表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/26

第2話:氷の下のシステム・インターフェース

お読みいただきありがとうございます!


第1話ではどん底まで突き落とされたレトですが、今回、ついにこの物語のメインヒロインが登場します。 「翻訳」スキルの真の力が、少しずつ明らかになっていく様子をお楽しみください。

 網膜に焼き付いた無数の文字列が、レトの思考を侵食していく。 今まで学んできたどの国の言語とも違う。それは、この世界を構成する「ことわり」そのものの羅列だった。


「……再構築リライト、って……どうすればいいんだ?」


 震える指先で、目の前の空中を漂う『エラー』の文字に触れる。 その瞬間、レトの意識は深く、暗い「世界の深層」へと引きずり込まれた。


『実行コード:【破損した壁の修復】を承認しました。翻訳、および置換を開始します』


 再び無機質な声が響く。 すると、崩れ落ちていた岩の欠片が、まるで時間を巻き戻すかのように浮き上がり、元の形へと収まっていくではないか。


 物理法則を無視した光景に、レトは息を呑んだ。 単なる修復ではない。瓦礫は元の石壁よりもさらに強固な、白磁のような質感へと「翻訳」されていた。


 壁が修復されたことで、その奥に隠されていた「空間」が姿を現す。 そこは、塔のどの階層とも違う、静謐せいひつな青い光に満ちた小部屋だった。


 部屋の中央。 巨大な水晶のような氷柱の中に、その「少女」はいた。


「……誰、だ……?」


 レトは吸い寄せられるように氷柱へ近づく。 白銀の長い髪、透き通るような肌。 少女は目を閉じ、祈るような姿勢で凍りついていた。


 その胸元には、ひときわ大きく、赤いエラーメッセージが点滅している。


【重要オブジェクト:システム・インターフェース(仮称:アイリス)】 【状態:永久フリーズ(内部クロック停止)】 【原因:管理権限者の不在によるシステムロック】 【※致命的なエラー。世界ログを翻訳し、実行ランしますか?】


 レトは理解した。 彼女は、この塔が作られた遥か昔から、誰かに見つけられるのを待っていたのだ。  勇者の剣では決して届かない、この「翻訳」という鍵を持つ者だけを。


「……助けるよ。今の俺なら、きっと」


 レトは氷柱に両手を添えた。 脳が焼け付くような熱を帯びる。数万、数十万という文字列が意識を通り過ぎていく。


 ――『凍結フリーズ』を『解放リリース』へ。  ――『停止ストップ』を『再生プレイ』へ。


翻訳デコード……開始!」


 レトの叫びと共に、青白い光が部屋を埋め尽くした。パキパキと高い音を立てて、巨大な氷柱に亀裂が走る。砕け散った氷の破片が光の粒となって舞う中、少女の体がゆっくりと地面へと降り立った。


 やがて、長い睫毛が震え、彼女の瞳が開かれる。それは、深い海のような、どこまでも透き通った青色だった。


「…………個体名:レト、を確認」


 少女は鈴の鳴るような声で、レトの名前を呼んだ。


「管理権限の譲渡を検知。……おはようございます、マスター。第〇二一五世代・管理端末アイリス、只今より起動いたします」


 彼女はスカートの裾を掴み、優雅に一礼した。その動作は完璧すぎて、どこか現実離れしている。


「アイリス……。君は、一体……」


「私は世界の歪みを正し、システムの正常化を補助する存在です。……ですが、マスター。再会を祝す前に、一つ忠告を」


 アイリスの視線が、レトの背後の暗闇へと向けられる。そこには、先ほど扉が壊された騒音を聞きつけた、塔の魔物たちが集まってきていた。


 ランクBの魔獣、シャドウウルフ。勇者パーティが難なく蹴散らしていた相手だが、装備も武器も失った今のレトにとっては、死神に等しい存在だ。


「マ、まずい……! アイリス、下がってろ!」


 レトが彼女を庇うように前に出るが、アイリスは表情一つ変えない。


「問題ありません。マスターには、既に『書き換え』の権限があります。……あの個体の『ステータス』を、マスターの望むように翻訳してください」


「翻訳……? あんなバケモノをどうやって!」


 迫りくる魔獣の爪。レトの視界に、再びプレートが浮かび上がる。


【個体名:シャドウウルフ】 【属性:影・攻撃特化】 【現在の定義:殺戮者】


 レトは無意識に、その『殺戮者』という三文字を、頭の中で別の言葉に置き換えた。今の自分にとって、最も無害で、最もありえない言葉へ。


「翻訳――定義変更リライト! お前は……ただの『子犬』だ!」


 瞬間。  飛びかかってきた魔獣の体が、空中で光に包まれた。ドサリ、と床に着地したのは、漆黒の巨大な狼ではない。ふわふわの毛並みを持った、手のひらサイズの小さな子犬だった。


「……キャン?」


 キョトンとした顔で首をかしげる子犬。 レトは呆然とその場に立ち尽くした。


「……嘘だろ。本当に書き換わったのか?」


「はい。マスターが世界の理を正しく翻訳した結果です」


 アイリスが静かに隣に並び、レトを見上げた。


「おめでとうございます、マスター。これであなたは、この不完全な世界の『唯一の修正者』となりました」


 勇者に捨てられ、すべてを失ったはずの場所。そこは、世界最強の力と、最強の相棒を手に入れる始まりの場所へと変わっていた。

第2話をご覧いただき、ありがとうございました!


最強の相棒(?)アイリス、そして常識外れの書き換え能力。 ここからレトの逆転劇が加速していきます。


もし「アイリスが可愛い!」「続きを早く読みたい!」と思っていただけましたら、ブックマークや評価での応援をぜひお願いいたします! 執筆のガソリンになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