じりの涙が零れ落ちた。 十年間、否定され続け、嘘だと断じられてきた自分の信念が、目の前の少年の手によって「真実」として再定義されたのだ。


「……ククッ、ハハハハ! そうか、俺は間違っていなかった……! エレイン、お前がどれだけ世界を縛ろうと、根源の言葉までは殺せなかったか……!」


 ゼクスは狂ったように笑い、やがて憑き物が落ちたような穏やかな顔で、自身の愛槌を握り直した。


「……十分だ、レト。お前は俺の人生を救った。……ならば、俺もお前の『剣』を、世界で唯一無二の神器に仕上げてやる。リ・デコードの職人が打ったというその『天風の息吹シルフィード』、出しな」


 レトは、二つに折れた状態から修復した愛剣を差し出した。ゼクスはそれを、先程復元された「古代の真実」の光の中に放り込んだ。


「これより行うのは、単なる物理的な強化ではない。お前の『翻訳』を媒介メディアとして、剣そのものに『論理貫通』の概念を付与する。……レト、お前の言葉を、この鋼に叩き込め!」


 ゼクスの槌が火花を散らす。レトはその火花の一つ一つに、自身の魔力と翻訳コードを注ぎ込んだ。


「翻訳――因果の超越。この剣を『切るための道具』から、『矛盾を断つための定義』へ昇華させろ! 特殊属性:概念切断デリート・エッジを付与!」


 工房全体が、嵐のような風に包まれた。風の中で、シルフィードの刀身が透き通るような翠色へと変色し、その表面には流れるような古代文字のパッチワークが刻まれていく。


「さらに追加定義――アイリスとの直結通信回路ダイレクト・リンク! 彼女の演算速度をそのまま剣の鋭さへ変換しろ!」


 アイリスが背中の光の翼を広げ、剣に向かって情報の奔流を流し込む。


 ガキン、という次元が鳴動するような音が響き、すべてが収束した。レトの手元に戻ってきたのは、もはや剣と呼ぶにはあまりに美しく、あまりに禍々しい光を放つ一本の「解答」だった。


【名称:翻訳剣・真説シルフィード】 【状態:因果律干渉兵器】 【特性:物理防御および魔法障壁の『論理無効化(無視)』】 【※特殊機能:アイリスとの同期シンクロによる、一秒間に一億回の『自動デバッグ斬撃』】


「……これが、俺の新しい力」


 レトが軽く剣を振ると、空気が「悲鳴」を上げた。切ったのは空気ではない。その場に存在した「空間の定義」そのものを一瞬だけ断ち切ったのだ。


「……完成だ。これなら、聖女の作り上げた『偽りの結界』も、紙同然に切り裂けるだろう。……行け、レト。お前の物語を、お前の言葉で完結させてこい」


 ゼクスは満足そうに、自らの作業椅子に深く腰掛けた。対価は支払われた。そして、レトは最強の相棒と、最強の牙を手に入れた。


「……ありがとうございます、ゼクスさん。この恩は、聖女の喉元をこれで貫くことで返します」


 工房を出たレトの瞳には、迷いは一切なかった。かつて「無能」と蔑まれ、すべてを奪われた荷物持ちは今、世界そのものを書き換える「神話の執筆者」として、真の反撃を開始する。


 だが、ノアの街を出ようとする二人の前に、巨大な影が立ちはだかった。自由領の利権を握るマフィアでも、王国の追手でもない。それは、レトが「翻訳」した強大な魔力の揺らぎを感知して目覚めた、古代の「管理ガーディアン」の咆哮だった。


「……マスター。新しい装備の実戦テストには、丁度いい相手のようです」


「……ああ。試してみようか、シルフィードの『切れ味』を」

第23話を最後までお読みいただき、ありがとうございました。


今回は、物語の整合性を高めるため、聖女の台頭とゼクスの挫折を「十年前」に設定しました。十年前、若きエレインが彗星のごとく現れ、世界を塗り替えていった恐怖。その生き証人であるゼクスが、レトに自らの夢を託す展開に重みを持たせました。


完成した『真説シルフィード』は、もはや物理的な硬さではなく「相手の存在定義を無視して切る」という、翻訳家ならではのチート武器となりました。アイリスとの同期機能も加わり、二人のコンビネーションはさらに加速します。


「賢者の過去が意外と深かった」「新しい剣の能力がワクワクする」と思っていただけましたら、ぜひ【ブックマーク】や【評価★】をいただけると、次回の初陣での無双っぷりがさらに派手になります!

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