第20話:国境突破、書き換えられた通行証
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第2編【街のデバッグ編】、ついに完結です! リ・デコードの街を救い、聖騎士の追撃を振り切ったレトとアイリス。しかし、王国の出口である「鉄鎖の関所」には、聖女エレインが直々に用意した、過去最大級の包囲網が待ち構えていました。
絶体絶命の窮地でレトが手にしたのは、名もなき村で託された一枚の古いメダル。 そこに刻まれた「先代」の意志が、最新のシステムに風穴を開けます。物理法則さえも書き換える、レトの乾坤一擲のデバッグ・アクションをお見逃しなく!
王国の南端、そそり立つ絶壁の合間に築かれた巨大な門――『鉄鎖の関所』。そこは、聖女エレインが統治するアストラル王国と、未開の資源が眠る自由交易領を隔てる唯一の陸路である。普段ならば商人たちの活気で溢れるはずのその場所は今、異常なまでの物々しさに包まれていた。
「……マスター。関所全域に『高深度空間スキャン』が展開されています。さらに、物理的な防壁の背後には、聖女直属の魔導兵が一個大隊規模で展開。彼らの照合対象は、我々の生体波長に完全に一致しています」
アイリスがフード越しに冷徹な分析を告げる。レトは岩陰から関所の様子を伺った。かつての「荷物持ち」だった頃、何度か勇者シグルドの後ろについて通ったことがある場所だ。当時は顔パス同然だったが、今のレトは「世界を壊す最重要指名手配犯」である。
「カインが敗れたことが、もう伝わってるな。……このままじゃ、一歩踏み出した瞬間に魔法の集中砲火を浴びる」
レトは懐から、名もなき村の老婆から託された古いメダルを取り出した。煤けてはいるが、そこには「天秤と剣」の紋章が刻まれている。レトが集中力を高め、そのメダルの「内部構造」へと意識をダイブさせた。
【対象:旧式管理メダル(型式:Royal-Legacy-00)】 【属性:システム・バイパス・キー】 【※隠蔽ファイル:『先代聖女』による、緊急時用のバックドア・パスワードを検知】
「……先代聖女? エレインの前の……?」
「マスター、そのデータ……! 現在の王国の管理システムが構築されるよりも前に、基底OSレベルで埋め込まれた特権命令です。エレインによる『上書き』が及んでいない、唯一の聖域といえます」
レトの心臓が激しく鳴った。エレインは完璧に世界を支配しているように見えたが、その足元には、過去の遺産という名の「消し忘れ」が残っていたのだ。
「アイリス、このメダルのコードを俺の『翻訳』で増幅して、関所のシステムに流し込めるか?」
「可能です。ただし、同期のために三〇〇秒間の静止状態が必要となります。その間、マスターは無防備な状態に晒されます」
「やってくれ。……これ以上、国内で足踏みしてる時間はない」
二人は夜の闇に紛れ、関所の外壁へと接近した。レトは壁の魔力伝導路に直接手を触れ、メダルを介して自身の魔力を流し込む。
「翻訳――管理者権限の偽装。古い文脈を呼び起こし、現在の『拒絶』を『承認』に書き換えろ!」
レトの脳内に、激流のような情報が流れ込んできた。『認識……Royal-Legacy。権限:レベルSSSを確認。……現在実行中の「指名手配犯・レト」の検知ルーチンを一時停止します』
(いける……!)
