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第21話:自由領ノア、混沌の洗礼

お読みいただきありがとうございます!


今回から舞台は一変、アストラル王国の外側に位置する自由交易領『ノア』へ。 聖女の支配が及ばない代わりに、無数の古い規格が衝突し、街全体が「巨大なバグの溜まり場」と化した混沌のジャンク・シティです。


王国の追手を振り切ったレトが最初に行ったのは、なんと「自分の家」を翻訳で作ること!? かつての荷物持ちが、瓦礫の山を世界最高の工房へと作り変える。新章・拠点構築編、開幕です!

 国境の関所を越え、数日間の荒野行を経て、レトとアイリスの眼前に現れたのは、巨大な「鉄の墓場」のような街だった。自由交易領『ノア』。そこは、アストラル王国の整然とした石造りの街並みとは対極にある、欲望と活気が剥き出しになった巨大なジャンク・シティだ。古い魔導機械の残骸が建材として積み上げられ、至る所から蒸気と魔力の放電が吹き上がっている。


「……マスター。ノア市街地のスキャンを完了。驚くべきことに、この街には統一された『都市管理システム』が存在しません。各区画が独立した、あるいは互いに干渉し合う無数の古いプログラムの集合体です。……一言で言えば、街全体が『巨大なバグの巣窟』です」


 アイリスが無機質な瞳で街を俯瞰する。レトはその言葉を聞き、皮肉な笑みを浮かべた。王国では「バグ」として排除されていたものが、ここでは日常の風景として、無理やり動かされている。


「聖女が統治を諦めた場所、か。……確かにここなら、俺たちが何をしても王都の監視網には引っかかりにくそうだ」


 レトが街の入り口を潜ると、即座に「洗礼」が訪れた。広場に設置された、本来は「行先案内」を表示するはずの巨大な魔導ビジョンが、バチバチと火花を散らしながら、不快なノイズを周囲に撒き散らしているのだ。


「おい、またこれかよ!」「この装置が狂うと、地下の換気ファンまで止まっちまうんだ。誰か直せる奴はいねえのか!」


 集まった住人たちが罵声を浴びせている。レトはふらりとその装置に歩み寄った。


【対象:多目的魔導表示機(型式不明・改造多数)】 【状態:暴走(致命的なデッドロック)】 【原因:三つの異なる言語体系(古代語・王国公用語・自由領隠語)が、同一ラインで競合しています】


(……めちゃくちゃだ。誰かが無理やり、別の時代の機能を繋ぎ合わせたせいで、言葉が喧嘩してる)


 レトは周囲の目を気にせず、装置の基盤へと手を触れた。この数週間の逃亡生活で、レトの「翻訳」は、触れずともその対象の深層まで意識を潜らせるほどに研ぎ澄まされていた。


「翻訳――言語統一トランスレート。互いに排他的な三つの文脈を、一つの『多重定義』として統合。……意味の衝突を回避しろ」


 レトの指先から、金色の文字列が吸い込まれていく。荒れ狂っていた魔導ビジョンの画面が、一瞬で凪いだ。そして、それまで誰も見たことがないほど鮮明な色彩で、街の地図と空気清浄システムの稼働状況を表示し始めた。


「……直った。いや、前より綺麗になってやがる……!」


 驚愕する住民たち。だが、レトは彼らが問いかける前に、その場を離れた。今の目的は目立つことではない。今後の拠点となる「場所」を確保することだ。


 街の最下層に近い、薄暗いジャンク街の一角。そこに、かつては「工房」だったと思われる、鉄錆に覆われた廃墟があった。


「……マスター、この地点の選定理由を尋ねます。環境指数は最低ランク、魔力供給ラインも寸断されています」


「ここがいいんだよ、アイリス。……誰からも見放された場所なら、俺の『翻訳』で、ゼロから世界を書き換えられる」


 レトは崩れかけた扉を開け、埃の積もった広い空間の中央に立った。かつての「荷物持ち」だったレトには、自分だけの城など夢のまた夢だった。だが今、その手には、不可能な現実を書き換える力がある。


「アイリス、手伝ってくれ。ここを俺たちの『最前線基地フロントライン』にする」


 レトは深く息を吸い込み、両手を広げた。これまでの「部分的なデバッグ」ではない。空間そのものに干渉する、大規模な「空間翻訳」の試行だ。


「翻訳――拠点構築ビルド。この空間の『ゴミ』を『素材』へ、『崩壊』を『再構築』へ定義変更! 空気を浄化し、断絶した魔力経路を強引に再接続リコネクトしろ!」


 爆発的な魔力の波動が、廃墟の中を吹き抜けた。転がっていた鉄屑がひとりでに浮き上がり、複雑な機械装置へと形を変えていく。腐り落ちた柱は強固な合金の柱へと変貌し、真っ暗だった天井には、レトの魔力から抽出された「擬似太陽光」が輝き始めた。


「……信じられません。物理法則を無視した、極めて非効率的かつ『神業的』な再構築です。マスター、建物の防御レベルが、王国の城塞都市に匹敵する強度にまで引き上げられました」


「これなら、バルガスさんから教わった鍛冶や、あんたのメンテナンスも落ち着いてできる。……ここを『デバッグ・ラボ』と名付けよう」


 瓦礫の山だった場所は、数分で世界最先端の魔導工房へと変貌した。だが、その急激な「定義の変動」は、自由領ノアの闇に潜む連中の目を惹きつけるには十分すぎた。


「……ヘッ、面白い『魔法』を使うガキが入り込んだもんだな」


 工房の影から、幾つもの不穏な視線が向けられていることに、レトは気づいていた。王国の秩序に縛られないこの街では、力こそが法だ。レトが手に入れたこの「拠点」は、街の利権を握るマフィアや、狂気的な研究者たちの標的となる。


 しかし、レトに恐れはなかった。自分とアイリスを阻むバグがあるなら、そのすべてを翻訳して、自分の糧にするだけだ。


「……さあ、始めようか。俺たちの、本当の反撃準備を」

第21話を最後までお読みいただき、ありがとうございました。


第2編の「延長戦」として、自由領でのサバイバルと拠点作りを描き始めました。 これまでは「誰かに用意された場所」で戦ってきましたが、今回ついに、レトとアイリスだけの聖域ラボが誕生しました。


何もない廃墟を、言葉の力だけで一瞬にして最高級の魔導工房へ書き換えるシーンは、書いていても非常に爽快でした。しかし、目立ちすぎる力は、この街に巣食う荒事師たちの関心を引いてしまいます。


次回からは、この拠点を守りつつ、アイリスの機能拡張や最強の装備作りを深掘りしていきます。 「自分だけの拠点作りはワクワクする!」「ノアの街の雰囲気が好き」と思っていただけましたら、ぜひ【ブックマーク】や【評価★】をいただけると、ラボの防衛システムがさらに強化されます!

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