だが、その瞬間。関所の中央に設置された巨大な魔導水晶が、真っ赤な警告色を放ち始めた。
「……っ!? アイリス、何が起きた!」
「警告! 聖女エレインによる『動的パッチ』の適用を検知! 彼女は遠隔地から、この旧式コードをリアルタイムで『無効化』しに来ています。演算速度が追いつきません!」
「……やっぱり、黙って通してはくれないか……!」
関所の扉が開き、重装歩兵たちが雪崩のように出てくる。上空からは魔導兵たちが詠唱を開始し、夜空が魔法の光で白く染まる。
「見つけたぞ! 反逆者レトだ! 聖女様の御名において、その場を動くな!」
兵士たちの叫び。逃げ場はない。レトはメダルを握り締め、歯を食いしばった。
「……エレイン、あんたが世界を『固定』したいなら、俺はそれを『流動』させてやる!」
レトは「翻訳」の矛先を、自分たちではなく、関所そのものを形成する「地形」と「物理定数」へと向けた。「翻訳――環境定義の攪乱! 鉄の門を『紙』へ、石の床を『沼』へ、重力のベクトルを『水平』へ再定義!」
あり得ない光景が広がった。 突撃してきた兵士たちが、突然「底なし沼」へと変わった石畳に足を取られ、溺れ始める。上空の魔導兵たちは、重力の向きが横へと変わったことで、壁に向かって真っ逆さまに「墜落」していった。そして、堅牢を誇った鉄の門が、風に揺れる紙のようにヘニャリと折れ曲がる。
「……何が起きているんだ!? 世界が……バグっているぞ!」
指揮官の悲鳴が響く。
「アイリス、今だ!」
「了解。ブースト展開。最短ルートでの突破を敢行します」
アイリスがレトの手を引き、紙のように折れ曲がった門を駆け抜ける。足元の「沼」はレトたちが通る瞬間だけ「硬い地面」へと再翻訳され、二人を彼方へと送り出す。
関所の向こう側。そこは、これまでの王国の整然とした空気とは異なる、荒々しく、しかし自由な風が吹く荒野だった。
「……ハァ、ハァ……。やったのか?」
背後を振り返ると、関所はレトが残した「局所的なバグ」によって、今なお混乱の極みにあった。聖女のシステムが懸命に復旧を試みているが、物理現象そのものを歪められた被害は、そう簡単には直らない。
「マスター。王国領からの完全脱出を確認。……現在、私たちは自由交易領『ノア』の境界内に位置しています」
アイリスの声に、レトはようやく安堵の息をつき、膝をついた。右手には、役目を終えて砕け散った古いメダルの破片。
レトはこの一件で理解した。聖女の支配は、盤石ではない。彼女が恐れているのは、自分のような「例外」が、過去の真実に触れることなのだ。
「……自由交易領。ここなら、聖女の影響力も届きにくいはずだ」
「肯定。しかし、追手は止まらないでしょう。……そしてマスター、私の解析によれば、この先に待つ『遺跡群』には、マスターのスキルをさらに進化させる『神のパッチ』が眠っている可能性があります」
レトは立ち上がり、遥か地平線を見つめた。 人助けを通じて磨き上げた「翻訳」の力。それは今、世界の深層へとアクセスするための鍵へと変わっていた。
「……行こう。次は、この世界を作ったヤツらの正体……『神の遺言』とやらを拝んでやる」
少年の背中は、もはや追放された荷物持ちのそれではない。世界そのものを書き換える「反逆の翻訳家」として、彼は新たな、そしてより過酷なステージへと足を踏み入れた。
第20話を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
これにて【第2編:街のデバッグ編】が終了となります。 荷物持ちとして追放されたレトが、街のインフラを直し、病を救い、職人の誇りを取り戻し……最後には王国の強固な「物理定義」すらも翻弄して見せました。
特に終盤の「門を紙に変え、重力を横に向ける」という荒業は、レトがもはや一介の魔法使いではなく、世界のルールそのものに干渉できる存在になったことを示しています。
次なる舞台は【第3編:深層へのアクセス(遺跡・探索編)】。 王国の外、自由交易領へと足を踏み入れた二人は、世界の「ソースコード」が眠る古代遺跡へと挑みます。アイリスのさらなる機能拡張や、世界の創造主に関わる新事実など、物語はより深く、加速していきます!
「第2編完結おめでとう!」「次の遺跡編も楽しみ!」と思っていただけましたら、ぜひ【ブックマーク】や【評価★】をいただけると、第3編の執筆に凄まじいパッチが適用されます!




